用語の解説
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アカシジア akathisia
錐体外路症状(パーキンソニズム)の一つで静座不能症とも言われる。落ち着きなく執拗に歩き回る,持続的に立ったり座ったりする,焦燥感,易刺激性,不安などの不快な精神症状を示す。
精神症状の悪化と誤診されやすいが,非定型抗精神病薬でも出現することが多い。
暁現象 Dawn phenomenon
明け方に血糖が上昇する現象。生理現象として午前3時~5時頃に,インスリン分泌を低下させる成長ホルモンや糖新生を増加させるコルチゾールの上昇が始まる。この時,正常人の場合は,基礎分泌インスリンが増加し,血糖値の上昇に対応できるが,内因性のインスリンが無いか少ない糖尿病患者の場合は,インスリンが不足し,血糖値を上昇させる。
悪性症候群 Malignant syndrome(Syndrome malin)
抗精神病薬・抗うつ薬の投与開始,減量,中止,再開後の1~30日に発生(多くの場合1週間以内に発生)により,高熱,意識障害,筋強直,横紋筋融解などをきたす症候群(副作用)。原因薬剤としてパーキンソン治療薬も報告されている。主な症状として,大症状(発熱,筋強直,CK 値の上昇)と小症状(頻脈,頻呼吸,血圧異常,意識変容,発汗,白血球増多)がある。予後は重篤になることもあり,意識障害・呼吸困難・脱水症状等を呈し,致死的になる場合もある。
アゴニスト Agonist
受容体と結合して受容体の立体配座の変化をもたらし,ついで細胞内情報伝達機構を介して,種々の生理作用を示す物質を言う。すなわち,受容体に結合して組織反応を引き起こすような薬物のことで,活性薬・作動薬・作用薬とも呼ばれている。活性化度が生体内物質と同様で完全な活性を発揮するものをフルアゴニスト,活性化度が生体分子に比べて低く作用も弱いものをパーシャルアゴニスト(Partial Agonist),または部分作動薬と言う。
→アンタゴニスト;パーシャルアゴニスト
アシドーシス Acidosis
血液・体液の pH が正常域(7.35~7.45)より低下した状態をいう。血液の pH 調整は肺からの揮発酸(炭酸ガス)の排泄,腎からの不揮発酸(リン・乳酸等)の排泄,または肝代謝に依存している。揮発酸の排出障害による血液 pH の低下を呼吸性アシドーシス,不揮発酸に対する生体処理能力の低下,生産過剰に基づく血液 pH の低下を代謝性アシドーシスという。代謝性アシドーシスの原因は,糖尿病・腎不全や腎臓からの HCO3- の喪失・下痢等で意識障害・血圧降下・肺浮腫がみられる。呼吸性アシドーシスの原因は重篤な肺炎・急性肺浮腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)で過呼吸・努力呼吸・チアノーゼ等の症状が認められる。
→アルカローシス;チアノーゼ;COPD
アスピリン喘息 Aspirin induced asthma
NSAIDs により誘発する気管支喘息発作をいう。原因は NSAIDs がシクロオキシゲナーゼを阻害することでアラキドン酸カスケードの PGs(Prostaglandins)合成系が抑制され,一方でロイコトリエン合成が促進され,化学反応物質 SRS-A が増加し過敏症が引き起こされるといわれている。
アディポネクチン Adiponectin
脂肪組織が産生・分泌するアディポサイトカインの一種。骨格筋,肝臓では脂肪酸の燃焼および糖の取り込み促進によるインスリン抵抗性の改善,動脈では血管内膜肥厚抑制などによる動脈硬化の抑制などの作用を持っている。脂肪細胞が肥大すると分泌が抑制され,メタボリックシンドロームとの関連性が指摘されている。
→1型糖尿病/2型糖尿病;メタボリックシンドローム
アテローム変性 Atheromatosis
大動脈や脳動脈,冠動脈などの比較的太い動脈に起こる動脈硬化症で,動脈の内膜にコレステロール等の類脂肪脂質の沈着度が高まり,かつ動脈壁の繊維成分の変化が起こり,粥状に肥厚したものである。
→アディポネクチン;メタボリックシンドローム
アドヒアランス Adherence
患者が医療や薬に対し十分な理解のもと,治療方針の決定に賛同し,積極的に治療を受けること,。患者自身が病気を理解し,治療に対しても主体的に関わることで,より高い治療効果が期待できる。これに対し,コンプライアンスとは,患者が医療従事者の指示通りに服薬を実施,継続すること。服薬アドヒアランスのように用いる。
アトピー性皮膚炎 Atopic dermatitis
掻痒のある湿疹が慢性的に憎悪,寛解を繰り返す疾患。病態として,皮膚バリア機能異常として機能低下があり,そのためアレルゲンが体内に入りアレルギー炎症を起こす。搔痒を示すがその原因は多様であり,ヒスタミン以外の因子が考えられている。症状としては,顔や体に湿疹ができ,かゆみやそれに伴う痛みが絶えない。原因については,食物やダニ等が引き金になって起こる説と接触皮膚炎等の説があるが解明されていない。
→アレルギー
アドレノメデュリン Adrenomedullin(AM)
持続時間が30~60分と持続する1993年にヒト褐色細胞腫より発見された降圧作用を示す生理活性ペプチド。この降圧作用は,最も強力な血管拡張性の降圧ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に匹敵することから,アドレノメデュリンが生体内でも重要な役割を果たしているものと考えられている。
アナフィラキシー Anaphylaxis
アナフィラキシーとは,「アレルゲン等の侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与え得る過敏反応」と定義される(日本アレルギー学会)。
ある抗原によって感作された生体が,再びその抗原にさらされたとき,その抗原が肥満細胞や好塩基球に固着した抗体(ヒトの場合は IgE 抗体)と反応し,これらの細胞から脱顆粒によってヒスタミン等の化学伝達物質が放出され,全身に急激な症状を引き起こし,生命に危険な過敏反応を示す現象をいう。
→アレルギー
アポトーシス(アポプトーシス) Apoptosis
多細胞生物の体を構成する細胞が自己の持つプログラムを作動させて自殺する細胞死現象である。オタマジャクシがカエルに変態するとき尾部細胞が死ぬ現象や脊椎動物における指形成時に指間細胞が発生途上で死ぬ現象はアポトーシスの例とされる。また,癌化した細胞のほとんどはアポトーシスにより取り除かれているが,この機能が働かなくなり,細胞増殖すると癌化することがある。
アミロイド(類デンプン体) Amyloid
ナイロンに似た線維状の異常蛋白質で,病理学的にアルカリコンゴ赤染色で橙赤色に染まり,偏光顕微鏡下で緑色の複屈折を示すものである。この異常蛋白質が全身の様々な臓器に沈着し,機能障害をおこす病気をアミロイドーシスと称し,複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性のもの(全身性アミロイドーシス)と,ある臓器に限局してアミロイドが沈着する限局性のもの(限局性アミロイドーシス)に分類される。,全身アミロイド―シスとしては,免疫グロブリン 性アミロイドーシス(AL アミロイドーシス),AA アミロイドーシス,透析アミロイドーシス,家族性 アミロイドポリニューロパチー(FAP) ,老人性全身性アミロイドーシス(SSA) などがあり,限局性アミロイドーシスとしては,アルツハイマー病,脳アミロイドアンギオパチー,プリオン病などの脳アミロイドーシスなどがある。
→アルツハイマー病;プリオン;BSE
アリストロキア酸 Aristolochic acid
アリストロキア属の植物に含有される成分で,腎障害(アストロキア腎症)を引き起こすことが知られている。日本においては,現在,アリストロキア酸を含有する生薬及び漢方製剤は医薬品として承認許可を受けたものとしては製造・輸入されていないが,アリストロキア酸を含む漢方薬の個人使用によると疑われる腎障害が報告されている。厚生省の医薬品・医療用具等安全性情報(No.161)において,生薬の呼称は国により異なる場合があり,生薬の取扱いについての注意喚起がなされ,医薬品・医療用具等安全性情報(No.200)において,類似した名称の生薬が輸入され腎不全を起こしたとして注意喚起がなされている。(例:木通(アリストロキア酸含有なし)と本木通(アリストロキア酸含有),防已(含有なし)と木防已(含有)など)
アルカローシス Alkalosis
血液・体液の pH が上昇した状態。生体で産生される CO2量に比べ,肺胞より呼出される CO2量が過剰になった状態の呼吸性アルカローシスと塩基の過剰による代謝性アルカローシスに大別される。呼吸性アルカローシスの原因は,不安・頭部外傷・脳腫瘍・肺塞栓・肺炎・うっ血性心不全で,四肢知覚異常・テタニー・耳鳴り等の症状が現れる。代謝性アルカローシスの原因は長期間の嘔吐・原発性アルドステロン症や,乳酸・クエン酸・酢酸・HCO3-の投与等であり,症状は筋痙攣やテタニーである。
→アシドーシス;テタニー
アルキル化剤 Alkylating reagent
細胞障害性抗がん剤の一種。DNA 塩基と共有結合できるアルキル基部位を複数持ち,2本のDNA 鎖を結びつけることにより DNA の複製を妨げる。DNA の塩基,特にグアニンは求核性があり,一般的に求核置換反応で DNA 塩基とアルキル基が共有結合する。臨床的に白血病,悪性リンパ腫,肉腫などをはじめ各種のがん治療に用いられる。主なものとしてはシクロホスファミド,イホスファミド,ダカルバジン,テモゾロミド,ブスルファン,ニムスチン塩酸塩,メルファラン,チオテパなどがある。
アルゴリズム Algorithm
問題を解決する手順の流れを系統的に図式化したフローチャートのことである。各段階で選択すべき各項目の選択理由についての解説と根拠が提示されている。それらの中から適切な選択肢を選びながら臨床で実践していく手法。医学では診断や治療で使用され,アルゴリズムの導入によって科学的で客観的に進めることができる。プロトコールと呼ぶこともある。
アルツハイマー病 Alzheimer disease
ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーにより報告された,進行性の認知機能低下を引き起こす神経認知障害であり,大脳皮質および皮質下灰白質におけるβアミロイド沈着および神経原線維変化を特徴とする。認知症の最も一般的な原因であり,アルツハイマー型認知症は高齢者の認知症の60~80%を占める。
細胞外のβアミロイドの沈着(老人斑)と細胞内の神経原線維変化(paired helical filament)が最も重要な病態生理であり,βアミロイドの沈着および神経原線維変化がシナプスとニューロンの喪失につながり,その結果病変のある脳領域が大幅に萎縮する。最も頻度の高い初期症状は,短期記憶の障害であり,推論能力および複雑な課題を処理する能力の障害ならびに,判断力低下,言語機能障害,視空間認知障害などの認知症が現れる。,行動障害として徘徊,興奮,不安,抑うつ,被害妄想などが見られる。
→アミロイド;老人斑
アルドース還元酵素阻害薬 Aldose reductase inhibitor
血中のグルコースは,通常ヘキソキナーゼの解糖系で代謝される。しかし,糖尿病のような高血糖状態が続くと,もう一方の代謝系であるポリオール代謝系が亢進し,アルドース還元酵素によってソルビトールが増加する。生成したソルビトールは,神経のシュワン細胞に多く蓄積され,神経障害の要因になると考えられている。そのため糖尿病性の神経障害に対する治療法として,アルドース還元酵素を阻害しソルビトールの生成を抑えるアルドース還元酵素阻害薬が用いられる。
→αグルコシダーゼ阻害薬;インスリン抵抗性改善薬;1型糖尿病/2型糖尿病
α型ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(ハンプ) α-human Atrial Natriuretic Peptide(hANP)
心房で合成・貯蔵され血中に分泌さる。体液量及び循環調節に関与しているホルモンの1種である。心機能の低下に際して,動・静脈血管拡張作用,利尿作用及び RA(レニン-アンジオテンシン)系抑制作用等によって,前・後負荷を軽減し,心機能を改善する。
→脳性ナトリウム利尿ペプチド
αグルコシダーゼ阻害薬 α-Glucosidase Inhibitor(α-GI)
二糖類を単糖類(グルコース・フルクトース・ガラクトース)に分解する酵素(αグルコシダーゼ)を阻害する薬剤であり,糖の吸収を遅延させ食後の高血糖を抑制する。SU 剤やインスリンと併用されることもあるが,αグルコシダーゼ阻害薬による低血糖の際はショ糖ではなく,ブドウ糖で治療しなければならない。劇症肝炎や重篤な肝障害をおこすことがある。また,投与初期には下痢,放屁が多い。
→アルドース還元酵素阻害薬;インスリン抵抗性改善薬;1型糖尿病/2型糖尿病
αブロッカー α-Blocker
交感神経のα受容体に拮抗し,アドレナリン作動性神経に対し特異的に遮断する薬物。α受容体はさらに,α1受容体とα2受容体のサブタイプに分類されるが,αブロッカーには非選択的にα受容体を遮断するものとα1あるいはα2受容体に結合し,その作用を遮断するものとがある。
非選択的α遮断薬としてはトラゾリンがあり,α1受容体のみならずα2受容体をも遮断する。また,α1受容体遮断薬にはテラゾシン,ドキサゾシン,ブナゾシンなどがある。
α1アンチトリプシン欠乏症 alpha 1-Antitrypsin Deficiency:AATD
α1アンチトリプシン欠乏症は,肺の主要な抗蛋白分解酵素―α1アンチトリプシン―の先天的欠乏で,成人において蛋白分解酵素による組織破壊と気腫の増大を招く。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の遺伝的素因としても知られている。難病指定されている。
→COPD
アレルギー Allergy
抗原抗体反応によって引き起こされる全身的もしくは局所的な生体の異常反応である。複数臓器に全身性アレルギー症状が起こり,生命に危機を及ぼしうる過敏症状をアナフィラキシーと呼ぶ。血中抗体による液性免疫反応に基づくアレルギー(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ型)と感作リンパ球による細胞性免疫反応に基づくアレルギー(Ⅳ型)に大別される。このうち,Ⅰ型を即時型,Ⅳ型を遅発型ともいわれる。
→アトピー性皮膚炎;アナフィラキシー
アロマターゼ阻害薬 Aromatase inhibitor
卵胞ホルモン合成阻害薬のことである。閉経後,副腎皮質より分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)がアロマターゼによりエストロゲン(女性ホルモン)に変換される。このアロマターゼを阻害することで,エストロゲン産生を抑制し,乳がん細胞の増殖を抑える。このアロマターゼ阻害薬には,チトクローム P-450に結合し,阻害作用を示す非ステロイド化合物と,アロマターゼの基質であるアンドロゲン(androgen)に対して拮抗的に作用するステロイド類縁化合物の2種に分類される。現在,閉経後乳癌のみの適応であるが,その他には乏精子症治療・多嚢胞性卵巣症候群の排卵誘発・思春期早発症治療等にも臨床応用されている(保険適応外)。
安全域 Safety margin
50%致死量(LD50)と50%有効量(ED50)の比,LD50/ ED50を安全域または治療係数(Therapeutic ratio)といい,この値が大きいほど安全な薬といえる。薬物の毒性を単に致死量で評価するのではなく,有効量との関係で考えた方が合理的である。
アンタゴニスト Antagonist
受容体に結合し,本来結合すべきアゴニストと受容体の結合を阻害し,アゴニストの効果を阻害するが,それ自体は受容体と結合しても効果を発揮しない物質,拮抗物質。
→アゴニスト
アンチセンス Antisense
人工的に作った遺伝子「アンチセンス DNA(デオキシリボ核酸)」のことで,エイズウイルスや癌など特定の遺伝子が原因で起きる病気に対して,ウイルスや細胞を増殖する遺伝子に結合して,病気の原因となっているたんぱく質の生合成を妨げる作用を有する。
→アンチセンス RNA,HAART
アンチセンスRNA Antisense RNA
ある特定の遺伝子からつくられるメッセンジャー RNA に相補的な塩基配列を持ち RNA の働きを阻害する分子をアンチセンス RNA という。これを化学合成し,使用することにより遺伝子の活性を人為的に変化させることができ,疾患モデル動物の作成や遺伝子治療の手段(アンチセンス医薬)として応用されている。
→アンチセンス
アンテドラッグ Antedrug
科学的修飾により投与部位では活性を有し,循環系に入ると速やかに代謝されて不活化するか,または活性が低くなる物質。全身的副作用を軽減する目的で開発された局所適用の外用剤。
→イオントフォレーシス;コントロールドリリース;持続性製剤;ターゲッティング療法;プロドラッグ;DDS;TTS
アンチバイオグラム(抗菌薬感受性率表) Antibiogram
国,地域,病院,または病棟ごとに分離された細菌の薬剤感受性試験のデータを集計し,それぞれの菌種で各種抗菌薬について耐性,中間,感性の菌がどれくらいの割合であるのかを図や表にしたもの。
イオントフォレーシス Iontophoresis(IP)
電流を駆動力として,イオン化した薬物分子を組織に送り込む技術。皮膚に電圧をかけた時に流れる電流を駆動力として,イオン化した薬物分子が角質層内の電気抵抗の小さい毛嚢・汗腺・皮脂腺等を通り抜けることにより,薬物の皮膚透過が促進する。
→アンテドラッグ;コントロールドリリース;持続性製剤;ターゲッティング療法;プロドラッグ;DDS;TTS
1型糖尿病/2型糖尿病 Insulin Dependent Diabetes Mellitus / Non-Insulin Dependent Diabetes Mellitus
糖尿病の病型分類である。1型はインスリン依存型糖尿病(IDDM)で膵臓β細胞機能がほぼ廃絶しており,インスリン注射を行わなければ,直ちに生命に危険がおよぶ糖尿病であり,若年に発症することが多い。2型は非インスリン依存型糖尿病(NIDDM)でインスリン需要量が摂取カロリー過多等で増大し,膵臓β細胞のインスリン分泌がそれに見合って増加できず高血糖となり発症する。成人になって肥満を伴うことで発症することが多く生活習慣病のひとつである。これ以外にも,成因として遺伝因子としての遺伝子異常によるもの,他の疾患や条件(膵外分泌疾患,薬剤や化学物質等)によるもの,妊娠糖尿病がある。
→アディポネクチン;アルドース還元酵素阻害薬;αグルコシダーゼ阻害薬;インスリン抵抗性改善薬;メタボリックシンドローム
遺伝子診断 Gene diagnosis
遺伝子診断とは,遺伝子を検査することで,病気やその発症リスク,薬物の効果の診断などを行うことである。また,単に遺伝子疾患のみならず,ウイルスや細菌の DNA や RNA を検出することによって感染症の診断にも用いられている。従来,免疫学的に行われていた HLA の判定,法医学的な個人の判定,がん遺伝子の検出によるがんの診断にも用いられている。
→がん遺伝子
医療過誤
広く医療上に発生した事故を医療事故という。このうち医療に携わる者が業務上必要な注意義務を怠り,その結果の損害発生について過失があったとみとめられるものを,一般的に医療過誤と呼んでいる。法的には,民事上(不法行為等),刑事上(過失傷害罪等)および行政上(免許等)の責任の対象となる。
医薬品再審査制度 New drug reexamination system
新医薬品承認後,一定期間が経過した後に有効性及び安全性について製薬企業が実際に医療機関で使用されたデータを収集する使用成績等の調査を行い,その結果を再度審査する制度である。
医薬品の市販後使用実態を把握し,承認された効能効果及び安全性について,市販後の多種使用条件のもと,承認された効能効果,安全性について,再度,確認する制度。再審査の結果は,承認取り消し,効能効果の削除又は修正,特に措置なしの3つの措置がある。
医薬品・医療機器等安全性情報報告制度
日常,医療の現場においてみられる医薬品,医療機器又は再生医療等製品の使用によって発生する健康被害等(副作用,感染症及び不具合)の情報を医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律第68条の10第2項に基づき,医薬関係者が,厚生労働大臣に報告する制度。すべての医療機関及び薬局等を対象とした自発的な報告を収集するもので,いわゆる自発報告制度である。
因果関係が必ずしも明確でない場合であっても報告の対象となる。報告窓口は平成26年11月25日より厚生労働省から独立行政法人医薬品医療機器総合機構に変更となった。
医療廃棄物
医療機関で発生する廃棄物の総称をいい,廃棄物処理法にて規定される。法律上,「感染性廃棄物」と「特別管理廃棄物」に区分される。平成3年10月「特別管理廃棄物(一般及び産業廃棄物)」が新たに規定され,「爆発性,毒性,感染性,その他の人の健康又は生活環境に係わる被害を生ずる恐れがある性状」が明記され,それに基づき「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」が規定された。現在は,感染性廃棄物のうち,医療法,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律,結核予防法,医薬品医療機器等法,家畜伝染病予防法等によって規制される廃棄物はマニュアルの他,当該法に基づいて取扱う。
医療法
医療を受ける者の利益の保護と良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り,それにより国民の健康の保持に寄与することを目的とした法律である。そのため,医療の安全確保や病院,診療所及び助産所の開設や管理に関して必要な事項が定められている。また,施設整備並びに医療提供施設相互間の機能分担や業務の連携推進に必要な事項についても定められている。平成4年の改正で医療の担い手による医療提供の責務(第1条の4)が医療法に盛り込まれ,医療の担い手として薬剤師が明記された。
インクレチン Incretin
消化管より分泌される,GLP-1(glucagon-like peptide-1)などを含む消化管ホルモンの総称。血糖依存的にインスリンの分泌促進,グルカゴンの分泌抑制,胃の内容物排泄抑制作用などがある。現在糖尿病の治療薬として臨床応用されており,GLP-1分解酵素(DPP-4)阻害薬であり,経口薬として販売されている。また,2019年には時効型溶解インスリンアナログと GLP-1アナログの配合注射薬も新規に販売された。
インシデント Incident
一般的には,ある小さな出来事のことを意味する。医療の現場においては,患者に傷害を及ぼすことはなかったが,日常診療の場でヒヤリとしたりハッとしたりする事象をいう。例えば,事故が起こりそうな状況に前もって気づいた事例や,誤った措置が実施される前に気づいた事例,誤った措置が実施されたが何ら影響のなかった事例などである。
インスリン抵抗性改善薬
インスリン抵抗性を改善することで骨格筋における糖取り込みの促進,肝臓での糖新生の抑制作用を有し,膵臓からのインスリン分泌を刺激することなく,長期間安定した血糖コントロールを示す薬物である。内因性インスリンの有効利用によりインスリン非依存性糖尿病患者の空腹時血糖値を低下させ,同時に血中インスリン値も低下させる。ビグアナイド系,チアゾリジン系経口血糖降下剤が該当する。
→アルドース還元酵素阻害薬;αグルコシダーゼ阻害薬;1型糖尿病/2型糖尿病;アルドース還元酵素阻害薬
インスリン分泌促進薬
インスリンの分泌を促進する,また,GLP-1などを分解する酵素(DPP-4)を阻害することで 活性型 GLP-1濃度及び活性型 GIP 濃度を高めることで血糖依存的にインスリン分泌を促進しグルカゴン分泌を抑制することで血糖降下作用を示す。スルホニル尿素(SU)薬,速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬),DPP-4阻害薬が該当する。
→1型糖尿病/2型糖尿病:インスリン抵抗性改善薬:αグルコシダーゼ阻害薬:インクレチン
インタビューフォーム Interview form
添付文書を補完し,医療に従事する薬剤師が医療情報担当者から当該医薬品について説明を受け,討議する資料として提供されるもの。製薬企業によって作成される学術資料である。日本病院薬剤師会が策定している「医薬品インタビューフォーム記載要領」(製薬企業合意)に基づき作成されている。また,製薬工業協会はこの記載要領に基づき,「医薬品インタビューフォーム作成の手引(改正版)」を作成した。これは,平成29年6月に通知され,平成31年4月より適用される,添付文書等の記載要領の改正に基づき,新しい添付文書に対応した新しいインタビューフォームの作成に対応している。
→添付文書
インターフェロン Inteferon(IFN)
脊椎動物に広く分布するサイトカインの一種であり,抗ウイルス作用,細胞増殖抑制作用,抗腫瘍作用,免疫調節作用,細胞分化誘導作用等の生物活性をもつ。生体がウイルスに感染すると免疫担当細胞で速やかに産生,分泌される。α,β,γ,ωの4タイプがあり,抗ウイルス薬,抗がん薬,慢性肝炎などの治療薬として使用されている。
→ウイルス性肝炎
インターロイキン Interleukin(IL)
サイトカインの中の一群。リンパ球や単球,マクロファージなど免疫担当細胞が産生する生物活性物質の総称であり,免疫反応に関連する細胞間相互作用を媒介するペプチドである。 アミノ酸配列が明らかになった因子,生化学的に均一に精製された因子が,発見された順に番号付けされている。現在30種類以上が知られており,自己免疫疾患や免疫不全の多くの難病をはじめ様々な疾患にインターロイキンが関係しているとされている。
院内感染
病院滞在中に感染した疾患で病院内という環境がなければ発生しえない感染症のこと。
患者(入院・外来),患者家族や面会者,医療従事者,その他の職員(院外関連企業も含む)などが病院内で曝露され,感染したものと定義される。また,医療関連感染ともいわれる。病院外で微生物によって惹起された市中感染症(潜伏期を含む)とは区別される。感染抵抗力の低下した患者(コンプロマイズドホスト)に発生しやすいこと,薬剤耐性菌や弱毒菌によるものが少なくないことなどが特徴である。特に MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌),VRE(バンコマイシン耐性腸球菌),MDRP(多剤耐性緑膿菌),多剤耐性アシネトバクタなどの耐性菌によるものが問題となっている。透析室,手術室やICU,がん病棟など抵抗力の低下した患者が多い病棟ではとくに厳重な注意が必要とされる。スタンダードプリコーション(標準予防策)と感染経路別予防策で予防対策をおこなう必要がある。
→院内肺炎;感染経路別予防策;コンプロマイズドホスト;スタンダードプリコーション;日和見感染症;MDRP;MRSA;VRE
院内肺炎 Hospital-acquired Pneumonia(HAP)
病院に入院後48時間以降に新たに出現した肺炎を示す。院内の環境だけでなく,潜在感染していたものが宿主の感染防御機能の低下により活性化し発症したものも含まれる。カンジダ,潜伏感染原虫,サイトメガロウイルス等が起因菌となりうる。人工呼吸器をつけている患者,高齢者や糖尿病などの基礎疾患,ステロイド治療や免疫抑制剤などを使用している患者がかかる可能性が高い。
特に,人工呼吸器が装着されている患者に発生する肺炎を人工呼吸器関連肺炎(VAP:ventilator-associated pneumonia)と称する。本邦では院内肺炎の中で,VAP が占める割合は半数を下回る。この VAP では,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が原因となることもある。緑膿菌や MRSA,耐性傾向のある腸内細菌科細菌の関与をできるだけ早く判断することが重要である。
→院内感染;感染経路別予防策;コンプロマイズドホスト;スタンダードプリコーション;日和見感染症;MDRP;MRSA;VRE
インフォームド・コンセント Informed Consent(IC)
「正しい情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念。特に,医療行為(投薬・手術・検査など)や治験などの対象者(患者や被験者)が,治療や臨床試験・治験の内容についてよく説明を受け十分理解した上で,対象者が自らの自由意思に基づいて医療従事者と方針において合意すること。日本では,「医師,歯科医師,薬剤師,看護師その他医療の担い手は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」と法律に定められている(医療法第一条の四第二項)。この場合,説明内容は患者が分かり易く理解できるものでなければならない。
ウイルス性肝炎 Viral hepatitis
ヒト肝炎ウイルスの感染により発症する肝炎のこと。原因ウイルスとしては A 型(HAV),B型(HBV),C 型(HCV),D 型(HDV),E型肝炎ウイルス(HEV)がある。A 型と E 型肝炎は経口感染し,B 型,C 型は主に血液を介して感染する。
また,急性肝炎を惹起するウイルスとしては,EB ウイルス(Epstein-Barr virus),サイトメガロウイルス等様々なウイルスがある。
→インターフェロン
ウィルソン病
予後不良な肝硬変を伴う錐体外路障害を示す疾患として1912年に報告された。銅輸送タンパク質である ATP7B の遺伝子に異常が生じている常染色体劣性遺伝性の銅代謝異常症であり,放置すれば肝臓に多量の銅が蓄積して重い肝障害を発症する。早期発見により発症予防や疾患治療が可能であり,血中や尿中の銅結合セルロプラスミンを指標とした診断や,末梢血からの ATP7B遺伝子解析から患者の早期発見が実現されている。臨床における治療薬には,銅排泄を促進するキレート剤の D- ペニシラミンや塩酸トリエンチン,および食事由来の銅と結合して腸管からの銅吸収を妨げるメタロチオネインを誘導する酢酸亜鉛が使用されている。
エイズ 後天性免疫不全症候群 Acquired Immunodeficiency Syndrome(AIDS)
1981年に米国で初めて報告された感染症であり,レトロウイルスに属するエイズウイルス,すなわちヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus: HIV)に感染している状態のうち,細胞性免疫能が極度に低下し,全身性免疫不全により日和見感染症や悪性腫瘍などを引き起こす状態である。早期に服薬治療を受けることで,免疫力を落とすことなく,通常の生活を送ることが可能となってきた。ウイルスは CD4陽性リンパ球に感染するが,しばらくはウイルス増殖と免疫応答が平衡状態を保つため,発症はしないが,バランスが破たんするとウイルス量が増加,CD4陽性リンパ球数減少が起こり,感染者はエイズを発症する。
→AIDS;逆転写酵素阻害薬;日和見感染症;プロテアーゼ阻害薬;レトロウイルス;HAART(Highly Active Antiretroviral Therapy:多剤併用療法)
栄養療法
栄養不良または栄養障害のある患者に対し,通常食以外で栄養補給を行う療法。消化管を利用した経腸栄養(enteral nutrition; EN),静脈内から補給する静脈栄養(parenteral nutrian;PN)がある。経腸栄養には,口から飲んだり食べたりする経口栄養と,経鼻アクセスや消化管瘻アクセスを用いて経腸栄養剤を投与する経管栄養がある。静脈栄養には,末梢静脈内に栄養素を投与する末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition:PPN)と,中心静脈にカテーテルを留置して栄養素を投与する中心静脈栄養(total parenteral nutrition:TPN)がある。
栄養療法の大原則は,腸が機能しており,安全に使用可能であれば,原則的に経口栄養,経管栄養を施行し,腸が機能していない場合のみ静脈栄養を適応する。但し,腸閉塞や高度の下痢症など消化管の機能が侵されていて,消化管が安全に使用できない場合は,やむをえず静脈栄養法を選択することになる。
→経腸栄養法;静脈栄養法
疫学的調査
人の特定集団を対象に疾病率・死亡率等健康に関する事項の発生頻度や,その経時的変化等を統計的に調査し,特定の現象・嗜好・行動等と疾病の因果関係や,疾病のリスクファクターを求める調査。
→エンドポイント;ケースコントロール研究;コホート研究;プロスペクティブ;メガスタディ;薬剤疫学;レトロスペクティブ
エクモ(ECMO: extracorporeal membrane oxygenation)
体外式膜型人工肺のこと。血液を体外に循環させ,人工的に酸素と二酸化炭素のガス交換を行う装置。エクモは導入目的や送血方法により大きく2つに分類され , 循環器不全および循環不全を合併した呼吸不全や,救命処置に用いる VA ECMO, 新型コロナウイルスの等による重度呼吸不全に用いる VV ECMO に分類される。
エッセンシャル・ドラッグ Essential drug
医薬品の種類を必要なものだけに絞り,なるべく少ない費用で最大の効果を上げるのに必要な医薬品のこと。近年,エッセンシャルメディスンとも呼ばれる。また,WHO は現代的な医療を維持するために必要と考えられる医薬品類を WHO 必須医薬品モデル・リストとして策定した。このリストは医療に最小限必要な医薬品が選定され,医薬品の入手困難な後進国において入手しやすいことも考慮して策定されている。
→フォーミュラリー
エボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever)
エボラ出血熱ウイルスにより引き起こされる感染症。フィロウイルス科エボラウイルス属に分類され,現行の感染症法では「一類感染症」に指定されている。ヒトに感染し,致死率は非常に高く治療開始が遅れると致死率は80〜90% に上るといわれている。
エリスロポエチン Erythropoietin:EPO
体内の血液中に存在し赤血球の生産をつかさどる重要なホルモンで,糖蛋白からなり,主に腎臓で造られる。慢性腎臓病(CKD)により,内因性エリスロポエチンの生産が抑制されるため,赤血球造血が低下することが,腎性貧血の主因である。
エンドトキシン Endotoxin
グラム陰性菌の細胞壁外膜(最も外側の部分)を構成している重要な成分の1つで,リポ多糖のこと。菌体表面に存在しており,細菌が寿命や物理的,化学的な破壊により死んで,菌体がバラバラになるときに遊離し,致死性ショック,発熱,白血球の活性化,汎発血管内凝固(DIC)など多くの活性を示す。別名,内毒素ともいわれる。
エンドポイント Endpoint
臨床試験で目標とする評価項目。主要設定されたものをプライマリーエンドポイント(主要評価項目)という。探索目的の臨床試験(通常,第Ⅱ相臨床試験)では,薬効ないしその治験薬の有用性を多面的に調べることが行われるが,検証目的の臨床試験(通常,第Ⅲ相の比較試験)では,評価項目として1つ(またはごく少数)のエンドポイントを予め定めた計画によって行うことが大切である。
→疫学的調査;ケースコントロール研究;コホート研究;プロスペクティブ;メガスタディ;薬剤疫学;レトロスペクティブ
エンピリック治療 Empiric therapy
原因微生物が決定される前に医師が過去の経験に基づき,治療を開始すること。通常,感染症の初期治療の多くの場合でエンピリック治療が行われる。医師が患者の症状から疾患を予測し,細菌培養結果を待たずに一般的な抗菌薬を投与すること。
延命治療
疾病の根治ではなく延命を目的とした治療のことで,対症療法の1つ。生命予後不良で根治が見込めない患者に対し,人工呼吸や輸血,輸液などによって延命を図ることを目的とする。
患者本人が自らの意思で延命治療を受けずに,自然な最期を迎えることを尊厳死といい,日本では法律上認められていないが,厚生労働省のガイドラインにより,特定の状況下で延命治療の中止が選択される場合もある。
→ターミナルケア(終末期医療,終末期看護);緩和ケア
悪阻(おそ) hyperemesis
主に妊娠初期に起こる食欲不振や吐き気などの症状で食事や水分を摂取することが出来ず,栄養代謝障害や脱水を引き起こしている状態のこと。つわり。まれに悪阻が妊娠16~18週以降も続いた場合には,肝臓が重度の損傷を受け,黄疸や肝組織の破壊が起こったり,ウェルニッケ脳症が発生することがある。
オータコイド Autacoids
生体内に存在し,微量で種々の生理活性や薬理作用を示すが,ホルモン・神経伝達物質は分類されない物質の総称である。プロスタグランジンやヒスタミン,セロトニン,ブラジキニン,サブスタンス P 等をこのように呼ぶこともある。
オーダーメイド医療
遺伝子レベルで個人の遺伝情報の違いを見出し,その情報をもとに体質の違いなどを予測し,個々人に最も適切な治療や疾病の予防を行うこと。これが実現されると,副作用が少なく,効果の高い治療が可能になる。さらに,遺伝情報の違いから病気になりやすい体質を事前に把握し,生活習慣病や癌などの予防(個別化予防)や早期治療(個別化医療)を行うことが可能になるとされる。
オーダリングシステム Ordering system
カルテの記入や検査・処置・処方・注射などのオーダー等の医療情報を,直接コンピュータに入力し(発生源入力),その情報をもとに薬剤部門や検査部門での各種医療業務を合理的・効率的に行うことを目的としたコンピュータシステム。トータルオーダリングシステムとも呼ばれている。電子カルテシステムがこれに該当する。
オーファンドラッグ Orphan drug 希少疾病用医薬品
希少疾患に用いる医薬品の総称で,「国内患者数5万人未満又は指定難病に指定されており,医療上,特にその必要性が高く,開発の可能性が高いこと」を満たす,厚生労働大臣が指定する医薬品のこと。
オピオイド受容体 Opioid receptor
モルヒネ様物質(オピオイド)の作用発現に関与する細胞表面受容体タンパク質である。モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドである外因性オピオイド及び体内で作られ,モルヒネ様活性を有し,生理的状況あるいは生体に危機が迫ったときに放出される物質である内因性オピオイド(エンケファリン,エンドルフィン,ダイノルフィン,エンドモルフェインなど)に特異的親和性を持ち,脳や中枢・末梢神経系などに存在する。opioidreceptor にはμ,κ,δ受容体,ノシセプチン受容体の4種類があり,さらにサブタイプが存在する。
か行
介護医療院
2018年4月より創設されることとなった,介護保険法により定義される施設。要介護者であって,主として長期にわたり療養が必要である者に対し,施設サービス計画に基づいて,療養上の管理,看護,医学的管理の下における介護および機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設のこと。介護医療院は,施設の人員基準から,Ⅰ型介護医療院(介護療養病床相当:主な利用者像は介護療養病床療養機能強化型 AB 相当),Ⅱ型介護医療院(老人保健施設相当以上:主な利用者像はⅠ型より比較的容体が安定した者)の2つの類型が設けられている。
介護保険
2000年4月1日から施行された保険制度で介護を事由として支給される保険のこと。公的介護保険と民間介護保険があり,民間介護保険の保障内容には介護一時金や介護年金などがある。介護保険適用対象となる介護サービスについて厚生労働省が定めた報酬が介護報酬である。厚生省令で定められた要介護状態にある65歳以上の者又は,要介護状態にある40歳から64歳の者で,政令で定める加齢が原因による特定疾患の者について,自立した日常生活を営むことができるように,必要な保健医療サービス及び福祉サービスを行うための保険制度である。
→ケアマネージャ
→地域包括ケアシステム
→介護医療院
改正臓器移植法
1997年に施行された臓器移植法は,脳死後の臓器提供には本人の紙面での意思表示を必須とするなど厳しい制限があった。2010年7月17日に改正臓器移植法が全面施行され,本人の意思が不明な場合には,家族の承諾で臓器提供ができることになった。これにより,15歳未満の方からの脳死での臓器移植も可能となった。また,死後に臓器を提供する意思に併せて親族に優先的に提供できる意思を書面により表示できるとした「親族優先提供」も2010年1月17日に施行されている。
界面活性物質 Surfactant
リン脂質と特殊な蛋白からできている表面張力を弱める表面張力低下物質のこと。肺胞の表面に分泌されていて表面張力を弱めたり広がった肺が再び縮んでくるのを防いで安定した大きさを維持する働きをしたりする。また、気道の潤滑作用や病態時の痰のすべりをよくする働きもある。
潰瘍性大腸炎 Ulcerative colitis(UC)
主に大腸粘膜に潰瘍やびらんができる原因不明の非特異性炎症性疾患。厚生労働省より特定疾患に指定されている。クローン病とともに炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory bowel disease)に分類される。ほとんどの場合,血性下痢を特徴とし,大腸癌の長期リスクは高い。治療は5-アミノサリチル酸製剤,コルチコステロイド,免疫調節薬,抗サイトカイン薬,抗生物質,および手術によって通常行われる。
カイロミクロン Chylomicron
血漿中に存在するリポタンパクの一種で,外因性のトリグリセリド・コレステロールを運搬する。キロミクロンとも呼ばれる。脂肪食の摂取後血中に一時的に現れるが,空腹時には現れないため,空腹時に現れた時は脂質代謝異常が起きていると考えられる。
カウンターフィット薬
偽造医薬品。製品名や製造・販売元などを本物と偽って表示・販売する違法な海賊版医薬品で,本物とは有効成分が異なる,成分が不足している,表示されている成分を全く含んでいないといった場合もある。
ガウンテクニック gown technique
感染防止のための個人防護用具(PPE)の着脱技術。適切な防護具の使用方法を理解していなければ , 感染のリスクや病原体の媒介となって感染を拡大してしまう可能性がある。
→個人防護具(personal protective equipment: PPE)。
活性酸素 Active oxygen
体内に取り入れられた酸素がエネルギーを生み出す過程で生じるものである。細胞膜等体内の不飽和脂肪酸と結合して,老化・癌・動脈硬化の原因物質として問題となっている過酸化脂質(lipid peroxide)を生成する。
→PDT;SOD
下部消化管内視鏡 Colonoscope
大腸の器質的疾患を診断あるいは治療する目的で製作された内視鏡で,直視式のグラスファイバーを束ねた柔軟性のあるファイバースコープが用いられている。肛門から逆行性に挿入していくもので,S 状結腸までを観察する長さ約120cm の S 状結腸鏡(CS)と,有効長180cm の長い全結腸を観察できる大腸(結腸)鏡(CF)ファイバースコープがある。
→ポリープ切除
→上部消化管内視鏡
カマ
酸化マグネシウムの略称
仮面高血圧 Masked hypertension
診察室で医師が測定した血圧値は正常血圧であるのに,家庭や職場で測定した血圧値が高血圧となる場合をいう。大別すると三つの病態となる。日中,仕事や労作のストレスによって血圧が上昇するタイプ,夜間から早朝にかけて血圧が持続的に高い夜間高血圧のタイプ,夜間の血圧は比較的低いが早朝に急激に血圧が上昇するモーニングサージのタイプがある。鑑別には24時間の血圧測定が必要となる。また,仮面高血圧は脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いと言われている。
→白衣高血圧
カリウムチャネル開口薬 Potassium channel open drug
血管平滑筋細胞のカリウム(K)チャネルを開き,細胞膜の再分極を早めることによって,電位依存性カルシウム(Ca)チャネルを開口しにくくし,血管拡張をきたす薬物である。K チャネル開口薬は急性心筋梗塞に使用する際,心筋に対して保護的に作用し,梗塞巣の縮小は期待できるが,急性的に心室細動を起こす恐れがある。
カルシウム拮抗薬 Calcium channel blocker(CCB)
カルシウムチャネルを介する血管平滑筋細胞・心筋細胞内へのカルシウムの流入を抑制することにより、全身の動脈・冠動脈をはじめ血管平滑筋を弛緩し、心筋酸素供給量を増加させて心筋虚血を改善したり、血圧を下げたりする。冠血管拡張薬・降圧薬・抗不整脈薬として広く用いられている。
カルシニューリン Calcineurin
カルシウムイオン依存性プロテインフォスファターゼ(タンパク質脱リン酸化酵素)のことで,神経組織に多く見られることからカルシニューリンとも呼ばれることになった。その後,神経のみならず,免疫,記憶,心臓形成などに重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。この阻害剤は免疫抑制剤として活用されている。また,カルシニューリン系遺伝子が統合失調症の原因遺伝子として示唆され,新たな治験薬開発が期待されている。
カルバペネム耐性腸内細菌 carbapenem-resistant enterobacteriaceae:CRE
グラム陰性菌による感染症の治療において最も重要な抗菌薬である,メロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β - ラクタム剤に対して耐性を示す Escherichia coli や Klebsiella pneumoniae などの腸内細菌科細菌の総称である。通常の耐性菌と異なり,感染性が強く毒性が高い。感染による危険性はきわめて高く感受性のある抗生物質はほとんど無い。発生した場合,院内伝播には十分な注意が必要である。
→VRE
間欠性跛行
歩行などで下肢に負荷をかけると,次第に下肢の疼痛・しびれ・冷えを感じ,一時休息することにより症状が軽減し,再び歩行や運動が可能となること。原因疾患としては腰部脊柱管狭窄症,閉塞性動脈硬化症,閉塞性血栓性血管炎などが多い。
がん遺伝子 Oncogene
活性化により,正常な細胞を癌化に導く指令を出す遺伝子の総称。がんに繋がる細胞増殖の促進を引き起こす。
→遺伝子診断
がん遺伝子検査
がん診療にて実施される遺伝子検査。がん細胞で生じている遺伝子配列を調べる「体細胞遺伝子検査」,正常細胞で生まれつき持っている遺伝子配列の違いを調べる「生殖細胞系列遺伝子検査(遺伝学的検査)」がある。がん遺伝子検査の結果により,治療薬の決定やその他の治療法の検討を行う。
→がんゲノム医療
環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質) Environmental hormone
生体内分泌機能に作用し生殖能力,免疫系,神経系等に影響をおよぼす合成化学物質である。合成樹脂原料や可塑剤として使われているアルキルフェノール類,ごみ焼却施設から発生するダイオキシン類,熱媒体等で使用されている PCB,殺虫剤の DDT,農薬・重金属・食品添加物・医薬品や植物由来エストロゲン類似物質等が知られている。。
→ダイオキシン類(DEHP)
がんゲノム医療
主にがんの組織を用いて,多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」により,遺伝子変異を明らかにし,遺伝子変異に対して効果が期待できる薬があるかどうかの検討を行う。効果が期待できる薬がある場合は,臨床試験等を含めて薬の使用を検討し,効果が期待できる薬がない場合は,その他の治療を検討する。
→がん遺伝子検査
間質性肺炎 Interstitial pneumonia
肺の間質における炎症疾患の総称で,限局性とびまん性があるが,一般的にはびまん性間質性肺炎をいう。肺の間質とは,肺胞間(肺胞隔壁),細気管支や血管の周囲等に存在する組織全体を指す。発症の原因としては,感染症・じん肺・ガス吸入・心不全・過敏性肺炎・薬剤性肺炎等の他,膠原病等の全身性疾患に伴う場合がある。乾性咳嗽・労作性呼吸困難の他,急性型では発熱,慢性型では全身倦怠感・チアノーゼ等がみられる。
患者自己鎮痛法 Patient Controlled Analgesia(PCA)
患者自身の調節による鎮痛法で,術後痛等をもつ患者を対象に,専用器具を輸液ラインに接続し,患者がボタンを押すと一定量の鎮痛薬が静脈内に注入され鎮痛作用を発揮する。
患者向医薬品ガイド Medication Guides for Patients(MGPs)
患者向医薬品ガイドは,患者の皆様や家族の方などに,医療用医薬品の正しい理解と,重大な副作用の早期発見などに役立てていただくために提供するもの。各製品の製造販売業者が作成し,各製造販売業者の責任において掲載したもので,医療関係者が,患者さんやその家族の方などに薬の説明をするために使用する。
感染経路別予防策
感染力が強く標準的感染予防策(スタンダードプリコーション)で不十分な感染症に対し感染経路の遮断を目的として標準感染予防策に追加される予防策である。感染経路別予防策を追加するべき疾患は以下の通りである。
①空気感染(飛沫核感染):粒径5μm 以下の粒子に付着した微生物による感染経路。長時間空気中に浮遊しており,空調的対策が必要である。結核,麻疹,水痘など。
②飛沫感染:咳,くしゃみなどによって生じる5μm 以上の飛沫によっておこる感染経路。短い距離を飛び,宿主の結膜,鼻腔粘膜,口腔粘膜に沈着して感染する。飛沫は空中に浮遊し続けることはないので空調的対策は必要とせず,空気感染とは一線を画する。インフルエンザウイルス,ジフテリア,マイコプラズマ肺炎,百日咳,流行性耳下腺炎,溶連菌性咽頭炎,アデノウイルス,風疹など。
③ 接触感染:感染源に直接接触した手や体によって起こる直接接触感染経路と,汚染された媒介無生物(器具,リネンなど)を介して起こる間接接触感染経路とがある。MRSA,腸管出血性大腸菌O-157,赤痢,緑膿菌,A型肝炎ウイルス,単純ヘルペス,ロタウイルス,RS ウイルス,ダニ(疥癬)など
→院内感染,院内肺炎,コンプロマイズドホスト,スタンダードプリコーション,日和見感染症,MDRP,MRSA,VRE
肝斑 Chloasma, Melasma
思春期以降の主に女性の顔面,特に額・上頬部・口の周りに左右対称的に生じる褐色色素斑で,紫外線・妊娠・経口避妊薬の内服等で増悪する。
がん抑制遺伝子 Antioncogene(Tumor suppressor gene)
細胞増殖抑制,細胞の DNA 修復,細胞のアポトーシスを誘導する働きをする遺伝子の総称。
細胞を正常な状態に保ち癌化しないように働く。
気切 Tracheotomy
気管切開の略。気管とその上部の皮膚を切開してその部分から気管にカニューレを挿入する気道確保方法。
キット製剤 Kit preparation
投薬調製時の負担軽減,細菌汚染・異物混入防止,医療過誤防止等を目的として,医薬品と医療用具(容器を含む)又は2つ以上の医薬品を1つの投与体系として組み合わせた製剤である。
→ハーフキット製剤;プレミクスト製剤
キメラ抗体
抗体分子の可変領域と定常領域が,それぞれ異種の動物に由来するもの。インフリキシマブやリツキシマブなどのようなマウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域に連結したもので,遺伝子組換え技術によって容易に構築できる。
逆浸透装置 Reverse osmosis system
濃度差のある溶液を,半透膜を境にして接触させ,濃厚溶液側に浸透圧以上の圧力を加えた時に,水が濃厚溶液から希薄溶液側へ移動することを利用した,水の純度を高める装置である。この原理は,下水や工場廃水の処理・純水の製造・パイロジェン(発熱性物質)の除去等に利用されている。
逆転写酵素阻害薬 RNA dependent DNA polymerase inhibitor
逆転写酵素は RNA を鋳型として相補的な DNA を合成する酵素である。通常,レトロウイルスが持っており,そのゲノム中にこの酵素の遺伝子がある。逆転写酵素阻害薬は,この酵素を競合的に阻害する薬剤である。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はレトロウイルス科に属する RNAウイルスで,遺伝情報を RNA の形で有しているため,HIV が増殖するには宿主細胞に侵入しHIV-RNA を DNA に逆転写することが必要となる。そのために HIV の化学療法剤として逆転写酵素阻害薬が使用され,ザルシタビン(ddC)・ジダノシン(ddI)・ジドブジン(AZT)・ラミブジン(3TC)等がある。
→エイズ;プロテアーゼ阻害薬;レトロウイルス;AIDS;HIV;HAART
救急認定薬剤師 Certified Pharmacist for Emergency Medicine(CPEM)
救急医療における薬物療法に関する高度な知識,技術,倫理観を備えた認定薬剤師のこと。日本臨床救急医学会は,平成23年度から日本病院薬剤師会の協力を得て,最適な医療を提供すること,国民の健康に貢献することを目的に,救急認定薬剤師の認定制度(5年毎の更新制)を実施している。
・薬剤師の実務経験が5年以上,かつ救急治療における薬物療法に2年以上従事していること。
・日本臨床救急医学会の正会員歴が2年以上であること。
・救急治療に関する薬物療法の症例報告が25症例以上であること。
などが認定条件として挙げられている。
急性呼吸窮迫症候群 acute respiratory distress syndrome( ARDS )
敗血症,大量輸血,重症肺炎,胸部外傷,肺塞栓,人口呼吸等の重症の状態の患者に突然起こる呼吸不全の一種。特に発症前後の状態を急性肺傷害(acute lung injury: ALI)という。
丘疹 きゅうしん,papule
直径1cm 以下の皮膚の隆起。発疹の分類の一つ。表皮のみ,真皮のみあるいはその両方が肥厚する場合がある。ノミアレルギー,蚊の刺咬後,天然痘の初期などにおいて認められる。
強化インスリン療法 Intensive insulin therapy
1型糖尿病患者などに対して,厳格な血糖コントロールを目的として行われるインスリン治療法。生理的なインスリン分泌能を忠実に再現するために,患者自身が,血糖自己測定(SMBG)を用いて自分の血糖値の動きを把握し,医師によりあらかじめ決められたインスリン投与量の範囲内で食事内容,運動量に応じてインスリン量を調整しながら血糖管理を図る治療法。インスリン頻回注射(1日3~4回インスリンを皮下注射する方法)とインスリン皮下持続注入(CSII)療法が用いられる。
強酸性水(強酸性電解水)
水道水に食塩を微量添加し電気分解して作られる機能水。pH2.7以下,酸化還元電位+1100mV 以上という微生物が生存できない環境を作り,更に溶存塩素(有効塩素:30~40ppm)と溶存酸素(20ppm 以上)の存在下で相加的な除菌・抗菌作用を示すとされている。アクア酸化水とも言われる。主に食品の洗浄や農薬の補助として使用されるがアトピー性皮膚炎の症状改善や,MRSA 除去に効果があるとの研究報告がある。
キラリティー(掌性 しょうせい) Chirality
ある分子の立体構造において,それとその鏡像が互いに重なり合わない,すなわち鏡像異性体をもちうるという性質のことである。
→光学異性体;対掌体
ギラン・バレー症候群(急性(有)熱性多発性神経炎) Guillain-Barre syndrome(Acute febrile polyneuritis)
腸あるいは呼吸器感染症に続発する原因不明の急速に進行する上行性の運動神経麻痺である。足の知覚異常に始まり,次いで,足の弛緩性麻痺と脱力が起こり,次第に,腕,躯幹,顔面へと上行し,微熱・呼吸麻痺・腱反射の欠如または減弱・細胞増加症を伴わない髄液中のタンパク増加を伴う。
禁煙補助剤
ニコチンを成分とした禁煙補助剤。ニコチン依存を段階的に改善しながら,禁煙に導く。1996年にガム製剤が,続いて1999年に経皮吸収型貼付剤が発売された。現在では,ニコチンガム,禁煙パッチとして一般用医薬品(OTC)としても流通している。また,2008年にはニコチン受容体の部分作動薬の経口剤が医療用医薬品として発売された。
→生活改善薬
緊急安全性情報(ドクターレター,イエローペーパー)
特に緊急かつ重篤な情報伝達が必要とされる情報(予期せぬ重大な副作用等)で,厚生労働省薬務局安全課長名で配布の指示がだされ,企業は4週間以内にその薬を納入した医療機関に MRを派遣して,文書の配布,説明を行わなければならない。A4サイズの黄色地の印刷物で,ドクターレター,イエローペーパーとも称される。
菌交代現象 Microbial substitution
ある種の微生物に代わって他の種類の微生物,特に普通はあまり見られない菌(真菌・緑膿菌等)による病気が進展する現象。抗生物質を与えると感受性菌は死滅するが,その抗生物質に耐性の菌が増殖し,病巣の菌種が交代することである。たとえば肺炎菌による肺炎患者にペニシリンを使っているうち,カンジダが異常に増殖して肺カンジダ症という別な病気が起こることがある。これはペニシリンにより肺炎菌が抑えられ,代わりに真菌であるカンジダが増殖したためである。
くすりの適正使用協議会(旧日本 RAD-AR 協議会) RCJ: RAD-AR Council,Japan
1989年5月に国内の主要研究開発指向型製薬企業によって日本製薬工業協会とは別に創設 された日本 RAD-AR 協議会が前身で,2003年4月より製薬企業だけでなく一般個人にも会員として参画を求め,名称変更となった。その活動の本質は,RAD-AR 活動(Risk / Benefit Assessment of Drugs-Analysis and Response)であり,医薬品が本質的に持っているリスク(好ましくない作用など)とベネフィット(効能・効果や経済的便益など)を科学的に検証して分析を行い,その成果をもとにして社会に正しい情報を提供し,医薬品の適正使用を推進すると共に,患者さんの利益に貢献することにある。2012年4月より「医薬品を正しく理解し用いることを通して,人の健康保持と QOL の向上に寄与する」ことを目的に,医薬品リテラシー(医薬品の本質を理解し,医薬品を正しく活用する能力)の育成,国民に向けての医薬品情報提供,ベネフィット・リスクコミニュケーションの普及の事業を行っている。
クラッシュ症候群(圧挫症候群) Crush syndrome
四肢や大腿などの骨格筋が大量にかつ長時間の圧迫等を受け,その後圧迫から解放されたときに起こる。骨格筋の虚血や損傷,圧迫の解除による再灌流により引き起こされる多臓器不全をきたす症候群のこと。筋肉圧迫によって動脈,静脈環流が遮断される状態が長時間継続すると圧迫部位の末梢部筋細胞の細胞膜が障害され,筋細胞内容物(CK,ミオグロビン,K)が流出する(横紋筋融解)。さらに圧迫が解除されることにより,血流再開によって流入した血液中の水分が血管内皮障害のため血管外へ漏出して,急激に下肢の腫脹をきたすとともに全身の循環障害を生じたり,血流に乗って筋細胞内容物が全身を巡ることによる近位尿細管細胞障害を生じた結果,急性腎不全を発症したりする。腎不全の進行や高 K 血症による心室細動など致死性不整脈の発症から死にいたる.下肢の局所では極度の腫脹によってコンパートメント症候群を併発する。
→コンパートメント症候群
クリアランス Clearance
臓器毎にクリアランスが計算されるが,通常は腎臓による血漿クリアランスを指す。それは
尿中に排泄される物質 X について,1分間に何 mL の血漿が完全に清掃されたかを示すもので,次式で与えられる。
Cx = Ux・V / Px(単位は mL / min)
Cx;クリアランス値,Ux;物質(X)の尿中濃度,V;1分間あたりの尿量,Px;X の血漿中濃度。この値が大きい場合は,血漿が腎臓を通過する間に物質 X が比較的効率よく排泄することを意味する。
クリティカル(クリニカル)・パス Critical(Clinical)Path(CP)
作業の流れを把握し,効率的かつ効果的な労力配分を導き出す問題解決技法である。医療現場では,入院中に行う患者指導・検査・手術・投薬・処置・食事等について,各項目毎に作業行程を時系列に一覧表示し,進行・管理を行うことを指すが,作成したスケジュール表自体を呼ぶことも多い。
クレアチニン Creatinine
クレアチンの脱水物で,生体内では筋・神経内でクレアチニンリン酸から直接,あるいはクレアチンの脱水により生成され,血中に出現し,腎糸球体からろ過され,ほとんど再吸収されずに尿中に排泄される。血清クレアチニン濃度は腎機能障害の指標として有用で,高値を示す場合は腎不全・尿毒症・うっ血性心不全等の疑いがある。
→推算糸球体濾過量,慢性腎臓病
クロイツフェルト・ヤコブ病 Creutzfeldt Jakob Disease(CJD)
大脳・小脳・脳幹神経核・脊髄の退行変性疾患といわれ,脳の海綿状態やアミロイド斑がみられ,亜急性海綿状脳症と称される。1920年 Jakob 及び Creutzfeldt によりそれぞれ独立して発見された。異常なプリオン蛋白の存在が証明されているため,この異常なプリオン蛋白が病原と考えられるようになり,ヒトのプリオン病とも呼ばれ,①特発性,②遺伝性,③獲得性に大別される。臨床的には,痴呆症を主とする神経症状・錐体外路症状・ミオクローヌス等神経症状を呈する。
→アミロイド,プリオン,BSE
クローン病 Crohn disease
炎症性腸疾患のひとつで,主に小腸や大腸などの消化管に炎症が起きることによりびらんや潰瘍ができる原因不明の慢性の病気。 主な症状としては,腹痛,下痢,血便,発熱,肛門付近の痛みや腫れ,体重減少などがあり,さまざまな合併症が発現することがある。
群発頭痛 Cluster headache
眼窩部,眼窩上部または側頭部に片側性の激しい痛みが,治療しなければ15~180分間持続するのが特徴で,痛みと同側に結膜充血,流涙,鼻閉,鼻汁,前額部と顔面の発汗,縮瞳,眼瞼下垂,眼瞼浮腫がみられることが多い。平均初発年齢は20代後半で,女性よりも男性に多く見られる。発作頻度は1回/2日から8回/日,群発期は一般に3~16週持続する。
ケアバンドル Care Bundle
医療の質確保のための手段として,RCT(ランダム化比較試験)で有用性が認められた3~5の手法を,単独でなく束ねて(Bundle)行うことで,最大限の効果を得ようというもの。ガイドラインやガイダンス(手引き),マニュアルやベストプラクティス(推奨手順)に基づいて,その中で最低限これだけは行わなければならないという項目を,チェックリストにして単純化し,リマインダー(備忘録)として処置ごとにそれを見ながら手技を行う。例えば人工呼吸器バンドルでは,人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防として ①手指衛生 ②呼吸器回路の交換 ③鎮静④離脱評価 ⑤患者体位の5項目からなる。
2003年頃から米国で使われ始めた。英国では,High impact intervention の中の手法として,独自のケアバンドルが用いられている。 日本では人工呼吸器バンドルの他に,感染予防バンドル,中心静脈カテーテルバンドルなどがある。
ケアマネージャー Care manager 介護支援専門員
『介護保険法』(2000年施行)に基づき,「要介護者または要支援者(以下「要介護者等」)からの相談に応じ,及び要介護者等がその心身の状況等に応じ適切な居宅サービス,地域密着型サービス,施設サービス,介護予防サービス若しくは地域密着型介護予防サービス又は特定介護予防・日常生活支援総合事業を利用できるよう市町村,居宅サービス事業を行う者,地域密着型サービス事業を行う者,介護保険施設,介護予防サービス事業を行う者,地域密着型介護予防サービス事業を行う者,特定介護予防・日常生活支援総合事業を行う者等との連絡調整を行う者であって,要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして,都道府県知事より介護支援専門員証の交付を受けたもの」と定められている。つまり,要介護者のニーズを把握し,適切なケアプランを作成,適切なサービスを受けられるように連携調整する者を指す。
→介護保険
経過措置品目
医薬品が製造中止等の理由で薬価収載から削除された場合,流通在庫販売のため削除されても保険請求が認められる一定の期間が設けられる。これが経過措置期間で,その対象となっている品目のことをいう。
経腸栄養法 enteral nutrition;EN
腸が機能している栄養不良または栄養障害のある患者に対し,経腸栄養剤等の流動性栄養物で栄養補給を行う療法。経腸栄養剤は,半消化態栄養剤(low residue diet; LRD),消化態栄養剤(chemically defined diet;CDD)および成分栄養剤(elemental diet;ED)に分類され,その他に食品を用いた流動食やミキサー食,サプリメントなどがある。経口からの摂取が不可能または経口のみでは必要な栄養量を摂取できない場合には,鼻腔あるいは外瘻(胃瘻・空腸瘻)を通じてチューブを挿入し,胃内または空腸内にとどめて投与する経管栄養法(Tube feeding)を行う。
→栄養療法
→静脈栄養法
蛍光偏光免疫測定法 Fluorescence Polarization Immunoassay(FPIA)
測定薬剤に対する抗体を使用した薬物濃度の測定法の一つ。蛍光偏光により薬物の濃度を測定する方法。一定量の蛍光色素で標識した薬物と試料中の薬物は,その抗体に対して競合的に反応し,抗原-抗体結合物をつくる。この蛍光標識薬物は,フリーの状態ではその分子運動が大きいため,偏光を当てて発する蛍光に偏光性をもたない。しかし,抗体と結合すると分子運動が抑制され偏光性が出るようになる。
警告 Warning
医薬品の使用にあたり,致死的または極めて重篤な後遺障害が生じる可能性がある副作用が発現する場合,また副作用発現が極めて重篤な事故につながる可能性のある場合など特に注意喚起が必要な場合に添付文書に記載される。
→添付文書
劇症型溶血性レンサ球菌感染症 Severe invasive streptococcal disease
主に A 群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)によって引き起こされる劇症感染症で,初期症状は四肢の疼痛,腫脹,発熱等の風邪に似た症状・全身倦怠・血圧低下・嘔吐等で発症し,発症からの病状進行が急激かつ劇的で,発症後数時間で軟部組織壊死・急性腎不全・成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全・ショックに陥り,ショック症状から死に至ることも多く,予後は不良である。「人食いバクテリア」と呼ばれることもある。治療にあたっては,ペニシリン系薬が第一選択薬である。
ケースコントロール研究(症例対象研究)Case control study
疾患を有するケース群と,その疾患に罹患していないコントロール群とを比較し,以前の曝露の差異を見つけ出す観察研究である。例:静脈血栓にかかっている複数の若い女性を選び,静脈血栓にかかっていないコントロール群と比較し,以前の経口避妊薬使用の差異を見つけ出す。
→疫学的調査;コホート研究;プロスペクティブ;メガスタディ;薬剤疫学;レトロスペクティブ
血液透析 Hemodialysis(HD)
比較的単純な半透膜の拡散現象を利用したもので,半透膜を介して血液と透析液を接触させ,血液中の老廃物や毒素を除き,電解質・浸透圧の異常を正常化させた後,体内にかえす透析法である。透析機の備えるべき基本的な機能は,蛋白質代謝最終産物の除去・血清電解質組成の正常化・血液酸塩基平衡の正常化・体内過剰水分の除去等である。
→人工透析;APD;CAPD
血管リモデリング Vascular remodeling
血管への種々のストレスに対し,血流状態を正常に保持するために血管構築が変化を起こす現象。生体の適応現象として血液による各臓器・組織への血液成分・栄養素・酸素の供給を維持するために血管の再構築(リモデリング)が行われるが,その限界を超えると適応破綻を引き起こし,血管病変や循環障害として認められるようになる。
血清総蛋白 Serum Total Protein(TP)
血清中の蛋白各成分の総和で,血清中の6~8%を占める。主成分はアルブミンとグロブリンである。血清総蛋白濃度は年齢と共に増加し13~14才で成人量になり,高齢になると再び減少してゆく。変動要因として多発性骨髄腫・脱水症状・慢性伝染病・等の時に増加し,血漿蛋白質の漏出時・慢性腎不全・栄養不良時・肝機能障害時には減少する。
血清ビリルビン Serum Bilirubin
胆汁に含まれる褐色の色素物質。脾臓で赤血球に含まれていたヘモグロビンから作られ(間接ビリルビン),肝臓で排泄するためにかたちを変えられて(直接ビリルビン)胆汁に加えられる。
血液中には間接と直接の両方が見られ,間接ビリルビンは溶血性貧血,悪性貧血などの血液疾患で減少し,直接ビリルビンは劇症肝炎,肝硬変,肝炎などで増加する。両方を合わせた値は総ビリルビンと呼ばれる。
血中尿素窒素 Blood Urea Nitrogen(BUN)
尿素は蛋白代謝の終末産物であり肝で合成され,腎で濾過され体外に排出される。一般に血清を検体とするが,慣用的に血中の呼称が用いられ腎機能の指標として広く利用されている。高値では腎機能障害,腎不全,尿路閉塞,脱水症など,低値では肝硬変・重症の肝不全,妊娠などの疑いがある。
血中濃度-時間曲線下面積 Area under the concentration-time curve(AUC)
薬物血中濃度推移において,血液中の薬物濃度の変化を時間の関数として示したもの。血中濃度-時間曲線下面積は,血液中に入った薬物量に比例するため,体内に取り込まれた薬物の量を示す指標として使用される。
ケミカルメディエーター(化学伝達物質) Chemical mediator
体内の細胞へ作用する,別の細胞から放出される化学物質のこと。炎症やアレルギーを起こす刺激を生体に与えた時にマスト細胞等から遊離される物質の総称でヒスタミン・アセチルコリン・セロトニン・エンケファリン・ロイコトリエン・トロンボキサン等がある。
減感作療法 hy.posensitization therapy
主に即時型アレルギー疾患(気管支喘息・アレルギー性鼻炎等)の免疫学的治療としてアレルゲンに対する過敏反応を軽減する治療法。ごく低濃度のアレルゲン量から開始して漸増しながら定期的に抗原を投与する方法で , 舌下から投与する舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT),皮下注射にて投与する皮下免疫療法subcutaneous immunotherapy: SCIT)などがある。
脱感作ともいう。
原発性肺高血圧症 Primary pulmonary hypertension
発生機序の不明な肺高血圧症(肺動脈圧 25mmHg 以上の病態)を指す。中小肺動脈が侵され,内膜過形成およびその結果として血管腔狭窄か認められる閉塞性疾患で,進行性,難治性である。発症原因がわかっていない。自覚症状出現後数年以内に死亡する事が多い。死因は右心不全や突然死である。
光学異性体 Optical active isomer
互いに鏡像関係にある光学活性な異性体である。融点・溶解度等の物性値,化学反応性はほとんど同一であるが,平面偏光を同じ角度,互いに逆方向に回転させる一対の化合物である。光学異性体には①不斉炭素原子を有するもの②分子不斉によるもの③ N, S, Se, Si, P 等4価の原子としてもつもの④金属が不斉原子であるもの(錯体)等がある。異性体の種類により,生理作用が異なる場合がある。
→キラリティー;対掌体
交換輸血 Exchange transfusion
有害物を含む血液を除去し,正常な血液を輸血することをいう。交換輸血の目的は,①ビリルビンの除去②貧血の改善③抗体及び感作された赤血球の除去であり,血清ビリルビン値が20mg/ dl を越える時適応される。新生児に対し開発された治療法である。交換量は小児で全血量の2倍を目安とされる。
抗グロブリン試験(クームス試験) Antiglobulin test(Coombs' test)
抗赤血球自己抗体を検出する目的で考案された検査で直接試験と間接試験がある。自己の赤血球に対する抗体が産生されて,赤血球破壊が起こる疾患である自己免疫性溶血性貧血の診断確定には不可欠の検査である。
交叉耐性 Cross resistance
耐性は特定薬剤の反復適用によって成立するものであるが,いったん耐性を獲得した細菌は,その薬剤ばかりでなく,化学構造あるいは薬理作用の類似した薬剤,さらに,かなり異なった別の薬剤に対しても感受性・効果の低下あるいは消失を示すことがある。このように他の類縁薬剤に対する獲得耐性から得られた薬剤耐性のことをいい,ある薬剤に耐性となった菌が他剤にも耐性を示す時,この2種の薬剤間に交叉耐性があるという。
高周波滅菌法 High-frequency sterilization
高周波を直接照射し,発生する熱により微生物を殺滅する滅菌法。通例水培地・試液・液状医薬品等の密封容器に充填された液状製品もしくは水分量の多い製品で高周波照射に耐えるものに対し,通例2450±50メガヘルツの高周波が用いられる。
光線過敏症(日光過敏症) Photosensitivity
通常の人では特に症状が発現しない程度での日光照射で皮膚に丘疹,紅斑,水疱,膨疹などの皮膚症状を呈す皮膚疾患や,光線が関節炎,気管支炎の原因となる疾患の総称である。光線過敏症には内因性と外因性があり,内因性(遺伝性,代謝性など)に属するものとしては,遺伝的素因(色素乾皮症,Cockayna 症候群,Bloom 症候群,Smith-Lemli-Opitz 症候群),感染性 代謝異常(単純ヘルペス,ポルフィリン症),栄養障害(ペラグラ),酵素異常(白皮症),免疫異常(紅斑性狼瘡,日光蕁麻疹,多形日光疹),Koebner(乾癬,多形滲出性紅斑)がある。外因性(薬剤性など)に属するものとしては,光接触皮膚炎と光過敏性薬疹があり,光増感物質の皮膚への接触,又は経口摂取により,日光の照射部に日焼け・湿疹・扁平苔癬等を生じる。薬剤性光線過敏症は発症機序により光毒性反応と光アレルギー反応に大別される。
酵素誘導 Enzyme induction
薬剤や生理活性物質により,組織の酵素量が増加すること。代謝酵素が増加すると薬物の消失が早くなり,薬剤の効果が減弱することになる。例としてリファンピシンやカルバマゼピンなどにより誘導された酵素が同じ酵素により相互作用を受け,薬の効果が減弱する場合もある。
硬膜外ブロック Epidural block
主に痛みの緩和と血行障害の改善を目的として行われる神経ブロックの1種で,硬膜外腔に局所麻酔薬など注入することによって,交感神経や知覚神経の機能を一時的に抑制し,疼痛や血行障害などを緩和する治療法である。薬液を1回注入する方法だけでなく,ブロック針を通してカテーテルを硬膜外に留置し,薬液を持続的に注入する方法もあり,後頭部から足先の痛みまで対応できる利点がある。特に持続硬膜外ブロックは消失が困難な癌性疼痛のコントロールに有利な方法である。
5-HT1A 受容体作動薬 5-HT1A receptor agonist
5-HT1A 受容体は7種のサブファミリー,14のサブタイプがあるセロトニン受容体の1つで,縫線核・海馬・大脳皮質等に広く分布し,特に海馬・中隔野・扁桃体等,大脳辺縁系に密度が高く,神経抑制,睡眠,摂食,体温調節,不安に密接に関連している。5-HT1A 受容体作動薬は,抗不安作用・抗うつ作用を有する薬物で,ルラシドンやダンドスピロン等がある。ダンドスピロンの効果はベンゾジアゼピン系薬剤と同等であり交差依存性がなく副作用も少ないとされている。
5-HT2 受容体拮抗薬 5-HT2 blocker
5-HT2 受容体は7つのサブファミリーのあるセロトニン受容体の1つで,神経興奮,平滑筋収縮,血管収縮・拡張,血小板凝集に密接に関連している。5-HT2 受容体拮抗薬は血小板凝集・血管収縮を抑制する作用を有する薬剤で,塩酸サルポグレラートは慢性動脈閉塞症による潰瘍・疼痛・冷感等の虚血性諸症状を改善する。また,リスペリドンなど精神分裂病の陰性症状を改善する作用もある。
5-HT3受容体拮抗薬 5-HT3 blocker
5-HT3受容体は7つのサブファミリーのセロトニン受容体の1つで,他のセロトニン受容体と異なり,イオンチャンネル共役型受容体であり,神経興奮,不安,嘔吐に密接に関連している。
5-HT3受容体拮抗薬は抗悪性腫瘍薬(シスプラチン等)の投与により引き起こされる悪心・嘔吐を抑制する薬物でオンダンセトロン・グラニセトロン・アザセトロン・ラモセトロン等がある。抗悪性腫瘍薬は消化管粘膜に存在する腸クロム親和性細胞から5-HT(セロトニン)を遊離させ,求心性の腹部迷走神経にある5-HT3受容体に結合させる。あるいは第4脳室最後野にある化学受容体引金帯(CTZ)から neurotransmitter を介して刺激を伝達するため,嘔吐中枢を作動させ悪心・嘔吐を引き起こすと考えられている。
5-HT4 受容体作動性薬 5-HT4 receptor agonist
5-HT4受容体は7つのサブファミリーのセロトニン受容体の1つで,消化管,神経興奮,胃腸運動に密接に関連している。5-HT4 受容体作動性薬は消化管の壁内神経叢のコリン作動性神経に働き,アセチルコリン(ACh)の遊離を促進することにより消化管平滑筋を収縮させ,消化管運動亢進作用を発現する薬剤であり,逆流性食道炎・機能性消化不良等の消化管障害及び疾患に有効である。5-HT4受容体を刺激する薬剤にはメトクロプラミドや選択的作動性薬としてモサプリドがある。
国際疾病分類 International Classification of Diseases(ICD)
異なる国や地域から,異なる時点で集計された死亡や疾病,傷害及び死因のデータの体系的な記録,分析,解釈及び比較を行うため,世界保健機関憲章に基づき,世界保健機関(WHO)が作成した分類である。正式には「疾病及び関連保険問題の国際統計分類」とされる。最新の分類は,ICD の第11回目の改訂版として,2018年に改訂され,ICD-11と呼ばれている。日本では,ICD10(2013年版)に準拠した「疾病,傷害及び死因分類」を作成し,統計法に基づく統計調査に使用されるほか,医学的分類として医療機関における診療録の管理等に活用されている。
コクラン共同計画 The Cochrane Collaboration(CC)
治療と予防に関する医療情報を定期的に吟味し人々に伝えるために世界展開している計画である。無作為化比較試験(RCT)を中心に,世界中の臨床試験の収集,評価,統計学的統合(システマティックレビュー)を行い,その結果を医療関係者や政策決定者,消費者に届け,合理的な意思決定に供することを目的とし,Evidence-based medicine(EBM)の情報インフラストラクチャー。1970年代にすべての医学的介入について RCT が必要で,その情報が要約,最新化,必要な人に伝えられるべきと力説したアーチー・コクラン(Archibald Leman Cochrane)の名を冠した。
→システマティックレビュー
骨粗鬆症 Osteoporosis
世界保健機構(WHO)は骨粗鬆症を「低骨量と骨組織の微細構造の劣化を特徴とし,その結果,骨の脆弱性と骨折リスクが高くなる骨疾患」として定義されている。骨絶対量の減少を生じているが,骨の質的変化を伴わない状態をいう。骨は絶えず吸収・形成されているもので,吸収率と形成率に差を生じ,骨形成が負の平衡となれば骨粗鬆症が起こる。老化現象の1つで骨折しやすく,骨が曲がったり腰痛が起きたりする。加齢と共にその発症率は増大し,女性に多くしかも閉経後に急増する。骨粗鬆症は閉経や老化に伴い骨密度が低下する原発性骨粗鬆症と何らかの疾患のバックグラウンドの上に成り立つ続発性骨粗鬆症に大別される。
コホート研究 Cohort study
分析疫学における手法の1つであり,ある要因を持つ集団の対象者と要因を持たない集団の対象者を,時間経過のなかで追跡し,結末の差異を捜す研究である。コホート研究は,ある曝露と別の曝露との比較に用いられることもあるが,通常は特定の要因に対する曝露者と非曝露者に対し,研究対象となる疾病の発生率を比較することで,要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究であり,要因対照研究(factor-control study)とも呼ばれる。
→疫学的調査;ケースコントロール研究;プロスペクティブ;メガスタディ;薬剤疫学;レトロスペクティブ
コロニー刺激因子 Colony Stimulating Factor(CSF)
サイトカインの一種で顆粒球,単球,マクロファージなどの増殖・分化を制御する。骨髄細胞培養時にコロニー形成を促進する物質として発見された造血因子の1つである。骨髄中の各種血球の前駆物質に働いて顆粒球やマクロファージ等への分化誘導増殖を促し,また産生された血球の末梢血への流出を促進する。顆粒球を作り出す G-CSF,マクロファージを作り出す M-CSF,顆粒球とマクロファージの両方の成熟に関与する GM-CSF を包含している。
コントロールドリリース Controlled release
ドラッグデリバリーシステム(DDS)の1つで,医薬品を製剤学的に加工して主薬の放出を制御することである。放出制御にはシングルユニットタイプ(スパンタブ,グラデュメット,ワックスマトリックス,レペタブ等)やマルチプルユニットタイプ(スパスタブ,スパンスルなど)がある。徐放化にあたってはワックスマトリックスやロンタブ(有核錠)により徐放化した内用薬(MS コンチン,アダラート CR 等)や経皮吸収型貼付薬(フランドールテープ・ニトロダーム TTS・デュロテップMTパッチ等),生体内分解性高分子化合物でホルモン物質をマイクロカプセル化した注射薬(リュープリン)等がある。
コンプロマイズドホスト Compromised Host
易感染性宿主のこと。免疫力の低下により感染宿主の防御機構が破綻し,健康人に比較して本来の感染抵抗性が著しく低下し,臓器機能障害・症状が出やすい状態になった人。→院内感染;院内肺炎;感染経路別予防策;スタンダードプリコーション;日和見感染症;MDRP;MRSAVRE
さ行
災害拠点病院
平成8年に当時の厚生省の発令によって定められた(発災後は,必要時改正)。災害時における初期救急医療体制の充実強化を図るための医療機関を指す。24時間いつでも災害に対する緊急対応でき,傷病者の受け入れ・搬出が可能な体制を持つ。重症傷病者の受け入れ・搬送をヘリコプターなどで行うことができる。電気・水は,自家発電・貯水・地下水利用等により3日間程度の病院機能維持が可能。消防機関と連携した医療救護班が派遣できる。ヘリコプターに同乗できる医師の派遣とサポート体制がある,といった条件を満たす病院を災害拠点病院として定める。
在郷軍人病 Legionaires disease
レジオネラ肺炎のこと。1976年,フィラデルフィアで開かれたアメリカ在郷軍人会の大会中に発生した集団肺炎。起炎菌は大部分が Legionella pneumophila でエリスロマイシンにだけ感受性を示し,レジオネラ症,ブロードストリート肺炎ともいわれる。高熱・悪寒・胸痛・咳・ときに幻覚症状もみられる。レジオネラ属菌は自然界(河川,湖水,温泉や土壌など)に生息する細菌で感染するとレジオネラ症を発症する。
→レジオネラ菌
在宅医療 Home medical
在宅ケアとは異なり,医療者が通院困難な患者の自宅もしくは老人施設などを訪問して医療を行うことである。薬剤師の職能を発揮できる在宅医療には,在宅中心静脈栄養法・在宅経管栄養法・在宅悪性腫瘍患者の化学療法及び鎮痛療法がある。
在宅患者訪問薬剤管理指導業務
保険薬剤師が医師の指示に基づき,薬学的管理指導計画を策定し,通院困難な患者の自宅もしくは老人施設などを訪問して,薬歴管理,服薬指導,服薬支援,薬剤服用状況及び薬剤保管状況の確認等の薬学的管理指導を行い,当該指示を行った医師に対して訪問結果について必要な情報提供を行う保険薬局で算定できる指導業務である。
サイトカイン Cytokine
細胞が産生する低分子微量生理活性タンパク質の総称で,免疫,炎症に関係したものが多く知られるが,細胞の増殖,分化,細胞死,あるいは創傷治癒など作用は多様(多面的生物活性)である。サイトカインは細胞表面の膜上にある受容体に結合することで,機能を発現させる。白血球によって分泌され,細胞間コミュニケーションの機能を果たすものをインターロイキン(Interleukin)といい,現在30種以上が知られている。免疫系の機能は多くをインターロイキンに負っており,自己免疫疾患や免疫不全の多くの難病もインターロイキンに関係している。同様に免疫系調節に関与するもので,リンパ球が分泌するものをリンフォカイン,単球やマクロファージが分泌するものをモノカインということもある。
サイトプロテクション Cytoprotection
胃粘膜細胞保護作用のことで,胃酸分泌抑制作用とは無関係な,主にプロスタグランジンの胃・十二指腸における抗潰瘍作用のことである。しかし現在では,胃・十二指腸のみならず,肝臓,膵臓その他の臓器における各種の障害から組織を保護する作用も広義のサイトプロテクションと呼んでいる。
サイトメガロウイルス Cytomegalovirus(CMV)
ヒトヘルペスウイルス(HHV)の一種。ヒトヘルペスウイルスには,1型から8型まであり,ヒトヘルペスウイルスの5型(HHV-5)にあたる。サイトメガロウイルス感染症は,サイトメガロウイルスの初感染,再感染あるいは再活性化によって起こる病態で,感染と感染症は異なることを明確にする必要がある。通常,幼小児期に不顕性感染の形で感染し,生涯その宿主に潜伏感染し,免疫抑制状態下で再活性化し,種々の病態を引き起こす。
サーカディアンリズム Circadian rhythm
概日リズムのこと。約24時間11分周期で変動する生理現象で,動物,植物,菌類,藻類などほとんどの生物に存在している。恒常暗,恒常明など恒常条件で維持される活動・生理的リズムを「概日リズム」とよび,自然状態や24時間周期の明暗リズム環境下でのリズムは「日周リズム(diurnal rhythm)」と呼ばれる。高等な生物の機能は一定なものではなく,1日のうちでも内外環境に対応して色々変化する。昼間は交感神経が,夜間は副交感神経の働きが優位となり,睡眠・体温・血圧・消化・血液性状等の変化は顕著で,この変化を日内変動という。脳の視交叉上核が影響を与えているとみなされている。
→時間薬理
細胞毒性医薬品 Cytotoxicity drugs
細胞の核の中に入って DNA に影響を与える医薬品のことである。抗悪性腫瘍薬や免疫抑制薬の多くとビタミン A 誘導体の一部がこの範疇に入る。別名,変異原性医薬品とも呼ばれる。
→ケモハザード;バイオハザード
杯(さかずき)細胞
外分泌線を形成する細胞の一種で一個の細胞でも腺として機能する単細胞腺(unicellular gland)に分類され,気道粘膜においては多列繊毛上皮間に,腸絨毛において吸収上皮細胞間に散在する。気道疾患に罹患すると,中枢気道では杯細胞の過形成が,末梢気道では杯細胞の過形成及びクララ細胞から杯細胞への異形成が生じ,粘液(痰)の過分泌が生じると言われている。
サテライトファーマシー Satellite pharmacy
院内中央の薬局ではなく各病棟や手術室に設けられた薬局で薬剤師が常駐している。病棟における薬剤の管理・適正使用の指導,入院患者の服薬指導・薬歴管理,処方箋・注射指示の一次チェック機能を担う。施設により注射調剤業務・混合・内服薬調剤を行うこともある。
擦式手指消毒剤
直接手掌にとり,乾燥するまで手指に擦り込んで消毒する方法に使用する速乾性の消毒剤のことである。塩化ベンザルコニウムやグルコン酸クロルヘキシジン等の薬剤・アルコール類を中心に皮膚保護剤が配合されているものもある。アルコールは,広い範囲の微生物に有効で速効的効果が期待でき,常に新しい液で消毒するので濃度低下や細菌汚染の心配がないが容器からアルコールが揮発するので開封後の使用期間に注意する。
→手指消毒法;スクラブ法;スワブ法;ベースン法;ラビング法
サルコイドーシス Sarcoidosis
多発・多臓器にわたる原因不明の類上皮非乾酪性肉芽腫を認める疾患である。典型的には若年女性にやや多い傾向があり,両側肺門部リンパ節腫脹・肺野病変・皮膚・関節およびブドウ膜炎・網膜浸潤等の症状を呈し,視力障害から失明する場合もある。治療にはステロイドホルモンの投与が有効であるが難治性症例もある。サルコイドーシス全体では70% に近い症例で自然寛解が得られるが30% 程度の症例で慢性,ないし進行性の経過をとる。サルコイドーシスが死因となるのは患者は極めてまれであり,死因は進行性の呼吸不全,中枢神経病変や心臓病変によるものである。感染・異物反応・自己免疫説等があるが原因はなお不明である。
サルコペニア Sarcopenia
加齢,疾患,低栄養などにより,筋肉量の減少と,それに伴い握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を指す。歩くスピードが遅くなる,杖や手すりが必要になるなどの「身体機能の低下が起こる」状態を起こす。重症化して要介護状態になると改善が難しいため,予防と早期の治療が重要である。
→ロコモティブシンドローム
ジェネリック医薬品 Generic medicine
後発医薬品のこと。医薬品の有効成分そのものに対する特許である物質特許が切れた医薬品を他の製薬会社が同じ有効成分で製造あるいは販売する先発薬品と比べ薬価の安い医薬品である。
先発医薬品の研究開発には,9年~17年程度の長い歳月と数百億円以上を要すると言われる莫大な投資費用が,コストとして薬価に反映されているが,ジェネリック医薬品の場合,既に有効性や安全性について先発医薬品で確認されていることから開発期間やコストを大幅に抑えられ,結果として薬価も先発医薬品と比べて3割~5割程度も安く設定されている。
紫外線滅菌法 Ultraviolet light sterilization
紫外線の殺菌効果を利用する滅菌法であり,ほとんどの微生物に有効で,芽胞にも効果を示す。
通例,254nm 付近の紫外線を用い,ガラス製・金属製・ゴム製・プラスチック製・繊維製の物品,及び施設・設備・水・医薬品等に適用する。
時間薬理学 Chronopharmacology
時間生物学は生物の生理機能に時間概念を導入することで,生物固有の内因性周期性変動を明らかにした。この時間生物学に薬理学領域の時間概念を組み込んだ学問を時間薬理学という。つまり,生体リズムと薬効の相関関係についての学問である。薬理作用の時間的変動を明らかにし,薬の効果的な投与時間の設定や,副作用の軽減を目的とした投与法が研究されている。
→サーカディアンリズム
シクロオキシゲナーゼ Cyclo-oxygenase(COX)
リン脂質からアラキドン酸を経由し,プロスタグランジン(PG)合成に至る代謝経路で重要な役割を果たす律速酵素で,PG 合成酵素と呼ばれる。COX には,COX1と COX2という2種類のアイソザイムが存在するとされてきたが,COX3が発見され,現在は3種類となっている。
COX1は,胃・腎臓・血小板において,生体維持に関わる PG を産生しているものと考えられる。COX2は炎症により誘導される酵素で,炎症部位でプロスタグランジンを生成するため痛みを引き起こす。現在使用されている酸性非ステロイド性抗炎症薬(インドメタシン等)の多くは,COX2よりも COX1を強く抑制する。そのため COX1の阻害により胃潰瘍や腎障害を引き起こす。
また,COX3は脳内で痛みに関与すると言われており,一時,アセトアミノフェンの作用部位と考えられたが,現在では否定的である。
→COX-2選択的阻害薬
敷地内薬局
保険医療機関の敷地内に設置されている保険薬局。
医薬分業においては,薬剤師が処方医とは独立した立場で,患者に薬学的管理を行う必要があるという理由から,保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(療担規則)で,保険薬局が保険医療機関と「一体的な構造」を取り,「一体的な経営」を行うことを禁じている。しかし,2015年6月の政府の規制改革会議により保険薬局設置についての「一体的な構造」の解釈が緩和された。そのため,保険医療機関の敷地内に設置しても,次の条件が確保されれば求められることとなった。①保険医療機関の建物内ではない。②建物と専用通路などで接続されていない。③当該保険医療機関が休診日であっても公道などから当該保険薬局に行き来できること(当該医療機関受診患者以外も含む)。門内薬局,構内薬局とされることもある。また,敷地外にある薬局に比べて調剤報酬点数が低く設けられている。
自己血輸血 Autotransfusion
手術等で必要となる輸血を患者本人の血液を使用して行うことである。一般の同種血輸血に比べて,①輸血後感染症防止②同種抗体生成防止③交差試験の必要がない④輸血後 GVHD の予防⑤アレルギー反応の予防⑥稀な血液型の輸血等の利点がある。自己血輸血には,貯血式(液状貯血式・冷凍貯血式),希釈式,回収式がある。
→GVHD
ジスキネジア Dyskinesia
抗精神病薬の服用に伴って起きる不随意運動の総称で,自分の意志に関わりなく次のような症状を呈する。舌鼓を繰り返す,舌を突き出す,口をすぼめる,唇を尖らせる,口をもぐもぐと動かす,歯をくいしばる,まばたきを繰り返す,まぶたが開けにくい,指を繰り返し曲げ伸ばしする,腕をねじるような動きをする,体をくねらせる,ねじるような動きをする。
→遅発性ジスキネジア
システマティックレビュー
通常は臨床試験論文をデータベース検索や参照文献リストなどによって収集し,そのデータを総括して評論すること。それに対して,コクラン共同計画におけるシステマティックレビューとは,ある目的とする医学的介入についてのエビデンス(科学的根拠)を明らかにするために,世界中からの論文をあらかじめ定めた基準で網羅的に収集し,批判的評価を加え,要約し,公表するための方法である。
→コクラン共同計画
ジスルフィラム様作用 Disulfiram-like action
嫌酒薬であるジスルフィラムは,エタノールの代謝過程で,アセトアルデヒドの代謝酵素であるアルデヒドデヒドロゲナーゼを阻害することで,血中のアセトルデヒド濃度を上昇させる。ジスルフィラム投与後,エタノールを摂取するとアセトアルデヒド濃度の上昇により顔面紅潮,悪心,嘔吐,めまい,頻脈,動悸,血圧低下などの症状が発現する。これと同じような作用をジスルフィラム様作用と言い,一部の糖尿病薬やセフェム系抗生物質等で現れることがある。
最近では,脳内のオピオイド受容体に作用して飲酒量を提言する節酒薬もあり,軽度の依存症や断酒への中間目標として用いられることもある。
持続性製剤(持効性製剤) Sustained-release preparation
1回の投与で薬物の有効血中濃度を長時間保つようにした製剤で,持効性製剤ともいう。経口持続性製剤の共通点は薬物の消化管内における放出を調節することである。製剤として徐放性製剤(Sustained release)・反復放出性製剤・放出制御製剤(Controlled release)等が開発されている。
→アンテドラッグ;イオントフォレーシス;コントロールドリリース;ターゲッティング療法;プロドラッグ;DDS;TTS
市中感染型 MRSA community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus:CA-MRSA
入院中ではなく,通常の社会生活の中でも感染しうる MRSA。近年,強毒性の株が問題視されている。市中感染型 MRSA を保菌している患者が入院した際に,他の入院患者に伝播する可能性があるため注意が必要である。
→MRSA
市中肺炎 Community-acquired pneumonia
通常の社会生活を営んでいる人に発症する肺炎のことをいう。優れた抗生剤・抗菌剤の登場により感染症の治療成績は著しい向上をみせたにも係わらず,いまだに高齢者や合併症を有する患者に対し高い死亡率を有している。
市中肺炎の原因菌として最も多いのは肺炎球菌で,これに対し院内肺炎の原因菌としては,黄色ブドウ球菌や緑膿菌が多い。
→院内肺炎
シックデイ Sick day
普段は良好な血糖コントロールが得られている患者において,糖尿病以外の不慮の疾患(風邪や怪我,発熱や嘔吐,下痢など)などにより,血糖値が変動しやすくなり,急性合併症が起こりやすくなるような状態を「Sick day(シックデイ)(病気の日)」という。特に高齢者では意識障害が認知症の進行と思われることもあるので注意が必要。
シックビル症候群 Sick Building Syndrome
ビルの中で換気不足により有害物質にさらされ,めまい,吐き気,頭痛,眼・喉・鼻の痛み,平衡感覚の失調を訴える健康上の問題をシックビル症候群という。原因は合板等に含まれるホルムアルデヒドや CO,CO2,揮発性有機化合物等,複数の汚染物質が他の物理的,心理的要因と結びついて様々な症状を起こさせる。
実効再生産数(Rt)
ある時刻「t」における1人の感染者が全感染期間に感染させる人数の平均値。1以上で増加傾向,1未満で減少傾向を表す。
シバリング
体温低下時に,体温の回復を主な目的とした,無意識に生じる身震いのことをいう。(筋肉を動かすことによって熱を発生さる現象。)術後に起こることが多い。シバリング発生時は,①酸素消費量が少なくとも約2倍に増加する,②交感神経の緊張から眼圧や脳圧が上昇,③筋肉の収縮により創部痛を増強を招くため,予防や治療が必要。
市販直後調査
新医薬品販売後6ヶ月に期間を限定して行われる,医薬品の副作用・感染症報告制度のこと。
製薬企業が医療機関に対して確実な情報提供や注意喚起を行い,重要な副作用及び感染症の情報を収集する。それらの情報をもとに必要な安全対策を実施することで,副作用等の被害を最小限にすることを目的としている。
脂肪乳剤 Fat emulsion
腸からの栄養摂取が不十分または不可能な患者へ,経静脈的に栄養補給するための輸液製剤で,精製ダイズ油を精製卵黄レシチンで乳化した微細で安定な乳剤である。末梢及び中心静脈より高カロリー補給が可能で,窒素平衡の改善・必須脂肪酸の補給に効果がある。
重症熱性血小板減少症候群 severe fever with thrombocytopenia syndrome(SFTS)
マダニ(フタトゲチマダニなど)を介した SFTS ウイルス(SFTSV)による感染症。6日〜2週間の潜伏期を経て,発熱,消化器症状(食欲低下,嘔気,嘔吐,下痢,腹痛)が多くの症例で認められ,その他頭痛,筋肉痛,意識障害や失語などの神経症状,リンパ節腫脹,皮下出血や下血などの出血症状などを起こす。検査所見上は白血球減少,血小板減少,AST・ALT・LDHの血清逸脱酵素の上昇が多くの症例で認められ,血清フェリチンの上昇や骨髄での血球貪食像も認められることがある。致死率は6.3〜30%と報告されている。血液等の患者体液との接触により人から人への感染も報告されている。治療は対症的な方法しかなく,有効な薬剤やワクチンはない。
重大な副作用
治療が遅れると死に至るおそれのある副作用のことで,薬剤師法の25条の二が施行されて以来,この副作用の初期症状を患者に情報提供し,重大な副作用を回避する試みがされている。
→添付文書;副作用;副作用の重篤度分類基準
集団免疫
人口の一定割合以上の人が免疫を持つと,感染患者が出ても,他の人に感染しにくくなることで,感染症が流行しなくなる状態のこと
手指消毒法
手指消毒法には,①スワブ法(清拭法)②スクラブ法(洗浄法)③ラビング法(擦式法)の3種類がある。古くはベースン法(浸漬法)が使用されていたが,交差感染を起こす危険性があるため,現在は使用されていない。→擦式手指消毒剤;スクラブ法;スワブ法;ベースン法;ラビング法
腫瘍マーカー Tumor marker
悪性腫瘍から高い特異性を持って産生されるが,正常細胞や良性疾患ではほとんど作られない物質で,腫瘍診断に役立つものをいう。α - フェトプロティン(AFP)・癌胎児性抗原(CEA)・シェローマタンパク・異所性ホルモン・アイソザイム等がある。
使用期限 Term of application
製品を開封しないで指定された保存条件下においた場合に品質が保証される期限。製品によって使用期限の設定期間はさまざまであるが,3年を超えて安定性が保証された医薬品は使用期限の表示義務はない。3年未満の場合は使用期限のほか,パッケージやラベル等に「記」の表示が義務づけられる。
上部消化管内視鏡 esophagogastroduodenoscopy;EGD
食道・胃・十二指腸の器質的疾患を診断あるいは治療する目的で製作された内視鏡。経口内から挿入する経口内視鏡,鼻腔内から挿入する経鼻内視鏡がある。以前の略称は GF(gastrofiberscopy)または GIF(gastro-intestinal fiberscopy)が使用されていた。
→下部消化管内視鏡
→ポリープ切除
静脈栄養法 parenteral nutrian; PN
経腸栄養が不可能な場合や,経腸栄養のみでは必要な栄養量が摂取できない場合に行われる栄養療法。末梢静脈内に栄養素を投与する末梢静脈栄養法(peripheral parenteral nutriotion;PPN)と中心静脈内に栄養素を投与する中心静脈栄養法(total parenteral nutrition;TPN)がある。
→栄養療法
→経腸栄養法
照射滅菌法 Radio sterilization
滅菌方法の1つで,透過性に優れたガンマ線を照射する放射線滅菌法,250~280nm の紫外線を照射する紫外線滅菌法,電子レンジと同様の高周波を照射する高周波滅菌法がある。
心胸郭比 CTR cardiothoracic ratio
胸部レントゲン写真上,胸郭の幅と心臓の横径の比をとって,心胸郭比として,心臓の拡大率の指標とする。健常者成人では,50%以下が正常の目安とされ,50%以上であると心臓が大きい「心拡大」と判断されることが多い。
消失速度定数
薬物がどれだけの速度で体内から消失していくかを表す定数である。体内からの消失のしかたにより,それぞれ単位が異なる。例えば,薬物の体内からの消失が一次消失式により定義される場合は,その消失速度定数は,時間の逆数の単位を持つ。
消失半減期
消失により,体内の薬物の濃度が半分になるときに掛かる時間のこと。t1/2とも記される。
血中濃度半減期,単純に半減期ともいわれる。消失半減期は体内での薬の効果時間の目安とされているが,個人差があるため,あくまで目安である。また,薬物が一次消失による血中濃度推移に従う場合は,消失半減期から消失速度定数を求めることができる。
→生物学的半減期
初回通過効果 First-pass effect
経口投与された薬物が循環系に入るまでに,消化管・肝臓で受ける代謝反応によって体循環に出現する薬物量が少なくなるような効果。経口投与の場合,薬物が小腸にて吸収されるときに,小腸粘膜から吸収された薬物は門脈から肝臓を通り,全身循環血に移行する。この時,肝臓を通ることで薬物代謝や分解を受け,全身循環血に移行する薬物量が減ってしまうこと。また,小腸上皮細胞で薬物が代謝酵素での代謝を受けることがわかっており,全身循環血への移行に無視できない影響を与えている。この効果が大きいと,吸収率が100%でもバイオアベイラビリティが100%にならない。初回通過効果が大きいため,薬効が期待できない薬物については,投与経路を変更する必要がある。それには,初回通過効果を受けない,注射としての投与や,皮膚,鼻腔,舌下,直腸下部からの投与ができる経皮吸収剤,点鼻剤,バッカル剤,坐剤による投与も開発されている
食道静脈瘤硬化療法 Sclerotherapy for esophageal varices
肝硬変等で門脈圧亢進症が発生すると,門脈系から上大静脈系の副血行路として食道静脈は拡張・蛇行し食道静脈瘤が形成される。この食道静脈瘤に対して行う内視鏡的止血法で,内視鏡下に直接静脈瘤あるいはその周囲を穿刺して硬化剤を注入する方法である。硬化剤として5%オレイン酸エタノールアミン・1%ポリドカノール等を用いる。
ショートステイ(短期入所)
普段は在宅でご家族や在宅訪問看護師等から介護・療養(医療的ケア)を受けている方が,介護者の一時的な理由や休息のために短期間だけ施設に入所して食事や入浴などの介護や医学的管理を受けることができるサービスのこと。
→レスパイト入院
処方箋 Prescription
医師が特定の患者の疾病に対して,治療に必要な医薬品を選定し,その分量および用法用量ならびに使用期間を定めた内容(処方)を記載したもの。薬剤師に対して,その処方に従って医薬品を整えることを要求するための文書である。 医師法および歯科医師法に処方箋の交付義務,記載事項が規定されている。一方,薬剤師は処方箋に従った適切な調剤を行なわなければならないが,処方箋に疑義がある場合には,それを確認した後でなければ調剤してはならないことが薬剤師法で定められている。
シーリングエフェクト(有効限界・天井効果) Ceiling effect
一般の薬では投与量を増やしていくと,一定の量以上では治療効果は頭打ちとなり副作用ばかりがでてしまうことを指す。モルヒネにはシーリングエフェクトはなく,痛みに応じて徐々に増量することによってどこまでも鎮痛効果が期待できる。
新型インフルエンザ Pandemic influenza
インフルエンザウイルスが変異することで,これまでにヒトに感染しなかったインフルエンザウイルスがヒトへ感染するようになり,そしてさらにはヒトからヒトへ感染するようになったインフルエンザウイルス。これまでにスペインインフルエンザ,アジアインフルエンザ,香港インフルエンザ,ソ連インフルエンザが世界的に流行し多くの死者を出している。従来のインフルエンザと異なるため,ヒトが免疫を持っていない。ワクチンや治療薬が効果を示すか未知数であることから,急速に世界的流行(パンデミック)することが考えられる。2009-2010シーズンにおいて,豚インフルエンザが新型インフルエンザとして流行し,多数の患者がでた。またより毒性の強い鳥インフルエンザの新型への変異が懸念されている。
→鳥インフルエンザ,パンデミック
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
COVID-19とは coronavirus disease 2019(2019年に発生した新型コロナウイルス感染症)を略した言葉。SARS-CoV-2と呼ばれるウイルスが原因で起きる感染症。2019年の終わりごろに中華人民共和国の湖北省武漢市で肺炎患者の集団発生が報告されたのを皮切りに,あっという間に世界中に感染が拡大した。感染経路は感染者(無症状病原体保有者を含む)から咳,くしゃみ,会話などの際に排出されるウイルスを含んだ飛沫・エアゾル(飛沫より更に小さな水分を含んだ状態の粒子)の吸入が主要感染経路と考えられている。
現在ではワクチン,中和抗体の他に抗ウイルス薬も承認され,点滴薬のベクルリー,経口薬のラゲブリオ,パキロビット,ゾコーバもある。
新規経口抗凝固薬 new/ novel oral anticoagulant(NOAC)
ワルファリンに代わる非弁膜症性心房細動による脳梗塞の予防薬として開発された経口抗凝固薬の総称。臨床適用が開始されてから時間も経ち,すでに新規性は薄れていること,ならびに国際血栓止血学会の提唱により,直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)という表現で統一された。
→直接経口抗凝固薬;direct oral anticoagulant
シングルユース器材(SUD) Single use device
単回使用の,使い捨て医療器材のこと。ディスポーザブル医療器材。
人工透析 Artificial dialysis
腎障害によって生じる血中有害物質の停滞・体液平衡の異常に対して,浸透圧差を利用して有害物質を排除し,体液組成の正常化をはかる手段である。腎機能が著しく低下した時(腎クリアランス値10mL / min 以下)に適用される。透析療法には,半透膜として生体膜を利用する腹膜透析法(PD)と人工膜を用いる血液透析法(HD)に大別される。
→血液透析;CAPD
人工涙液 Artificial tear solution
涙液の流量が減少している患者の角膜損傷を防ぐ目的で用いられる点眼用液であり,組成・性状において,物理化学的にも生物学的にも正常涙液に極めて近い性質を有する無菌的な点眼薬である。涙液減少症・結(角)膜乾燥症・乾性角結膜炎等に用いられている。
診断群分類
諸外国ではそれぞれが独自のケースミックスシステムを用い疾病分類を行い,保健医療に利用している。
日本では1998年に日本版 DRG/PPS として試行が開始された際に利用された診断群分類で,現在は平成15年度4月に特定機能病院等82施設から開始された包括支払い制度で利用されているDPC(Diagnosis Procedure Combination)version3 を指すことが一般的である。これは平成13年から2年間,厚生労働科学研究で開発されたケースミックスで診断と手術を含む14桁のコードで表現され,先頭の2桁を主要診断群という。
診療情報管理士
平成8年に資格名称を診療情報管理士に変更し,四病院団体協議会【(社)日本病院会,(社)全日本病院協会,(社)日本医療法人協会,(社)日本精神科病院協会】および(財)医療研修推進財団で認定を行っている。
病院機能評価の基準で,退院患者2000名につき1名の担当者の配置が望ましいとされるなどのからニーズが増大している。また,従来の業務内容であった,退院後の診療録の回収,点検,製本,情報の登録と提供,統計の作成については電子カルテの普及で減少している。一方で DPC 病院の拡大により DPC コーディングが重要な業務となっている。
新六者懇
正式名称を新薬剤師養成問題懇談会といい,従来の六者懇のメンバー(文部科学省・厚生労働省・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会,国公立及び私立の薬科大学を加えた六者)に加えてオブザーバーとして薬学教育協議会,日本薬学会薬学教育改革大学人会議,日本薬剤師研修センターで構成されている懇談会。薬学教育6年制における,薬剤師養成に関する今後の方向性や種々の検討課題をそれぞれの立場で問題提起,検討する会。
推算糸球体濾過量 estimated glomerular filtation rate(eGFR)
腎臓が1時間あたりに処理できる尿量を示す GFR(糸球体濾過量)を計算式から求めたもの。
GFR を正確に測定するには,1日の尿を貯める検査が必要であるが煩雑なため,血液中のクレアチニン値を用いて推算する。eGFR の値が60ml/min/1.73m2以下の場合には腎機能の低下が疑われる。
→慢性腎臓病
垂直感染 Vertical transmisson
病原体が親から子どもに伝播される感染様式のことである。妊娠中の胎内感染,出産時の産道感染,出生後の経母乳感染などがある。母子感染ともいう。垂直感染を起こしうる疾患には,風疹・梅毒・ヘルペス・B 型肝炎・HIV 感染症などがある。一方,個体から個体に感染することを水平感染と呼ぶ。
スイッチ OTC 薬 switch OTC drug
医療用医薬品として用いられていた有効成分を一般用医薬品として使用できるようにスイッチした(切替えた)もの。医療用医薬品を一般用医薬品にスイッチするためには,その医療用医薬品の再審査または再評価が終了していることが必要で,一般用医薬品として適切な医薬品かどうかについて審査が行われる。 なお,平成26年の薬事法改正により,医療用から一般用に移行してからの期間が短いために,一般用医薬品としてのリスクが不明なスイッチ OTC 薬は,適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要な「要指導医薬品」として,一般用医薬品と区別して取り扱うこととされている。
睡眠潜時 sleep latency
眠るように指示して消灯した時点から睡眠開始までの時間
スクラブ法
手指消毒法の一種で洗浄法とも言われている。洗浄液入りの消毒剤と水を使って手指を洗いながら消毒する方法で,ブラシなどを併用することが多い。この方法は“洗ってから消毒する”という消毒の基本操作が1回で行えるが,洗浄中に泡が空中に飛散するので,清潔区域で殺菌力の弱い洗浄剤を使用するとかえって汚染をひろげることもある。
→擦式手指消毒剤;手指消毒法;スワブ法;ベースン法;ラビング法
スタンダードプリコーション Standard Precautions 標準予防策
「患者の血液・体液や患者から分泌排泄されるすべての湿性物質(尿・痰・便・膿)は感染症のおそれがある」とみなして対応する方法。これらの物質に触れた後は手洗いを励行し,あらかじめ触れるおそれのあるときは,手袋,エプロンなどを着用するというのがその基本となる。この予防策はすべての患者に適用される。
→院内感染;院内肺炎;感染経路別予防策;コンプロマイズドホスト;日和見感染症;MDRP;MRSA; VRE
スティーブンス・ジョンソン症候群 Stevens-Johnson syndrome
スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群:SJS)は,重症型多形滲出性紅斑(erythema exsudativum multiforme major:EEMM)と同義語とされており,高熱とともに口唇,口腔,眼結膜,外陰部に高度の発赤,びらん,出血などの粘膜病変が,さらに全身の皮膚に紅斑,水疱,びらんが認められる重篤な全身性疾患である。初期症状は,発熱,左右対称的に関節背面を中心に紅斑(target lesion 等)が出現し,急速に紅斑の数を増し,重症化するにつれ,水疱,びらんを生じ,融合する。眼,口腔粘膜,外陰部などの粘膜疹を伴うことも多く,検査所見では白血球増多,赤沈亢進,CRP 陽性などを示す。発熱などの全身症状とともに,多形滲出性紅斑様皮疹(target lesion),広範な粘膜疹が急激に生じることにより診断は困難ではない。呼吸器障害(肺炎等)や肝障害等の合併症を来し,その死亡率は6.3%との報告がある。
スティーブンス・ジョンソン症候群は単純疱疹ウイルス,肺炎マイコプラズマ,細菌,真菌等の種々のウイルスや細菌による感染症,医薬品,食物,内分泌異常,悪性腫瘍,物理的刺激などによって起こるアレルギー性の皮膚反応(Ⅲ型アレルギー)と考えられているが,医薬品の副作用として出現する場合が多い。文献によるとスティーブンス・ジョンソン症候群の59%は医薬品が原因と推定されたとする報告がある。
→中毒性表皮壊死症
ステロイド steroid
ステロイド骨格と呼ばれる構造をもった化合物の総称で,生体内ステロイドには種々のステロイドホルモンや,胆汁酸,細胞膜の構成に重要な脂質であるコレステロールなどがある。ステロイドホルモンは,その機能から,性ホルモン,糖質コルチコイド(グルココルチコイド),鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)などに分類されるが,糖質コルチコイドであっても鉱質コルチコイドのような塩類代謝作用を弱いながらも持ち,機能による分類は一応の目安である。
病気の治療に用いられる「ステロイド」は,ステロイドホルモンを配合した薬品(ステロイド剤)のことであり,多くの場合は糖質コルチコイドである。スポーツなどでドーピング問題として取り上げられることがある「ステロイド」は,合成されたタンパク同化ホルモンのことが多い。
スワブ法
手指消毒法の一種で清拭法ともいう。綿球またはガーゼに消毒剤を浸し,皮膚面を拭き取ることによって汚染を取り去り,清浄にするとともに消毒する方法。清拭消毒には消毒用エタノールが多く用いられる。創傷部位・術野および注射部位などの皮膚消毒に用いられている方法であるが,手指消毒法にも適用される。皮膚と消毒液が一定時間接触していなければ消毒効果は期待できない。
→擦式手指消毒剤;手指消毒法;スクラブ法;ベースン法;ラビング法
生活改善薬(Lifestyle drug,Amenity Medicine)
生活改善薬とは,「命にかかわる病気や症状の治療のために使う薬ではなく,その人の生活の質を高める薬」のことで,アメリカでは「ライフスタイル・ドラッグ」とか「アメニティー・メディシン」と呼ばれている。禁煙補助薬,勃起不全治療薬,経口避妊薬,発毛剤などが,これにあたる。
→禁煙補助剤;低用量ピル;AGA;ED
セカンド・オピニオン Second opinions
患者が自分の疾患について,受診している担当医師以外の医師から診断,治療方針などの意見を求めること,あるいはその意見。担当医師に「すべてを任せる」という従来の医師患者関係を脱して,複数の専門家の意見を聞くことで,より適した治療法を患者自身が選択していくべきと言う考え方に沿ったもので,アメリカなどで広く普及しているが,より良い治療を受けるための患者の権利として日本でも広がりはじめている。
成人呼吸窮迫症候群 Adult Respiratory Distress Syndrome(ARDS)
既往に肺の基礎疾患がなく,突然の全身的・局所的重篤な侵襲により,高度な呼吸困難・低酸素血症・両側びまん性肺陰影を呈することを特徴とする病態で,病因論的には肺毛細血管の透過性亢進を機序とする1種の非心原性肺水腫である。
→ARDS
生物学的半減期 Biological half life
生体内に取り込まれた化学物質が,血液中,その他の臓器,または生体内より代謝排泄されて最初の濃度の1/2になるまでの時間のことである。化学物質の蓄積性の指標になる。
→消失半減期
セプシス(敗血症 Sepsis)
感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群。感染症(疑いを含む)と臓器機能障害の評価として Sequential(Sepsis-Related) Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(呼吸,凝固,肝臓,心血管,中枢神経,腎臓)を使用し,2点以上の上昇している状態。
選択毒性 Selective toxicity
化学療法において,標的とする微生物や癌化した細胞に対してのみ強い毒性を示し,その宿主細胞(高等生物細胞)にはほとんど障害を与えないことをいう。選択毒性の機序として,細胞の構造の違いや細胞の代謝系の差などが知られている。
セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ) ST. John’s Wort(SJW)
主にヨーロッパから中央アジアにかけて分布している多年生植物「セイヨウオトギリソウ」であり,これを含有する製品はうつ病や不安障害に効果があるとされ,米国や欧州では伝統的医薬品として広く流通している,わが国においては,健康食品扱いであり , ハーブとして市販されている。セント・ジョーンズ・ワートの主要な有効成分であるハイパフォリンは神経伝達物質の取り込みを阻害することで抗うつ作用を示す一方,薬物代謝酵素であるチトクローム P450(CYP3A4 ,CYP1A2) を誘導する作用をもち,多岐にわたる医薬品との相互作用による有害事象が報告されている。
た行
ダイオキシン類 Dioxins and dioxin-like compounds
環境ホルモンの代表的物質であり , ごみの焼却などの際にできる化学物質の一種。ダイオキシン類はポリ塩化ジベンゾ - パラ - ジオキシン(PCDDs),ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs) ,コプラナー PCB(Co-planarPCB)という3種類物質群の総称で,一度生成すると分解されにくく ,水には溶けにくく , 脂肪などに溶けやすいという性質をもっている。ダイオキシンの毒性は,急性毒性の他に,慢性毒性として , 発がん性 , 生殖・発生毒性 , 免疫毒性などが報告されている。
→環境ホルモン;DEHP
対掌体(鏡像体) Antipode, Enantiomer
旋光性をもつ物質には,一般に右旋性化合物と左旋性化合物が存在し,両者の立体構造は重ね合わすことができず,右手と左手との関係になっている。このような一対の化合物を互いに対掌体という。対掌体は旋光性の方向だけが反対で,旋光度の絶対値・沸点・融点・種々の溶媒に対する溶解度等全く同じである。しかし,生物に対した場合には,味覚・生理作用等の性質は同じではない。(ex.D- アスパラギンは甘く,L- アスパラギンは無味)
→キラリティー;光学異性体
代替医療(だいたいいりょう) Alternative medicine
通常の「現代西洋医学」に代わりに用いられる医療の総称。漢方・針灸・気功などの東洋医学をはじめとして,栄養学,ハーブ(薬草)療法,ヨガ,マッサージ,ホメオパシー,アロマテラピーなどさまざまな民間療法がある。ヨーロッパでは「補完医療(Complimentary Medicine)」と呼ばれ , 世界保健機関(WHO)では伝統医療(Traditional Medicine)として扱われている。
代替医療を行っていることを主治医に伝えない患者が多いことが問題となることがある。
ターゲッティング療法 Targeting therapy
ドラッグデリバリーシステムの1つで薬物に体内の標的部位への指向性を与え , 選択的な薬物送達を実現し , 治療する方法である。例えば,脂肪微粒子リピッドマイクロスフェアーは,従来脂肪輸液として用いられたが,静注後損傷を受けた血管や動脈硬化部位に選択的に移行する特徴を有している。この性質を利用して,プロスタグランジン E1を含有させた製剤は閉塞性血管病変や虚血病変に臨床応用されている。
→アンテドラッグ;イオントフォレーシス;コントロールドリリース;持続性製剤;プロドラッグ;DDS;TTS
建値制度 Quotation system
医薬品メーカー,卸,医療機関の3者の取引に導入された制度の通称で,92年4月から全面実施されている。「建値制度」導入前はメーカーと医療機関の交渉で決められた納入価格で卸が納入するという方式で,卸の利益はメーカーの値引き補償制度によるものであったが,「建値制度」導入後はメーカーが一定の仕切価格で医薬品を卸すため,卸は医療機関との直接交渉により決定する価格によって売買利益を得ることとなった。
ターミナルケア Terminal care(終末期医療)
現代の医療では治癒の見込めない患者を対象に,患者の苦痛の排除(痛みの緩和など)を中心に,死にゆく人の最後を自分らしく過ごし , 満足して最期を迎えられるようにすることに重点をおいたケアのこと。ターミナルケアの対象は,末期がん患者だけではなく,エイズや筋ジストロフィー症などの難病に罹患している患者や認知症患者や老衰の高齢者なども含まれる。終末期医療ともいい,厚生労働省より「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が策定されている。
→パリアティブケア(緩和ケア);ホスピス
チアノーゼ cyanosis
血中の還元ヘモグロビンの増加によって,皮膚,粘膜が暗紫色になる状態。一般的に体表層毛細管中の血液の還元ヘモグロビン量が100mL 中5g 以上となった場合に出現すると言われている。
本来,還元ヘモグロビンは肺で酸素と結びついて酸化ヘモグロビンとなるが,呼吸器疾患(肺気腫,肺線維症,肺動脈狭窄,無気肺など),循環不全(心不全,動脈閉塞),ヘモグロビン異常などが原因となり,全身あるいは一部器官で還元ヘモグロビンの数が増えると,還元ヘモグロビンの色がチアノーゼとして認められる。
治験審査委員会 Institutional Review Board(IRB)
治験(医薬品の臨床試験)実施計画書等の審査を行うため医療機関毎に設置された委員会。
IRB は本来,その治験の倫理的・科学的妥当性を医師(研究者)個人としてではなく,その医療機関全体が社会に対して保証するという意味合いから設置されている。医師個人の科学的論理がたとえ素晴らしいものでも,第三者の了解が必要であることから,構成委員には「少なくとも一人の医学,歯学,薬学その他の医療又は臨床治験に関する専門知識を有する者以外の委員を含めること」としている。
→GCP
治験薬 Investigational drug
厚生労働大臣に医薬品の製造承認を得るために,臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験の実施対象とされる薬物。①未発売医薬品で,開発段階にあるものの製造承認・発売許可申請に必要な臨床成績を収集する目的②既発売医薬品の適用範囲を拡大するため,あるいは有効性を証明するために臨床成績を収集する目的,の2種類がある。被験薬とも呼ばれる。
致死量 Lethal Dose
死に至る可能性のある用量。毒性を示す指標として用いられ,通常,50%致死量(LD50)で表すことが多い。LD50とは動物実験で実験動物を50%死亡させる用量。
遅発性嘔吐 delayed emesis
化学療法に伴う嘔吐のうち,遅発性嘔吐は,抗がん薬投与後24時間以降に発現するもの,と定義されており,そのコントロールは,患者の QOL 維持,さらに精神的安定や治療に対する意欲の向上のためにも必要不可欠である。薬剤の催吐性リスクを適正に評価し,エビデンスに基づいた制吐薬の適切な使用を検討する必要がある。
遅発性ジスキネジア Tardive dyskinesia
ドパミン遮断作用の強い抗精神薬に関連し,ゆっくりあるいは遅れて発症し,反復的な無目的の不随意運動(無意識な口のもぐもぐ運動,舌の回転・出し入れ運動等)が特徴である。難治性で,一部は非可逆性であり,大脳基底核のドパミン受容器の感受性過敏が原因と考えられている。
→ジスキネジア
チモール混濁試験 Thymol turbidity test(TTT)
血清とチモール飽和バルビタール緩衝液を混合し,生成する混濁を測定する方法で,チモール・γ - グロブリン・リポ蛋白が混濁に関与する。免疫グロブリン M(IgM)は反応促進効果が大きい。急性肝炎・慢性活動性肝炎・肝硬変等で高値を示し障害度がわかる。硫酸亜鉛混濁試験(クンケル反応 ZTT;Zinc sulfate turbidity test)と共に膠質反応とも呼ばれるが,平成30年度の診療報酬改定の肝炎対策関連において,「既に別の医療技術に置き換わり,臨床上実施されていない技術」とされ診療報酬から削除となった。
チュアブル錠(咀嚼錠) chewable tablet
錠剤をかみ砕いたり,唾液で溶かしたりして服用する錠剤。吸収は通常の錠剤と同様,消化管である。一般に大型で,そのままでは飲み込みにくい。口腔内崩壊錠と同様,水なしで飲めるが,口腔内崩壊錠が唾液で自然に崩壊するのに対し,噛み砕かなければ錠剤の形状を口腔内で維持する。
中毒性表皮壊死症(ライエル症候群;Lyell syndrome) Toxic Epidermal Necrolysis(TEN)
中毒性表皮壊死症(TEN)は,ライエル症候群(Lyell syndrome)とも呼ばれ,ほぼ全身に及ぶ広範囲な紅斑,水疱,表皮剥離,びらんをきたし,表皮細胞の全層性壊死性変化を本態とする最重症型薬疹である。90%以上は薬剤が原因と推定され,スティーブンス・ジョンソン症候群から移行して中毒性表皮壊死症に至ることもある。初期症状は,発熱や腋窩,外陰部,体幹などに広範囲な紅斑の出現などで,その後,急速に水疱を生じ,水疱は破れやすく(ニコルスキー現象),全身びらん症状を呈する。II 度熱傷に似て,疼痛も著明である。検査所見では血液,肝,電解質などに異常を認めることが多い。多臓器障害の合併症(肝障害,腎障害,呼吸器障害,消化器障害等)を来し,死亡率も高く20~30%とする報告が多い。
→スティーブンス・ジョンソン症候群
直接作用型経口抗凝固薬 direct oral anticoagulant(DOAC)
非弁膜症性心房細動による心原性脳塞栓の予防には,これまで半世紀以上,ワルファリンが用いられてきた。しかしワルファリンには,比較的狭い治療域,個人差が大きい,個体内での変動がある, 食品や他の薬剤との相互作用がある,定期的に PT-INR 値の測定が必要などの欠点も存在した。この欠点を補うために開発されたのが直接経口抗凝固薬(DOAC)である。DOAC には,直接トロンビン阻害薬であるダビガトラン(プラザキサ ®)をはじめ, 血液凝固第 Xa 因子の阻害薬であるアピキサバン(エリキュース ®),リバーロキサバン(イグザレルト ®),エドキサバン(リクシアナ ®)などがある。ダビガトランには,特異的中和剤としてイダルシズマブ(プリズバインド ®)が承認されている。アピキサバン,リバーロキサバン,エドキサバンに対する中和剤としてアンデキサネット アルファ(遺伝子組み換え)が2022年に承認された。
→新規経口抗凝固薬;非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬;NOAC;new/ novel oral anticoagulant;non-vitamin K antagonist oral anticoagulant
手足口病 Hand-foot and mouth disease
主として乳幼児にみられる伝染性のウイルス性感染症で,夏季に流行し , 7月にピークを迎える。病名が示すように,手・足・下肢・口腔内・口唇に小水疱が生じる疾患である。原因ウイルスは,主にコクサッキーウイルス A6,A16, エンテロウイルス71(EV71)で , その他 , コクサッキーウイルス A10などが原因になることもある。
手足症候群 Hand-Foot Syndrome
抗がん薬による化学療法に伴い,手や足の皮膚や爪などの正常細胞が障害を受けることによって引き起こされる一連の症状のこと。原因となる抗がん薬の種類によって皮膚症状が異なるため,見逃さないよう注意が必要である。
低用量ピル Low dose pill
避妊を目的とした卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が含まれている低用量のホルモン剤。従来,避妊以外で婦人科の治療目的に使用されてきたものは中高用量ピルでエストロゲンの量が,50μg より多いものが高用量ピル,50μg のものが中用量ピル,50μg 未満のものが低用量ピルと呼ばれ,低用量ピルにはエストロゲンがおよそ30~35μg 前後含まれている。一定用量を服用する一相性と,生理的な月経周期のホルモンパターンに近づけて段階的にホルモンの量を変えた二相性,三相性等がある。副効用として生理痛の軽減,月経量の減少,生理不順の改善,PMS(月経前症候群)の緩和などがある。
2008年に『子宮内膜症に伴う月経困難症』の治療用低用量ピルが保険適用された。
頻度は高くないが,副作用としての静脈血栓症に注意が必要である。
→生活改善薬
定量噴霧式吸入薬 Metered Dose Inhaler(MDI)
気管支や肺に,有効成分をエアゾールとして,定量的に直接局所に到達させる目的で用いられる薬剤。吸入デバイスとして,加圧噴霧式定量吸入器(pMDI ;pressurezed Metered Dose Inhaler),ソフトミスト定量吸入器(SMI;Soft Mist Inhaler)がある。また,固体粒子のエアゾールを吸入するものとしてドライパウダー定量吸入器(DPI;Dry Powder Inhaler)がある。
→DPI
テタニー Tetany
主に四肢遠位筋に部分的に強い攣縮を起こし,手足の強い屈曲をきたす状態。重症の場合は喉頭筋や呼吸筋,さらには全身の筋におよぶこともあり,平滑筋を侵すこともある。代表的なものが副甲状腺機能低下症で,ビタミン D 欠乏症・過換気症候群・原発性アルドステロン症等でも症状をきたす。また,大量のアルカリ摂取や頑固な嘔吐後,長期におよぶ脂肪性下痢後等にも出現することがある。多くの場合,代謝性アルカローシス・低カルシウム血症・高リン血症を伴い,このことがテタニー発現の引き金と考えられる。
→アルカローシス
デング熱 Dengue fever
東南アジアなどでヤブカ属のネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)などの蚊によって媒介されるデングウイルスが原因の感染症である。急性の発熱性疾患で3~15日の潜伏期間の後,2~4割の人が突然発症し,激しい頭痛,熱(40℃,48~96時間持続),虚脱,関節・筋肉の激痛,リンパ節腫脹症,無熱期(約24時間)に続く2度目の発熱に伴う発疹を特徴とし,良性の経過をたどる。デング熱からデング出血熱に悪化すると死亡する場合もあり,解熱目的でアスピリン製剤を服用すると出血を助長するので注意を要する。
電磁波障害
電気製品や電力施設から日常的に漏れている電気と磁気の波。現在問題とされている電磁波障害としては,VDT(視覚表示装置;Visual Display Terminal) からの電磁波による健康への影響,携帯電話からの電磁波が身体におよぼす影響,医療機器に対する影響があげられる。特に携帯電話から放出されるμ波は心臓ペースメーカーの停止等が報告されているが,一部の PHS では安全性が確認されており,病院内でもスッタフが使用している。
糖尿病療養指導士 Certified Diabetes Educator(CDE)
日本糖尿病療養指導士 Certified Diabetes Educator of Japan(CDEJ)
糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識を有し,医師の指示の下で患者に熟練した療養指導を行うことのできる医療従事者(看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士などの資格を有する者)に対し,認定試験合格者に与える資格。
CDE は都道府県の糖尿病療養指導士認定機構,CDEJ は日本糖尿病学会協会より発足した日本糖尿病療養指導士認定機構が与える認定資格である。
ドクターレター doctor letter
予期せぬ重大な副作用など,薬の安全性に関する緊急かつ重篤な情報の伝達が必要とされる場合に,厚生労働省の指示で製薬企業が配布する文書。製薬企業は,厚生労働省の指示から4週間以内に当該医薬品を使用している医療機関,医療関係者にMRを派遣し,原則として直接配布の上で内容の説明を行われ,緊急安全性情報とも呼ばれる。様式が A4サイズで目立つように黄色に規定されていることから,「イエローペーパー」とも言われる。ドクターレターに準じるものとして,ドクターレターほど緊急性はないが一般的な使用上の注意の改訂情報よりも迅速な安全対策措置をとる場合に発出される「安全性速報」(ブルーレターとも言われる)がある。
特定機能病院
高度な医療の提供,医療技術の開発及び研修を実施しうる病院で,厚生労働大臣が承認したもの。
病床数400以上,16以上の標榜診療科,他の医療機関からの紹介率50% 以上,逆紹介率40% 以上や医師・薬剤師・看護師の人員配置数,集中治療室,無菌病室,医薬品情報管理室など構造設備などの要件がある。平成4年の医療法改正により従来の病院区分が見直されて設定された。地域の医療機関との連携を深め,地域医療における高度医療の提供を担う役割を求められる。特定機能病院では,先進医療を含む,より高度な専門医療を必要とする患者や病気が進行中の急性期の患者を診ることが望ましいとされており,基本的に他の病院や診療所から紹介を受け,受診することで地域医療との機能分化を図っている。2016年に「医療安全管理体制の強化」「外部監査体制の設置」などの承認要件が新たに加わり,医療安全管理部門の体制を強化するために,専従の「医師,薬剤師および看護師」を配置する規定が設けられている。
特発性血小板減少性紫斑病 Idiopathic Thrombocytopenic Purpura(ITP)
明らかな基礎疾患・原因薬剤の関与なく発症し,血小板数が減少するため種々の出血症状をひき起こす疾病。推定発病または診断から6ヶ月以内に治癒する「急性型」は小児に多く,6ヶ月以上遷延する「慢性型」は成人に多い。原因は血小板に対する「自己抗体(血小板抗体)」ができ,抗体と結合した血小板が脾臓で破壊されるために,血小板数が減ってしまうと推定されているが,なぜ「自己抗体」ができるのかについては,未だ不明である。
ドミノ移植
臓器移植を受けた患者から取り出した臓器のうち,利用可能な臓器について,さらに別の患者に移植する方法。1987年に米国で初めて行われた。わが国では,1997年10月臓器移植法が施行されたが,危険が伴う,患者が合併症をおこす,インフォームド・コンセント(IC)がとりにくいという理由から,1999年7月2000年10月に京都大学ではじめて実施された。
ドラッグ・ラグ
海外で使用されている医薬品が,日本で承認されて使用できるようになるまでの時間差のことをドラッグ・ラグという。ドラッグ・ラグには海外で承認されているが国内では未承認である場合と,海外の承認から遅れて日本で承認される場合の2つの側面を持ち,国内患者への医薬品の提供の遅れを意味する。このドラッグ・ラグ解消にむけて,医薬品の開発と承認を世界と同時に行うための国際共同治験の促進,規制当局の審査体制強化による承認審査期間の短縮,効率的な治験の実施による治験期間の短縮など,国,製薬企業,医療機関がそれぞれ対策をとっている。
その反面,治験における日本人データが乏しくなったという問題も生じている。
トリアージ Triage
災害時に傷病者の緊急度や重症によって,治療や輸送の優先順位を決めることで結果的に生存者を増加させる方法。日本の救命処置・搬送の優先順位は次の段階に分類される。
第一順位……最優先治療群(重症群) 赤色
第二順位……待機的治療群(中等症群) 黄色
第三順位……保留群(軽症群) 緑色
第四順位……無呼吸群,死亡群 黒色
鳥インフルエンザ Avian influenza
水鳥を中心に多くの鳥類に感染するインフルエンザ。この中でも特に病原性の高い鳥インフルエンザが,A(H5N1)および A(H7N9)で,2類感染症に指定されている。高病原性インフルエンザの鳥類からヒトへの感染が報告され,アジアやアフリカなどの一部の国では,現在でも,病原性が強い H5N1および H7N9亜型インフルエンザウイルスによる発生が確認されている。鳥に感染するインフルエンザウイルスは,通常人に感染することはない。しかし,感染した鳥またはその排泄物,死骸等と濃厚に接触(解体や調理等による血液,体液,排泄物等との接触)した場合にまれに感染することがあると言われている。ヒトからヒトへの感染が可能となるように変異したインフルエンザウイルスは新型インフルエンザとされ,世界的流行(パンデミック)が懸念される。
→新型インフルエンザ,パンデミック
な行
内因性交感神経刺激作用 Intrinsic Sympathomimetic Activity(ISA)
β遮断薬の付随的薬理作用の1つで,内因性カテコールアミンが枯渇した状態での薬物自体によるβ受容体の一部分的な刺激効果をいう。すなわち,ISA を有するβ遮断薬は,心拍数・心拍出量の減少作用が少なく,過度の徐脈をきたす恐れが少ない。
→βブロッカー
難病
「難病対策要綱」にて「原因不明で治療方法が未確立であり,かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾病。または,経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず介護等に著しく手を要するために家庭の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病」と定義されている。国の特定疾患対策研究事業の対象として研究班が編成され,ベーチェット病や全身性エリテマトーデスをはじめとした130疾患(2010年現在)が調査研究の対象となっている。2017年には「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が施行され,厚生労働省は難病対策の医療費助成制度として,338疾患(2020年現在)を指定難病として医療費助成制度の対象に指定している。
日本医療機能評価機構 Japan Council for Quality Health Care
1995年に設立された医療の質に関する日本の公益財団法人。医療機関の機能を学術的観点から中立的な立場で評価し,その結果明らかとなった問題点の改善を支援する第三者機関である。医療機関が質の高い医療サービスを提供していくための支援を行うことを目的としている。評価の方法は「書面審査」と「訪問審査」により構成されている。各評価項目の評点が標準的な水準以上であれば認定され,病院機能評価認定証が発行される。認定期間は5年間である。
日本標準商品分類 Japan standard commodity classification(JSCC)
日本の市場で取引され,かつ移動できる商品全てが本分類の対象となる。商品別の把握を必要とする統計調査時等に利用される。その他に,医薬品コードなどの商品コードとしても利用されている。標準分類番号は原則6桁の数字で,医薬品では添付文書のいちばん右上に「87」で始まる番号が記載されている。薬効分類番号や薬価基準収載医薬品コード等は,この番号が基準になっている。
認定薬剤師制度
薬剤師業務の全般にわたって薬剤師という専門職の能力・適性を向上させるために,生涯にわたっての研修等による自己研鑽が必要であり,その生涯学習の成果を客観的に認定する制度。
猫ひっかき病 Cat Scratch Disease(CSD)
猫にひっかかれたり接触した部位に丘疹,ついで所属リンパ節の有痛性腫瘍をおこす感染症で,原因菌は,主にグラム陰性桿菌である Bartonella henselae とされている。潜伏期は3~10日,皮膚の局所反応・リンパ節の腫れの他,ほとんどの人で発熱がみられるが数週間から数カ月で治癒する良性で自然治癒する。
ノイラミニダーゼ Neuraminidase
糖タンパク質や糖脂質などに作用してシアル酸を切り離す酵素である。インフルエンザウイルス表面に存在し,主に宿主の細胞内で増殖したウイルス粒子の細胞膜からの遊離に関係する。抗インフルエンザウイルス薬のザナミビル,オセルタミビル,ペラミビル,ラニナミビルなどは,このノイラミニダーゼの働きを阻害し,A 型,B 型のインフルエンザウイルスに効果を示す。
脳性ナトリウム利尿ペプチド Brain Natriuretic Peptide(BNP)
主として心室から分泌され,血管拡張作用,利尿作用をもち,体液量や血圧の調整に重要な役割を果たしている。健常人における血漿中 BNP 濃度は,極めて低いが,長時間心臓に負担がかかると分泌が行われる。そのため慢性及び急性心不全患者では重症度に応じて著明に増加しBNP の測定は心不全の病態の把握に重要な意義を持っている。近年では NT-proBNP がより頻用されている。BNM 前駆体より BNP と NT-proBNP が生成され,心不全のバイオマーカーとしては BNP と同じ臨床的意義をもち,BNP より,安定性が高く扱いが容易なためである。BNPと NT-proBNP は基準値が異なるため注意する。」
→α型ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド
ノロウイルス Norovirus
冬に多発する感染性胃腸炎の原因の多くを占める小型球形ウイルス。ヒトからヒトへの感染は飛沫感染であり,主に経口感染である。生カキなどの貝類からの感染が知られる。ノロウイルスの増殖は人の腸管内のみだが , 乾燥や熱にも強いうえに自然環境下でも長期間生存が可能なため ,感染患者の吐物や便からも広がり,感染力は極めて強い。潜伏期間は24~48時間で,症状は1日数回から10回以上も繰り返す嘔吐や下痢であり,腹痛や発熱などを伴うこともある。治療は水分補給などの対症療法しかない。通常は2日以内に治まるが,高齢者や体力のない人は重症化することもある。止瀉薬は使用しないことが望ましい。
は行
バイオアベイラビリティ Bioavailability
投与された製剤中の薬物が全身循環血中(吸収過程中の門脈血を除く)に入る割合,すなわち生物学的利用率とその際の速度(生物学的利用速度)と定義される。生物学的利用率は AUC(血中濃度 - 時間曲線下面積 area under the blood concentration-time curve)あるいは未変化体の尿中総排泄量から求め,生物学的利用速度は Cmax,Tmax がその指標となる。
バイオケミカルモデュレーション Biochemical Modulation(BCM)
抗癌剤を投与する際に,他の薬剤(modulator)投与により,その抗癌剤の薬理動態を変化させ,抗癌剤の抗腫瘍効果を特異的に高めたり,毒性を軽減しようとするものである。この場合,modulator は抗癌剤,非抗癌剤どちらでも構わない。
バイオハザード Biohazard
微生物を取り扱う際にみられる微生物汚染による環境被害,微生物災害となりうる状況。自然環境などに重大な危険をもたらす生態系の破壊の可能性が挙げられている。現在,医学・薬学・農学等の分野で大きな問題となっており,特に遺伝子工学の発展に伴う被害が危惧されている。
医療機関では感染性廃棄物が該当し,他の廃棄物と識別できるよう,バイオハザードマークの表示が義務付けられている。
→ケモハザード;細胞毒性医薬品
バイオバーデン Bioburden(=Microbioburden)
試料中に混入する恐れのある微生物の数と種類のこと。滅菌条件などを設定するためにはバイオバーデンの把握が必要であり,微生物の菌種・菌量を測定し,検出された微生物の抵抗性を調べる。単位は「CFU/g」製品1グラムあたり CFU(colony forming units:培養すると出現する集落数) が用いられる。バイオバーデンは,一定のレベルを超えない又は規定した測定微生物を検出しない限り,汚染と考えない。医療機関における医療機器・器具等の滅菌ではバイオバーデンを減少させておくことが重要である。
バイオフィルム Biofilm
細菌などの微生物が生体の硬組織に付着し,菌によって産生されるさまざまな多糖体と菌自体が複合体を形成したもの。多様な細菌が共存した状態で一種の生態系を形成し,個々の細菌のもつ増殖能や病原性の発現を互いにコントロールしている。また,この複合体が粘液状の鎧となり,病巣への固着性と抗菌薬や免疫等の攻撃因子に対する抵抗性を発揮している。カテーテル,ペースメーカー,人工関節など医療用デバイスに形成され,バイオフィルム感染症が起こることもある。
白衣高血圧
医療環境(診察時)に測定した血圧は高血圧を示すが,非医療環境(家庭血圧,ABPM)で測定した血圧は常に正常である状態をいう。この現象は緊張やストレスに一過性に過剰反応を示していることであり,臓器血流の自動調節能の障害や動脈硬化が進んでいる可能性や,将来的に持続性高血圧症に移行し,心血管疾患のリスクもあるため注意が必要である。
→仮面高血圧
バージャー病(閉塞性血栓性血管炎) Buerger disease(Thromboangiitis obliterans(TAO))
動脈及び四肢表在性静脈を分節的パターンで侵す炎症性変化に特徴づけられる閉塞性の疾患である。高度の進行例ではまれに他部血管が侵されるたり,安静時疼痛が出現することもある。病理学的所見は,非化膿性の汎動脈炎または汎静脈炎の所見で罹患血管は血栓を伴う。疫学として男女比は9対1と男性に多く,推定発症年齢は30~40歳代で,喫煙者に発生する確率が高い。
パーシャルアゴニスト(部分作動薬) Partial agonist
受容体に結合しアゴニスト活性を示すが,完全なアゴニストよりは作用が弱い薬物を示す。薬物によって同一の受容体を介する反応でも最大反応が一致するとは限らず,薬物固有の内活量intrinsic activity(α)によって最大反応が決まると仮定すると,α=1の作動薬は完全アゴニスト full agonist,α<1の作動薬は部分アゴニストと呼ばれる。アゴニスト存在下でパーシャルアゴニストを投与すると,パーシャルアゴニストは部分的なアンタゴニストとしての作用を示す。
→アゴニスト
パッチテスト Patch test
接触性皮膚炎の抗原検索に用いられる皮膚貼付試験のことである。対象物質が健常皮膚を刺激しない濃度に希釈して貼付する場合が多い。抗原物質を基剤(ワセリン・水・アルコール等)に混ぜ,小片にのばしたものを,試料数の少ないときは上肢屈側に,試料数の多い場合は,背部皮膚に貼付する。24~48時間後に剥離して30分~1時間後に判定する。
発熱性物質 Pyrogen
静脈注射後,悪寒戦慄を伴う強い発熱を起こす物質のことで,グラム陰性菌の菌体成分であるリポ多糖であるエンドトキシンが代表的なものである。121℃,30分の高圧蒸気滅菌では無効であり,250℃,1時間の乾熱滅菌操作が必要である。
パニックディスオーダー(パニック障害・恐慌性障害) Panic disorder
以前,不安神経症と呼ばれていた一群の症例のことで,不安を主体とする障害の一種である。
何ら心理的病因もなく突然発作的に不安が生じ,同時に頻脈・動悸・呼吸促迫・めまい感等の身体症状が随伴し,恐怖感に襲われる病態のことである。
→PTSD
ハーフキット製剤 Half kit
キット製剤が溶解すべき薬剤のバイアルと溶解液のバッグが一体化した包装形態であるのに対して,双方が別々で,専用の接合部(両頭針)によって両者が用時に接続されるシステムになっているキット製剤。ハーフキットの溶解液があれば薬剤によって溶解液の種類・容量を選択できる利点がある。
→キット製剤,プレミクスト製剤
パリアティブケア(緩和ケア) Palliative care
WHO では,パリアティブケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面する患者と家族に対して行われる積極的で全体的な医療ケア。痛みのコントロール,痛み以外の諸症状のコントロール,心理的な苦痛,社会面の問題,霊的な問題を早期に発見し,的確な評価と処置を行うことで苦痛の予防や,緩和することである。最終目標は,患者とその家族にとってできる限り良好な QOLを実現させることである。日本では , 治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対して行われる積極的かつ全体的なケアとされている。
→ホスピス,ターミナルケア
バリデーション Validation
「検証・確認」が本来の意味である。薬剤用語としては GMP における医薬品製造所の構造設備並びに手順,工程その他の製造管理及び品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し,これを文書とすることによって目的とする品質に適合する医薬品を恒常的に製造できるようにすることを意味する。
つまり,その製造設備や製造方法を用いれば,均質な製品が出来るようにするため,製造設備が化学的に最適な設備であり,最適な条件であることを化学的に保証することである。
パルス療法 Pulse therapy
間欠的に薬剤を大量投与する治療法。全身性エリテマトーデス(SLE),多発性動脈炎,原発性ネフローゼ症候群,間質性肺炎,臓器移植後などに対するステロイドパルス療法が最も一般的。ほかに癌に対する抗悪性腫瘍薬(シクロフォスファミド等),爪白癬に対する抗真菌薬(イトラコナゾール等)などのパルス療法がある。
ハンチントン病 Huntington disease
常染色体優性遺伝型式を示す遺伝性の神経変性疾患で,舞踏運動などの不随意運動,精神症状,行動異常,認知障害などの症状を示す。これらの症状は脳の特定の部分である大脳基底核や大脳皮質が委縮してしまうために生じる。これらの変化は CT や MRI 等の画像検査でみることができる。
パンデミック Pandemic
顕著な感染や死亡が著しい事態を想定した世界的な流行病に対する医学用語で,ある感染症が短期間で世界的に流行することを言う。感染範囲や患者数の規模が大きく , 複数の国や地域にわたって多くの患者が発生し , 感染爆発,あるいは汎発流行と呼ぶ。これに対して地域的に狭い範囲に限定され,患者数も比較的少なく,拡大のスピードも比較的遅い状態をエンデミック(地域流行)と呼び , 感染範囲や患者数の規模が拡大(アウトブレイク)したもので , 比較的広い(国内から数か国を含む)一定の範囲で,多くの患者が発生する場合をエピデミック(地方流行」)と呼ぶ。
非イオン性造影剤 Nonionic contrastmedia
画像診断に際し使用されるイオン化しない造影剤で,親水性原子団を共有結合させることにより溶解性を高め,水溶液中ではイオンに解離せず,一粒子となっている。そのため,浸透圧の低下と共にイオン毒性を軽減させることで造影剤の副作用発現率が減少する。
ピギーバック法 Piggyback
点滴静注用注射薬の混合方法の1つで,2種類以上の輸液あるいはバイアル入りの注射薬と輸液を混合する方法である。一方の輸液セットの三方活栓あるいは Y 字管の部分に他方の輸液セットの注射針を挿入し,混合して注入する。側管からの別の点滴セットを接続して投与すること。
ピークフローメーター Peak flow meters
肺機能の指標の1つであるピークフロー(最大呼気流量)を測定する器具である。患者は定期的にピークフロー値を測定し記録する。喘息発作症状が現れる前にピークフロー値は低下するので,発作の早期予知が可能で,的確な対応がとれる。
非タンパク質カロリー/窒素比(NPC / N 比) non-protein calorie/nitrogen
タンパク質を効率良く利用するために必要な,投与アミノ酸の窒素1g あたりの非タンパクエネルギー量。投与されたアミノ酸以外の栄養素(糖質+脂肪)から計算されるエネルギー量を投与アミノ酸に含まれる窒素量(g)で割った比のことで,アミノ酸が有効にタンパク質に合成されるために必要な指標として,必要エネルギーに対してどれくらいの窒素(アミノ酸)を最低投与しなければいけないのかを表す。アミノ酸が有効に体タンパク質合成に利用されるためには,NPC / N 比が150~220の範囲にあるのが望ましい。N 量の算出は通常,窒素(g)=アミノ酸(g)/6.25で行われる。
ヒトゲノム(ゲノム) Genome
ゲノムとは,DNA 配列として受け継がれている生物の形質を決定するために必要な,ひとそろいの遺伝情報である。ヒトのゲノムは約31億塩基対からなり細胞核内で23~24種の線状 DNAに分かれて染色体を形成している。染色体は1~22番の常染色体と X,Y と呼ばれる性染色体をあわせた24種一組となっている。人間の全遺伝子情報を担っているものであり,人間の生物学的な設計図と言えるものである。
ヒトパルボウイルス B19 Parvovirus
幼少児に多くみられる伝染性紅斑(リンゴ(ほっぺ)病)の原因ウイルス。ターゲット細胞は主に赤血球前駆細胞や赤芽球で,レセプターは赤血球の P 抗原である。感染を受けた赤芽球は増殖を停止し,約7日間赤血球の産生が停止する。
日和見感染症 Opportunistic infection
正常の宿主に対しては病原性を発揮しない病原体が,宿主の抵抗力が弱っている時に病原性を発揮しておこる感染症。メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)感染症 , 多剤耐性緑膿菌(MDRP)感染症,サイトメガロウイルス感染症,トキソプラズマ症などが問題となっている。
→院内感染;院内肺炎;エイズ;感染経路別予防策;コンプロマイズドホスト;スタンダードプリコーション;日和見感染症;AIDS;MDRP;MRSA;VRE
ファーマコビジランス Pharmacovigilance
世界保健機構(WHO)により「医薬品に有害な作用又は医薬品に関するその他の問題の検出・評価・予防に関する科学と活動」と定義され,日本語では「医薬品安全性監視」などと訳されることが多い。ファーマコビジランスの導入により,従来の漠然とした情報収集ではなく,明らかにすべき事項を特定した上で,これに焦点を合わせた確実な情報収集と分析・評価を行うための計画を実施することが必要になった。
→RMP(Risk Management Plan:医薬品リスク管理計画)
ファーマシューティカルケア Pharmaceutical care
患者の QOL(Quality Of Life)を向上させるための薬物治療の提供を意味し,患者を中心に据え,優れた薬剤を患者のニーズに合わせて提供することである。WHO では,「薬剤師行動の中心に患者の利益を据える行動哲学」と定義されている。薬剤師だけでの独占業務とせずに,医師・看護師等,他の医療従事者と連携した業務遂行が重要である。
→QOL
フィブロネクチン Fibronectin
細胞の形質膜に存在し,遊離されたものが血液中に約 300 mg / mL ほど含まれ,比較的高濃度に存在する糖タンパク質。分子量 22 万のサブユニットからなり,血漿中のものは互いに数本の S - S 結合により二量体として,また形質膜のものは二量体ないし多量体として存在する。ドメイン構造と呼ばれる独特な構造をもち,フィブリン,コラーゲン,ヒアルロン酸,ヘパリンなどの生物学的高分子や,細胞表面のフィブロネクチン受容体(インテグリン)と特異的に結合する。フィブロネクチンは,細胞の接着の促進に関与し,細胞の接着性が重要な役割を演じる発生,細胞の分化,器官形成,創傷治癒,免疫担当細胞の認識,止血血栓形成など極めて多彩で,生体の各器官を形成や機能を維持するための重要な生物現象のほとんどに関与している。
フォーカスチャーティング Focus charting
患者の経過を系統的に記述する記録方法。アセスメント,診断,患者の問題点など患者に関するすべての出来事に焦点を当てて記録するフォーカス(F)と,その経過記録であるデータ(D),医療従事者が行ったこういなどのアクション(A),行為・介入に対する結果のレスポンス(R)の4つの要素から構成されている。
フォーミュラリー Formulary
医療機関における患者に対して最も有効で経済的な医薬品における指針。エビデンスや経済性を踏まえて優先的に選択すべき医薬品を指定すること。
副作用 Side effect(SE)
病気の予防,診断もしくは治療で投与された医薬品に対する反応のうち,有害で意図しない反応,すなわち有害事象のうち当該医薬品との因果関係が否定できないものをいう。好ましくない薬の作用を表す有害反応(adverse drug reaction:ADR)も狭義の副作用として含まれる。
→重大な副作用;副作用の重篤度分類基準
副作用の重篤度分類基準
副作用報告の一層の適正化,迅速化を図るため,報告を行う症例の範囲についての判断のための具体的な目安として作成された。副作用の重篤度を3つのグレードに分け,それぞれについて目安となる症状や臨床検査値を示したものである。
グレード1 軽微な副作用と考えられるもの
グレード2 重篤な副作用ではないが,軽微な副作用でもないもの
グレード3 重篤な副作用と考えられるもの,すなわち,患者の体質や発現時の状態によっては,死亡または日常生活に支障を来す程度の永続的な機能不全に陥るおそれのあるもの
→重大な副作用;副作用
不定愁訴 Unidentified complaints
器質性疾患はみられないが,頭重感,眩暈,倦怠感,腹痛等の自覚症状を有するものをいう。
主に自律神経反応性の欠如,均衡を失った時,発現するといわれている。
プライマリー・ケア Primary care
病気や外傷の時,最初に接する1次医療のことである。プライマリー・ケアを1次医療と,それ以前のセルフ・メディケーションの2段階に分け,セルフ・メディケーションの面での薬局の役割(OTC 薬等)が期待されている。
プライマリー・ヘルス・ケア Primary health care(PHC)
1978年,WHO と世界連合児童機関が共同で行ったアルマ・アタ宣言により定義されたもの。
「現実的で科学的妥当性があり社会的に許容可能な方法論と技術に基づいており,コミュニティにおける個人と家族が彼らの参加を通して普遍的にアクセス可能で,自己決定の精神に基づいて発展のすべてのステージにおいてコミュニティと国が維持することが可能なコストで提供可能な,必要不可欠なヘルスケア」と定義されている
フラッシュバック Flashback
依存性薬物やアルコールの使用後,ある期間消失していた精神症状が薬物の再使用により短期間に強く出現したり,あるいは再使用しないにも係わらず症状が出現したり,持続していた軽度の精神症状が増悪する現象。
プリオン Prion
タンパク質からなる感染性因子のことで,タンパク質の誤って折りたたまれた(ミスフィールドした)状態の構造を正常なタンパク質の構造へ伝えることで,伝播する。ウイルスより小さく,遺伝子を持たない。構造からプリオンタンパク質には正常プリオンタンパク質と,構造変化した異常プリオンタンパク質があり,この異様プリオンタンパク質が脳に蓄積するとウシ海綿状脳症(BSE)やクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)等のプリオン病となる。しかし,確証は得られていない。また,異常プリオンタンパク質が凝集したものはアミロイド繊維と呼ばれる構造をとっている。
→アミロイド;クロイツフェルト・ヤコブ病;BSE
ブリッジング試験
海外での臨床試験を活用し,国内での重複試験を避け,よい治療薬を早期に承認取得することを目的として,海外での臨床試験の成績が,日本人の患者でも再現されることを確認するために実施される.この試験を行うためには,薬物動態,有効性,安全性,用法用量設定に関して,国内データと海外データが一致していることが重要と考えられる。
プール熱(咽頭結膜熱) Pool fever
発熱・咽頭炎・結膜炎を特徴とする急性伝染性疾患で,水泳と本症罹患の関連が示唆されたため「プール熱」という呼び方が一般化された。アデノウイルスによるウイルス疾患であるため有効な治療法はなく,化膿性結膜炎が疑われる場合には細菌学的検査を施行し,適切な抗生物質投与を行う。本症患児は急性期と少なくとも回復後2週間は水泳を禁止することが望ましい。
プレアボイド
日本病院薬剤師会医薬情報委員会が行っている,医療現場の薬剤師が,薬物療法に関して患者に対する不利益を回避し最小限に留めるために行った実例報告のこと。プレアボイドは造語で“be PREpared to AVOID the adverse reactions of drugs”の略・呼称。副作用はもとより相互作用,重複投薬,禁忌症,慎重投与,服薬コンプライアンスなど多岐に渡っている。
ブレイクスルー感染
ワクチンを接種し十分な免疫の獲得が期待できる時期以降に感染した場合にブレイクスルー感染と呼ぶ。ウイルスが変異した場合などに生じ,新型コロナウイルス感染症でも問題となった。
ブレイクポイント Break Point(B.P.)
ブレイクポイントの概念は,細菌学と臨床的に分けられ,前者は対象の菌が抗菌薬に対して耐性あるいは感性であるかを判定するものをいう。一方,臨床的ブレイクポイントは感染症に対しては抗菌剤の有効あるいは無効であるかを判定するものである。ブレイクポイントは,抗菌薬の臨床的効果(80%以上の有効率)が期待できる範囲・限界を示す最小発育阻止濃度(MIC)をいう。例えば,ある感染症に対して2つの抗菌薬の MIC を比較する時,大きな MIC でも80%有効率を期待できる方がブレイクポイントの値は大きくなり,この方が優れていることになる。つまり通常の感受性検査では薬剤の MIC の小さい方が高く評価されるが,臨床的ブレイクポイントとは異なる。
プレフィルドシリンジ Prefilled syringe
あらかじめ薬剤を充填してあるシリンジ。調製時における細菌汚染や異物混入,正確な投与量の重点による調整時の過誤防止,救急時の迅速な投与および医療機関における器材や労働コストの削減などが期待できる。無菌性・緊急性などの点から有用性が高いが,シリンジと押し子が分離し,使用時にねじ込むものについては,シリンジと押し子の取り扱いに注意が必要である。
プレミクスト製剤
一般に注射剤のうち薬剤が溶けた状態でソフトバッグに充填されている点滴用注射剤を言う。
また,すぐに使用できる状態の製剤であるため,ready to use とも言われる。
→キット製剤;ハーフキット製剤
プロスタグランジン製剤 Prostaglandins(PG)
プロスタグランジン(PG)という名称は PG そのものだけでなく,トロンボキサン(TX)・ロイコトリエン(LT)・リポキシン(LX)等の炭素20個の不飽和脂肪酸のアラキドン酸から生合成される生理活性物質群総称として使われることが多い。PG は,産婦人科領域(PGF2α・PGE1・PGE2;分娩誘発・陣痛促進),消化器領域(PGF2α;術後腸管麻痺の回復遅延・麻痺性イレウスにおける腸管蠕動亢進,PGE1・PGE2;胃粘膜細胞保護作用・酸分泌抑制作用),循環器領域(PGE1;末梢循環障害における血管拡張・抗血小板作用),眼科領域(PGF2α;眼圧下降作用で緑内障治療)等で使われている。
プロスペクティブ Prospective study
予想される時間的な前向き研究である。疾患の発現等を一定時間に渡って予想・追跡する研究。
→疫学的調査;ケースコントロール研究;コホート研究;プロスペクティブ;メガスタディ;薬剤疫学;レトロスペクティブ
プロテアーゼ阻害薬 Protease inhibitor
タンパク質分解酵素阻害剤ともいう。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の蛋白質は宿主(ヒト)の細胞によって産生される。ヒトの DNA に逆転写酵素で HIV の蛋白質情報を写すことによりHIV の蛋白質をヒトに産生させる。この蛋白質は非常に大きいため HIV プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が適当な大きさに切断することにより HIV は増殖する。この働きを妨げるのがプロテアーゼ阻害薬である。嘔吐等の副作用が高頻度に出現することがある。
→エイズ;逆転写酵素阻害薬;レトロウイルス;AIDS; HIV;HAART
プロドラッグ Prodrug
医薬品の誘導体で,それ自身に薬理作用はないもしくは低いが,体内で代謝されることで活性代謝物となり薬効の作用活性を示す医薬品ををいう。利用目的としては,①消化管吸収性の改善②組織移行性の改善③組織選択性の改善④溶解性の改善⑤科学的安定性の向上⑥副作用軽減等がある。
→アンテドラッグ;イオントフォレーシス;コントロールドリリース;持続性製剤;ターゲッティング療法;DDS;TTS
プローブ Probe
「探査」,「精査」という意味を持つ。生化学の分野では,遺伝子や遺伝子産物,タンパク質などの存在を確認するための手掛かりに用いる物質を意味し,何らかの手段で標識することで特異的に標的分子に作用し,標的分子の存在の有無やその量の定量,場合によっては機能の検知を行う物質である。
遺伝病の遺伝子や,各種ウイルスの検出方法として,DNA の相補性を利用した DNA プローブなどがある。
分子標的薬 Molecular targeting drugs
体内の特定の分子を標的として,その機能を抑えることによってより安全に,より有効に病気を治療する目的で開発された薬剤であり,がんや遺伝病などの発症や悪化の原因となる変異遺伝子や変異タンパク質を特定し,それらに直接作用することで,高い効果と比較的副作用が少ないというメリットが期待されている。分子標的治療薬には低分子薬と抗体薬の2種類があり,低分子医薬品は分子量300から500と小さく,血液脳関門も通ることができ,さらに細胞膜の中や核にまで入り込むことができる。抗体薬は分子量50万~70万のタンパク質であり細胞膜表面の受容体の細胞外に出ている突起などに作用する。
→モノクローナル抗体
ベイジアン法 Bayesian method
薬物投与設計をする場合の患者個人の薬物動態パラメータの推定方法の一つであり,母集団パラメータに加えて,観察値(個体の濃度値)が得られたとき,その観察値に基づく事後確率分布を推定の確信度とし,その個体の最も確からしいパラメータを推定する方法。最低1ポイントの血中濃度からでも,非線形最小二乗法により,患者固有のパラメータ(クリアランス・分布容積等)を求め,その後の薬物投与にフィードバックさせていくものである。
→母集団パラメータ
β遮断薬 β-Blocker
交感神経のアドレナリン受容体のうち,β- 受容体のみに遮断的に作用する薬剤。β1受容体に選択的に作用するβ1選択性薬剤とβ1以外のβ受容体にも影響を及ぼしやすいβ1非選択性薬剤がある。β受容体遮断作用により血圧,心拍数などを抑え,高血圧,狭心症,頻脈性不整脈などを改善する。β1非選択性薬剤はβ2受容体遮断作用による気管支収縮を起こすため,喘息などの患者に使用できない。β遮断薬の重要なパラメータとしてはβ1選択性,内因性交感神経刺激作用(Intrinsic Sympathomimetic Activity,ISA),α遮断作用の有無,効果の持続時間,脂溶性,水溶性の差などである。現在,β2受容体選択的遮断薬は臨床で用いられていない。
→内因性交感神経刺激作用
β- ラクタマーゼ β-Lactamase
ペニシリン・セファロスポリン等の抗生物質のβラクタム環を加水分解する酵素で,ペニシリナーゼ・セファロスポリナーゼ・カルバペネマーゼ等があり,抗菌薬を不活性化する作用があり,重要な耐性機構の一つである。従来,β- ラクタマーゼは基質特異性,酵素蛋白の等電点(pI),分子量等,生化学的,物理化学的特性によって分類されてきたが,現在ではβ- ラクタマーゼ蛋白のアミノ酸一次配列の相同性や,β- ラクタマーゼ遺伝子の塩基配列の相同性に基づいた系統発生的根拠(先祖が同一であるか否か)により,分類されるようになってきた。β- ラクタマーゼは現在,クラス A 〜 D の4つのクラスに分類され,クラス A,C,D,は酵素活性の中心にセリン残基を持っているためセリン -β- ラクタマーゼと呼ばれ,またクラス B は酵素活性の中心にセリン残基を持たず,金属イオンである Zn2+ を有する(要求する)ので,メタロ -β- ラクタマーゼ(亜鉛 -β- ラクタマーゼ)と呼ばれている。また,従来のものと比較してより多くのβ- ラクタム系抗菌薬を分解できる ESBLs(Extended Spectrum β-Lactamases)と総称されるβ- ラクタマーゼが分離され,欧州及び米国において新たな耐性菌,特に院内感染の原因菌として問題になりつつある。
ベクター Vector
ラテン語の運び屋(vehere) に由来し,感染症領域においては媒介者を意味する。媒介者とは,それ自身は病原体ではないが,病原体をある宿主から他の宿主へ運ぶことで感染症を媒介する生物のことである。遺伝子工学の分野では,遺伝子組み換えに用いられる核酸分子のことであり,組み換え DNA 技術で目的の遺伝子を宿主細胞に組み込むための運び役を指す。宿主細胞から容易に分離し,組み換え DNA 分子(目的の DNA をつないだ DNA)を作らせた後,再び宿主細胞に入れることができ,宿主細胞内で自律的に増殖をすることが必要で,プラスミドやウイルスがよく用いられている。
ヘリコバクター・ピロリ Helicobacter pylori
胃粘膜に生息するらせん状の鞭毛をもつグラム陰性微好気性桿菌でウレアーゼという酵素を出して,自分の周りにアルカリ性のアンモニアを作り出すことで,局所的に胃酸を中和することによって胃へ定着(感染)している。細菌の中で悪性腫瘍の原因となり得る病原体の一つであり,この菌の感染により,慢性胃炎,胃潰瘍や十二指腸潰瘍,胃がんの発症を始め,びまん性大細胞型 B 細胞性リンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病,小児の鉄欠乏性貧血,慢性蕁麻疹などの原因となることが明らかとなっている。
ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬 Benzodiazepine receptor antag
ベンゾジアゼピン(BZP)受容体に対して拮抗する薬剤。代表的な薬剤はフルマゼニルで,GABA-A 受容体の BZP 結合部位に結合して占有し,BZP 系薬物に拮抗することにより,鎮静や呼吸抑制などの BZP 系薬剤の作用発現を阻害する。フルマゼニルは BZP 受容体に高い親和性及び特異性を有するが,単独投与では筋弛緩作用,抗葛藤作用及び痙攣誘発作用,呼吸抑制作用等の GABAA 受容体を介する作用を示めさず,フルマゼニル自体は生物学的活性を殆ど持たないと考えられている。
母集団パラメータ Population parameters
母集団薬物動態解析により得られるパラメータで,平均値と固定効果および変動効果からなる。
固定効果とは,クリアランスなどのパラメータに及ぼす年齢,体重,腎機能のように影響を説明できる個別的な因子のこと,変動効果とは,固定効果で説明できない未知の要因(個体間変動)や測定誤差のようなランダムな変動(個体内変動)のこと。ベイジアン法を用いた TDM ソフトに組み込まれている。
→母集団薬物動態
母集団薬物動態 Population Pharmacokinetics: PPK
被験者あるいは患者集団の薬物動態を平均値と分散のような分布の特性値として,解析する方法で,PPK 解析あるいは PopPK 解析と略される。通常「PPK 解析」は,変動効果(一例毎に一定値をもつ個体間変動と同一個体であっても投与毎や観察毎に異なった値をとる個体内変動など)や固定効果(年齢,性別,体重,腎機能のような種々の要因が薬物動態の変動要因となる場合に,クリアランスや分布容積などの PK パラメータに及ぼすそれらの要因の影響の程度をモデル化して表したもの)を同時に解析する混合効果モデル(Mixed Effect Model)を用いた解析を指すことが多い。
包接化合物 Inclusion compound
分子間で特定の関係を示す,ゲスト分子(鍵の役割)とホスト分子(鍵穴の役割)による化合物の一つで,弱い日共有結合で生成する原子または分子レベルでの異種物質の複合体である。原子又は分子が結合してできた三次元構造の内部に適当な大きさの空孔があり,その中に他の原子又は分子(ゲスト)が,一定組成比で入り込んで特定の結晶構造を作っている物質である。
ホスピス Hospice
生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,肉体的な苦痛を取り除くための治療をするだけでなく,精神的な苦痛,孤独,不安などを軽減し,患者さんやご家族とともに,生命の意義を考えつつ,最後まで人間らしく,尊厳を持って生きぬくことができるように援助していく施設。一般的に,ホスピスは病棟型,院内独立型,完全独立型(ホスピスのみを行う施設),院内緩和ケアチーム,在宅ホスピスの5つに分類され,そのケアには医師や看護師・薬剤師だけでなく,歯科衛生士・作業療法士などの医療職や医療ソーシャルワーカー・ヘルパーなどの福祉職と,スピリチュアルケアを担当する宗教家などの多くの職種がチームを組んで関わり,そのチームの中にはボランティアも含まれる。
→ターミナルケア(終末期ケア);パリアティブケア(緩和ケア)
ホスホジエステラーゼ -Ⅲ阻害薬 Phosphodiesterase-Ⅲ inhibitor(PDE-Ⅲ阻害薬)
サイクリック AMP(cAMP)およびサイクリック GMP(cGMP)を分解する酵素であるホスホジエステラーゼ(PDE)を阻害し,細胞内で cAMP・cGMP の分解を抑制しその濃度を上昇させる。PDE-Ⅲは主に血小板・心臓・血管平滑筋に存在し,PDE-Ⅲ阻害薬は心筋収縮力を高め,血管及び気管支平滑筋弛緩作用や血小板凝集抑制作用がある。
ポリープ切除(術) Polypectomy
良性腫瘍を含めた隆起(りゅうき)性病変(ポリープ)を切除・治療する方法。外科的手術による方法と内視鏡を用いる方法がある。内視鏡的ポリペクトミーは,消化管ポリープ等の切除に用いられ,高周波スネアと呼ばれるワイヤーを投げなわのように隆起物の根元にかけ,焼き切る方法と,ワイヤーを閉めて根元を壊死(細胞が死滅)させて自然脱落させる方法や抗ガン剤やアルコールを局所注射する局注法・凍結法等がある。
→下部消化管内視鏡
ポリファーマシー Polypharmacy
臨床的に必要以上の薬剤が投与されている,あるいは,不必要な薬が処方されている状態。薬剤が多いことにより,薬物相互作用や薬物有害事象につながる危険性,飲み間違い,飲み忘れ等アドヒアランスの問題と,それにつながる残薬の発生などが問題視されている。
ポリファーマシーの是正に向けて,薬剤師が職能を発揮し,積極的な処方介入により処方の適正化に寄与することが期待されている。
ホルモン補充療法 Hormone replacement therapy(HRT)
卵巣機能の低下または欠落に伴うホルモンの不足または欠乏を補充し,精神・身体機能の改善・維持を目的にリスクと利益を考慮して行う治療。更年期症状に対する HRT の治療効果は顕著で,骨粗鬆症,冠動脈疾患,アルツハイマー病などでも予防・治療効果が報告されている。
ま行
マイクロドーズ試験(MD 試験) Micro Dose Study
新薬候補化合物の中から,最適な化合物を効率的に選択するための試験。治験のフェーズ前に行われる試験で,候補物質を絞り込むことで開発期間を短縮できるというメリットがある。被験対象がヒトであるため,安全性や倫理的な問題もあるとされたが,人体に薬効や毒性といった影響を及ぼさない超微量(100マイクログラム以下)の薬物の測定が可能となったため,日本では2012年に初めて試験が実施された。被験者の薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄に至るまでの過程)を分析する。
末梢血幹細胞移植 Peripheral Blood Stem Cell Transplantation(PBSCT)
末梢血を造血幹細胞源とした造血幹細胞移植。造血幹細胞は血球系細胞に分化可能な幹細胞であり,白血球(好中球,好酸球,好塩基球,リンパ球,単球,マクロファージ),赤血球,血小板,肥満細胞,樹状細胞を生み出す。この造血幹細胞さえあれば血液細胞は維持される。末梢血液中には通常,造血幹細胞はごく少数しか存在しないが化学療法後の造血回復期や G-CSF などの造血因子を投与した後には,末梢血中に大量の造血幹細胞が動員されることが明らかとなり,また,その採取法が確立され,末梢血幹細胞移植が普及するようになった。末梢血幹細胞移植には自分の細胞をあらかじめとっておいて,必要なときに移植する自己末梢血幹細胞移植と,兄弟や親子など白血球の型(HLA)が近い人に移植する同種末梢血幹細胞移植の二つに分けられる。
マルファン症候群(Marfan's syndrome)
骨格系,眼,および新血管系等に特徴的所見を有する先天性結合組織異常による疾患。全身の結合組織が脆弱になることにより,大動脈瘤や大動脈解離,高身長,側弯等の骨格変異,水晶体亜脱臼,自然気胸などを来す。常染色体優性遺伝病であり,約75%は家族歴をみるが,約25%は突然変異で起こる。
慢性腎臓病 Chronic Kidney Disease(CKD)
CKD の定義 1)か2)のいずれか,または両方が3カ月以上持続する状態
1)構造的あるいは機能的異常
a.腎の病理学的な異常
b.血液あるいは尿の検査値以上
c.画像検査による腎の形態異常
2)腎臓の機能低下(糸球体濾過量<60mL/min/1.73m2)
CKD は末期腎不全や心血管疾患の危険因子といわれている。
→推算糸球体濾過量
慢性疲労症候群 Chronic Fatigue Syndrome(CFS)
原因不明の極端な疲労を主徴とする疾患で,通常の疲労は2~3日の休養で回復するが,休養や安静によっても回復せず,さらに通勤や通学にも支障をきたすことが多い。症状は多彩で微熱・咽頭痛・筋肉痛等の感染症様症状と頭痛・睡眠障害・健忘・集中力低下・抑鬱状態等の精神症状等がある。
慢性炎症性脱髄性多発(根)神経炎 Chronic Inflammatory Demyelinating Polyneuropathy(CIDP)
手足の脱力や痺れなどの運動障害,感覚麻痺を主とする再発・再燃を繰り返す神経炎。再発,再燃により筋肉の萎縮,感覚の異常が出現する。CIDP は末梢神経を構成している軸索と髄鞘(ミエリン)のうち髄鞘(ミエリン)が破壊(脱髄)される疾患で,末梢神経に対する免疫異常が起きていると考えられているが,原因は良くわかっていない。ステロイド,血漿交換,免疫抑制剤,完全分子型静注用免疫グロブリン製剤療法がある。
ミオパチー(ミオパシー) Myopathy
筋肉自体が侵されて生じる疾患の総称で,大きく分けると,遺伝性・後天性のものがある。遺伝性ミオパチーには代謝異常,あるいは原因は不明であるが種々の病理学的特徴を有する先天性ミオパチー,代謝性ミオパチー,ミトコンドリアミオパチー,筋原線維性ミオパチーなどがある。
後天性ミオパチーには,炎症性ミオパチー,薬剤に起因する薬剤性ミオパチーがある。
また,先天性ミオパチーは,筋繊維内に特徴的な所見を呈するため,従来は筋病理学的に診断がなされていたが,遺伝子解析の進歩に伴い遺伝子検査による原因遺伝子の特定も進んでいる。
ミサイル療法 Missaile Therapy
治療が必要な部位にのみ薬剤を必要なだけ届けることを目的とした治療法。正常な部分に作用せず病巣部位に直接薬剤が届くため高い効果が期待でき,同時に副作用軽減につながるっことも期待される。
ミサイル療法には特定の抗原にのみ作用する抗体医薬品(分子標的治療薬やワクチン)やプロドラッグ,徐放性製剤などが用いられる。ターゲット療法とも呼ばれる。
ミニマル・リスク Minimal Risk
健康な人が日常生活や健康診断,歯科検診などを受ける中で,危害をうけたり苦痛を覚えたりする可能性や規模を示す。臨床研究や製薬研究においては,このミニマル・リスクを把握したうえで研究をおこなわなくてはならない。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 Mineralocorticoid receptor antagonist(MRA)
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR 拮抗薬)は,尿細管などにおけるアルドステロンの働きを阻害し血圧を下げる作用を有する。従来はスピロノラクトン及びエプレレノンが使用されていたが女性化乳房の副作用や腎機能障害時への使用が制限されていた。現在では従来の副作用を軽減した非ステロイド構造を有する選択的 MR 拮抗薬エサキセレノンが発売され,高血圧,心不全の適応をとっている。また,それだけでなく慢性腎臓病(CKD),メタボリックシンドローム,2型糖尿病,動脈硬化そして心不全の病態進展に重要な役割を果たすことがわかってきたこともあり,2型糖尿病を合併する慢性腎臓病に適応があるフィネレノンも発売されている。
無痛化剤 Soothing agents
注射薬施用時,痛みを緩和する目的で添加される薬剤。液の pH・浸透圧が体液と著しく異なるために生じる疼痛を軽減するために添加される緩衝剤や等張化剤。また,医薬品の種類によっては著しく疼痛を示すため,塩酸プロカイン・塩酸リドカイン・塩酸ジブカイン等の局所麻酔薬やベンジルアルコール・フェノール等の鎮痛作用のある防腐剤を無痛化剤という。
むずむず脚症候群
→レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS)
メガスタディ Megastudy
数年以上にわたって追跡する大規模長期臨床試験研究のことで,欧米ではかなり以前から行われており,日本でもこれら大規模長期にわたる実証的な知見を治療の参考としてきたが,近年になり欧米との生活習慣の差,薬剤に対する感受性の差等が問題となり,患者の QOL を高める治療法を開発すべく日本独自の研究が開始されている。
→疫学的調査;エンドポイント;ケースコントロール研究;コホート研究;プロスペクティブ;薬剤疫学;レトロスペクティブ
メタボリックシンドローム metabolic syndrome
内臓脂肪の蓄積と,それを基盤にしたインスリン抵抗性および糖代謝異常,脂質代謝異常,高血圧を複数合併するマルチプルリスクファクター症候群で,心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患をまねきやすい病態。2005年4月,日本内科学会および関連7学会により定義された。診断基準は,必須項目となる内臓脂肪蓄積(内臓脂肪面積100平方 cm 以上)のマーカーとして,ウエスト周囲径が男性で85cm,女性で90cm 以上を「要注意」とし,その中で ①血清脂質異常(トリグリセリド値150mg/dL 以上,または HDL コレステロール値40mg/dL 未満) ②血圧高値(最高血圧130mmHg 以上,または最低血圧85mmHg 以上) ③高血糖(空腹時血糖値110mg/dL 以上)の3項目のうち2つ以上を有する場合とされる。脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン(アディポネクチン・レプチン・TNFα・PAI-1・アンジオテンシノーゲンなど)の分泌異常が動脈硬化を促進し,糖尿病・高血圧・脂質異常症を発症させ,悪化させる原因とされている。
→アディポネクチン;1型糖尿病/2型糖尿病
メラトニン Melatonin
松果体から分泌されるホルモンの一つで,季節のリズムや概日リズム(サーカディアンリズム)の調節作用をもち,脳下垂体後葉のメラニン細胞刺激ホルモンに拮抗する作用がある。メラトニンは日光を浴びると分泌量は減少し,夜,暗くなってくると分泌量が増加して脈拍・体温・血圧などを低下させることで睡眠の準備が出来たと体が認識し,睡眠に向かわせる作用があるが催眠作用は弱く,不眠症の改善効果は乏しい。非24時間睡眠覚醒リズム・睡眠相後退症候群・交代勤務睡眠障害・時差症候群などの概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒リズム障害)に対して有効だが,リズム調整作用を十分に引き出すには特殊な時間帯での服用が必要である。催眠・生体リズムの調節作用の他に抗酸化作用,性腺抑制作用などがある。
また,メラトニンは,年齢を重ねるとともに分泌量が減ることが明らかになっている。年をとると朝早く目覚めたり,夜中に何度も目が覚めたり,若い頃より睡眠時間が減ってくるのは,加齢により体内時計の調節機能が弱まっているためと考えられている。
日本では「不眠症における入眠困難の改善」の適応で,メラトニン受容体に作用する化合物ラメルテオンが,「小児の神経発達症に伴う入眠困難」の適応でメラトニンがそれぞれ用いられている。
免疫チェックポイント阻害薬 Immune checkpoint inhibitor
免疫チェックポイント分子もしくはそのリガンドに結合して,がん細胞と免疫チェックポイント分子結合による免疫抑制シグナルの伝達を阻害する薬剤。免疫チェックポイント分子による T細胞の活性化抑制を解除することで,T細胞を活性化し,抗腫瘍免疫応答が増強されることで抗腫瘍効果を示す。効果も高いが,活性化したT細胞ががん細胞だけではなく,多くの細胞を見境い無く攻撃するために自己免疫疾患など副作用も多く,高価であることで注目された。
→免疫チェックポイント分子
免疫チェックポイント分子 Immune checkpoint molecules
T 細胞および T 細胞と結合する細胞が膜表面などにもつ免疫恒常性を保つために自己に対する免疫応答を抑制するとともに,過剰な免疫反応を抑制する分子群である。T 細胞の過剰な活性化を抑制するとともに,自己を攻撃しないために存在しているが,がん細胞は,発がん過程での免疫系からの攻撃を回避し,増殖するために免疫チェックポイント分子のリガンドを過剰発現することで免疫チェックポイント分子を活性化し,免疫逃避している。現在,CTLA-4,PD-1,TIM3,LAG-3や PD-L1,CD80/CD86,GAL9,MHC などの免疫チェックポイント分子とそのリガンドが同定され,臨床応用が進んでいる主な免疫チェックポイント阻害薬には,抗CTLA-4抗体,抗 PD-1抗体,抗 PD-L1抗体などがある。
免疫ミルク Immune milk
母子免疫のしくみに着目し,アメリカのスターリ研究所が開発したミルクで,人が感染しやすい26種類の悪玉細菌を無害化し,ワクチンとして乳牛に繰り返し注射することで,乳牛の体内で人に対して有効な抗体を産生させ,この乳牛から搾乳した乳に含まれる各種病原菌に対する抗体・機能性因子の活性を失わないよう濃縮乾燥させた脱脂粉乳である。日本では1997年よりスターリミルクという商品名で食品として販売されている。リウマチ性関節炎・アレルギー症状等に対する作用,LDL コレステロール低下・HDL コレステロール上昇等の作用があるといわれている。
免疫療法 Immunotherapy
本来からだに備わっている病原体やがん細胞等を取り除く免疫のシステムやそれに関わる細胞を利用して行う治療法の総称。免疫療法はワクチン療法やサイトカイン療法に代表される免疫反応を起こす物質の直接接種または摂取により,体内の免疫系を刺激し活性化する「能動免疫療法」と免疫反応を担うリンパ球などを体外で活性化して再び戻す「受動免疫療法」の二つに大別できる。受動免疫療法の中心は,活性化リンパ球療法になります。活性化リンパ球療法には様々あり,腫瘍組織浸潤リンパ球療法(TIL),細胞障害性リンパ球療法(CTL),活性化自己リンパ球療法,活性化 NK 療法などがある。また一方では,がん細胞を攻撃するリンパ球のみではなく,体内の免疫機能の活性化を補助するようなリンパ球(ヘルパー T)も増殖するため,投与することで生体の免疫機能そのものを高めることも可能で,これにより,QOL を高めたり,抗がん薬や放射線療法などの副作用を減らす効果も期待できる。
モーニングサージ Morning surge
血圧には日内変動が知られており,睡眠中には下がるが,モーニングサージでは朝目覚める前後に急激に血圧が上昇し,脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高い。病院や健康診断ではとらえることができない血圧のため自宅での朝の血圧測定が診断の重要な要素となる。早朝高血圧症ともいう。
モーニングディップ Morning dipping
早朝にみられる喘息発作。起床時のピークフロー(最大呼気流量)値が最も下がる現象。副交感神経には,明瞭なサーカディアンリズム(24時間周期の変化)が存在しており,起床とともに副交感神経活動が減弱することで喘息発作が誘発される。モーニングディップの予防にはクロノセラピー(時間薬物治療)が必要であり,就寝前に貼付することで最高血中濃度到達時間がモーニングディップの発現時間帯に合うよう設計されたβ2刺激貼付薬が開発された。
モノクローナル抗体 Monoclonal antibody
単一の抗体産生細胞に由来するクローンから作られている抗体のことで,単一の抗原決定基(エピトープ)を有しているという特徴がある。モノクローナル抗体は多種類の抗体の混合物(ポリクローナル抗体) に比べて抗原に対する特異性が強いため,微量生体成分の検出,癌やウイルス感染症の診断・治療への応用が研究されている。近年では,がん細胞などにみられる特定の抗原(例えば EGFR)をターゲットとしたモノクローナル抗体が,医薬品として治療に用いられている。これらモノクローナル抗体からなる医薬品は,がんや関節リウマチ,クローン病,アルツハイマー病などの治療や移植医療といった分野で使用されている。今後は心血管疾患,感染症,骨粗鬆症などの領域でも開発が進むと期待されている。
→分子標的医薬品
もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症) Moyamoya disease
日本で最初に発見された疾患。この疾患の本質はウィリス動脈輪の進行性の閉塞で,それを代償するために発達した側副路が脳血管を造影した際に脳血管がもやもやしたように見えたので「もやもや病」と命名。発生率は人口10万に対し1年間0.35〜0.5人程度であり,男女比は1:1.8で女性に多く,好発年齢は10歳以下と40歳前後の2峰性のピークを有する。家族発症は全体の10% 程度にみられ遺伝的関与を指摘されている。かつては「ウィリス動脈輪閉塞症」が日本における正式な疾患呼称だったが,2002年度より現在の「もやもや病」が正式となっている。
や行
夜間摂食症候群 nocturnal eating syndrome:NES
夕食後から入眠までの間,もしくは夜間睡眠から中途覚醒して,完全な覚醒状態で,強い摂食要求に基づいて食事し,そのことがしっかりと記憶にある。摂食を我慢すると不眠になり,若年成人で発症し,体重増加,睡眠の中断,摂食の制御不能が生じ,慢性経過をたどる。
→睡眠関連摂食障害(sleep-related eating disorder; SRED)
薬剤疫学 Pharmacoepidemiology
人の集団における薬物の使用とその効果や影響を研究する学問と定義されている。
薬剤を使用している人間を対象の集団として,その集団内における健康に関連した全ての事象・状態の分布やそれに影響を及ぼす因子を研究し,薬剤の安全で効果的な使用法をはじめ,薬剤使用の真の有用性を明らかにして,健康問題の対策に応用する学問である。
→疫学的調査;ケースコントロール研究;コホート研究;プロスペクティブ;メガスタディ;レトロスペクティブ
薬剤管理指導料
厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているとして,地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者に対して,薬剤師が投薬又は注射及び薬学的管理指導を行った場合に,診療報酬上算定できる指導料。「特に安全管理が必要な医薬品(ハイリスク薬)を使用」の場合と,それ以外で算定点数は2区分されている。さらに,麻薬の使用に関して必要な指導を行った場合には,麻薬管理指導加算が算定できる。患者の病態および服薬状況を把握した上で,副作用の早期発見,重篤化防止のための継続的な服薬指導や薬学的管理を行うことが重要とされ,特にハイリスク薬を服用している患者に対しては,ハイリスク薬が患者に及ぼす影響の大きさに十分配慮して,積極的に薬学的介入を行うよう努めなければならない。
薬物体内速度論 Pharmacokinetics(PK)
生体内の薬物移動過程を正確に知るために製剤として投与した薬物の血中に吸収される割合・速度を示す理論。医薬品の吸収・分布・代謝・排泄(ADME)を通じ,投与された製剤の剤形がこれらの体内過程に影響を与えることを知ることは,製剤設計,投与方法を確立するために重要である。
→ADME
薬物動力学 Pharmacodynamics(PD)
薬物の生体におよぼす生化学的及び生理学的作用について,作用機序,薬物の作用と化学構造の関連性(構造-活性相関)等の面から研究する学問である。薬力学(薬物動力学)は,生理学・生化学・細胞及び分子生物学・微生物学・免疫学・遺伝学・病理学等の関連分野の研究方法や実験手技を用いて行われるが,研究内容はあくまで薬物の作用を対象としている。
有害事象 Adverse Events(AE)
因果関係の有無を問わず,医薬品の使用によって生じたあらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴候,症状,または病気のことである。有害事象のうち,当該薬との因果関係が否定できない場合は「薬物有害反応」と呼ばれ,治療(手術など)またはその治療とともに行った療法と有害事象との間の因果関係が否定できない場合は「有害反応」と呼ばれる。
尤度比(ゆうどひ) likelihood ratio
検査によって,疾患がある者を正しく陽性と判断する確率である「感度」と疾患がない者を正しく陰性と判断する確率である「特異度」の比を表すもので,検査が陽性だった場合の尤度の比を陽性尤度比,検査結果が陰性だった場合の尤度の比を陰性尤度比という。陽性尤度比が大きいほど(+∞に近いほど)確定診断に優れ(陽性反応的中率が高くなる),陰性尤度比が小さいほど(0に近いほど)除外診断に優れる(陰性反応的中率が高くなる)。 尤度比=感度 /(1-特異度)
輸液 Parenteral fluid
体液の量的及び質的な異常を是正し,またその正常状態を維持するために,相当量の液体を非経口的に投与する治療法。一般に注入量が50mL 未満のものを注射液,50mL 以上のものを輸液として区分している。①電解質輸液:水分,電解質や酸・塩基平衡の是正と維持を行うもの②栄養輸液:栄養の補給を行うもの(糖類輸液・アミノ酸輸液・脂肪輸液)③代用血漿輸液:循環血液量と膠質浸透圧の維持回復を行うもの。
油水分配係数
「n-オクタノール / 水分配係数」のこと。個々の薬物について,油に溶解する割合が多いか,水に溶解する割合が多いかを示した数値で,油水分配係数が「1」より大きければ脂溶性薬物,「1」より小さければ水溶性薬物に分類される。通常,分配係数の対数(logP)で示されるが,水溶性薬物はマイナスになり,脂溶性薬物はプラスで表記され,その薬物の脂溶性が高いほど,大きな値になる。水溶性薬物はその殆どが腎排泄型薬物であり,脂溶性薬物は肝排泄型薬物である。
ユニバーサルプレコーション Universal precaution
普遍的予防策。医療機関において,患者の血液や体液を介した感染を防ぐため,すべての患者に対して感染症の有無にかかわらず,血液や体液は感染性があるものとして扱うという概念,およびそれらの防御策を指す。なお,その考えは現在,血液,体液,排せつ物など,すべての湿性生体物質に対して感染の可能性があるというスタンダードプリコーションにとって替わっている。
輸入腸管寄生虫
日本国内の寄生虫感染症は確実に減少してきたが,海外渡航時の食物摂取,輸入食品による寄生虫感染は時に重大な疾患をきたす。特に土壤伝播性寄生虫は世界中で多くの罹患者が存在しており,その地域で収穫された野菜を摂取した場合,腸管寄生虫の感染を受けることがある。また,輸入された牛肉・豚肉を不十分な加熱のまま摂取し,感染を受ける例もある。さらに消化管寄生の寄生虫によっておこる症状は , 軽い下痢や腹痛にとどまることも多いことから , 海外で感染したヒトが帰国後に国内での感染源となることがある。代表的な寄生虫疾患としては,マラリア,回虫症,鉤虫症,鞭虫症,有鉤囊虫症,単包虫症,トリパノソーマ症やリーシュマニア症,ジアルジア症(ランブル鞭毛虫)などがある。
容器包装リサイクル法
2000年4月に完全施行された法律で正式には「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」といい,「容器包装」を分別収集し,再商品化(リサイクル)を促進する法律であり,一般廃棄物の減量・再生資源の利用を通じて廃棄物の適正な処理と資源の有効な利用の確保を図り,生活環境の保全や国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。医療用医薬品については,医薬品製造事業者が製造・出荷段階で付す容器及び包装は法でいう容器包装に該当するが,薬袋に関しては,病院等において交付される薬剤が診療行為という役務提供の一環として交付されているものであることから,この交付の際に付される薬袋は容器包装リサイクル法に規定する「容器包装」とはならない。
溶血性尿毒症症候群 Hemolytic Uremic Syndrome(HUS)
血小板減少,破砕状赤血球を伴う溶血性貧血,急性腎不全を三徴候とする症候群。大腸菌などが産生する vero 毒素が原因となる。血便をともなう下痢,嘔吐,腹痛,発熱を来す腸管出血性大腸炎に引き続き,数 % ~10% の頻度で,数日~10日経過して HUS を発症する。HUS の発症は5歳以下の小児にとくに多い。大腸菌 O-157が原因となる場合が多いが,O-26,O-111,O-128,O-145等も vero 毒素を産生するため本症の原因となりうる。また,成人領域における溶血性尿毒症症候群の原因は,より多岐に渡り薬剤,妊娠,自己免疫疾患,悪性腫瘍などによって発症することもある。
→O-157
用量規制因子 Dose Limitting Factor(DLF)
がん化学療法において,抗がん薬の有害反応がその投与量と関係している場合,用量決定に注意を要する有害反応をいう。たとえば,シスプラチンは腎毒性,フルオロウラシルでは消化器症状の副作用(口内炎等)・白血球減少症といった有害反応である。
ら行
ライム病(ライムボレリア症) Lyme Disease(LD)
マダニの咬傷によって媒介されるスピロヘータによって惹起される全身感染症である。体内に侵入したスピロヘータは咬傷部に遊走性紅斑を呈したのち,数日のうちに血流中に入り,中枢神経系・心筋・関節・眼等に運ばれ,各臓器組織で播種性病変を呈する。感染初期(stage Ⅰ)の随伴症状として筋肉痛,関節痛,頭痛,発熱,悪寒,倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともある。播種期(stage Ⅱ)には,皮膚症状,神経症状,心疾患,眼症状,関節炎,筋肉炎など多彩な症状が見られる。ライム病は北米・欧州・ロシア・中国・オーストラリア・アフリカ等世界に広く分布しており,日本でも本州中部以北で報告のある輸入感染症の1つである。我が国では感染症法の第4類に指定されており,全数報告が義務づけられている。
ラテックスアレルギー Latex allergy
医療用手袋など天然ゴム(natural rubber latex)製品に接触することにより発症する蕁麻疹,アナフィラキシーショック,喘息発作など即時型(I 型)アレルギー反応。罹患者は職業的にゴム手袋を常用する医療従事者に多いが,その手袋を使用したことにより一般患者が発症することもある。ラテックスアレルギーの原因は天然ゴムの原料であるパラゴムノキの樹液に含まれる生体防御タンパク質であり,樹液を回収するために樹皮を傷つけられたことがゴムの木にとってストレスとなり,自身を守るために産生される。また,メロンや桃,栗などの果物に含まれる成分と交叉反応を起こすことがあり,フルーツアレルギーを合併するため,ラテックス・フルーツ症候群と呼ばれることがある。
ラビング法(擦式法) Rubbing method
CDC 手指衛生ガイドライン(2002年)の発表以来注目されている手指の消毒法の一つ。速乾性の消毒剤を手掌にとり,乾燥するまで皮膚に擦り込んで消毒する方法で,水を使用しない消毒方法のためウォーターレス法とも呼ばれる。手指を石鹸と流水による手洗い後,擦式消毒剤約3mL を手の掌にとり,両手の爪→手の掌→手の背→指の間→親指→手首の付け根の順に乾燥するまでよく擦り込む。
→擦式手指消毒剤;手指消毒法;スクラブ法;スワブ法;ベースン法
リエゾン療法 Liaison therapy
整形外科や心療内科・精神科など,複数の医師が連携(リエゾン:仏語)して治療にあたり,心と体の両面から治療を行う方法で,薬物療法や運動療法と認知行動療法などを併せて行う。
リエゾンチームには医師,看護師だけでなく臨床心理士,薬剤師,精神保健福祉士などが参加し,それぞれの専門性を活かしたチーム医療を行うことにより,身体の病気で入院中の患者におこりうる,不安,不眠,抑うつ,せん妄などの精神症状や心理的な問題に対し適切な支援が行える。
リスクマネージメント Risk management
リスクを組織的に管理(マネジメント)し,損失等の回避又は低減を図るプロセスのことである。
医療におけるリスクマネージメントとは,患者の立場に立ち,患者が安心して医療を受けられる環境を整えることを基本理念として,リスクの把握,分析・評価,対応方法の決定と実行,再評価する4つのプロセスを活用し,医療事故の原因究明,防止策を講じることにより,医療事故を未然に防ぎ,組織の損失を最小に抑え,患者・家族,来院者および職員の安全を確保するとともに,医療の質を保証することである。
レイ(ライ)症候群 Reye syndrome
主に小児にみられる急性脳症や肝臓への脂肪浸潤などが現れる病態で,インフルエンザや水瘡など急性ウイルス感染に続発して発症する。血液所見では高アンモニア血症・低血糖症がみられ,続いて血清 GOT・GPT 上昇,プロトロンビン値低下等の肝機能障害が認められる。臨床症状としては,激しい吐き気と嘔吐に引き続いて,けいれん,意識障害が急速に進行する。原因は不明だが,ウイルスや薬物が誘因となって全身のミトコンドリア機能障害が起こり,脂肪酸およびカルニチンの代謝障害を引き起こす。
ウイルス性疾患治療中にサリチル酸系薬剤(一般的にアスピリン)を使用した場合,発生リスクが上昇することが知られている。
レジオネラ菌
院内感染原因微生物の一つで環境の変化に強く,温度(0~63℃),pH(5.0~8.5)の変化に耐え,条件がそろえば貯水槽などの中で増殖する。元来,土壌や水環境の常在菌であるが,汚染水の噴霧や飛散によって気道感染する。病原性は急性肺炎で,細胞性免疫能の低下した人では急激な経過をたどり,死に至ることがしばしばある。本菌は細胞内増殖菌であるため,ペニシリン,セフェム系などの細胞内に移行の悪い抗菌薬は無効。マクロライド,ニューキノロン,リファンピシンが有効。
→在郷軍人病
レカネマブ
アルツハイマー病の進行を抑制し,認知機能と日常生活機能の低下を遅らせることを実証し,承認された,世界で初めての治療薬。可溶性アミロイドβ凝集体(プロトフィブリル)に選択的に結合するとともに,Aβプラークの主要構成成分である不溶性アミロイドβ凝集体(フィブリル)にも結合し,脳内の Aβプロトフィブリルおよび Aβプラークを減少させ,老人斑の減少に寄与する。
→アミロイド,アルツハイマー病,老人斑
レジメン regimen
投与する薬剤の種類や量,期間,手順などを時系列で示した治療計画。主にがん治療に用いられる。
がん薬物療法におけるレジメンは,抗がん剤,輸液,支持療法薬(制吐剤など)を組み合わせた時系列の治療計画であり,医療安全の確保,がん薬物療法の適正化,患者の QOL の向上,適正な医療資源の利用を目的としている。特に抗がん剤の複雑な投与方法の過誤や過剰投与に起因する医療事故を未然に防ぐためにはレジメンによる一元管理が必須となる。臨床試験等の臨床試験(治験)実施計画書であるプロトコールと混同しないよう注意する必要がある。
レスパイト入院
常時医療的管理が必要な患児が介護者の都合により自宅での介護や養育が一時的に困難になった場合に、その期間サポートの目的で行われる入院医療。
レスピラトリーキノロン respiratory quinolone
主要呼吸器感染症起炎菌に対し優れた抗菌活性を有し,特にペニシリン耐性菌(PRSP)を含む肺炎球菌への抗菌活性が強化されたニューキノロン系抗菌薬。トスフロキサシントシル酸塩水和物,モキシフロキサシン水和物,メシル酸ガレノキサシン水和物,シタフロキサシン水和物,高用量のレボフロキサシン水和物が該当する。
レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS)
むずむず脚症候群や下肢静止不能症候群などとも呼ばれる,主に下肢に不快な症状を生じる病気。脳内ドパミン機能低下によって引き起こされる。夜眠ろうとベッドに入ったときや,新幹線や飛行機,あるいは映画館などで,じっと座っているときなどに,足の裏やふくらはぎ,太ももなどに不快感が起こり,じっとしていられなくなり,脚を動かしたいという強い衝動が出現する。
日内変動があるのが特徴で,夕方から夜間にかけて症状が増強する事が多い。脚を動かす事で不快感が軽減されるため脚を叩く,さする,寝返りを繰り返す,更に重症になると,じっとしていられなくなり,歩き回ったりする。 治療薬としてドパミン受容体作動薬を基本として効果不十分な場合には GABA 誘導体を用いる。
レトロウイルス Retrovirus
RNA ウイルス類の中で逆転写酵素を持つ種類の総称。通常の RNA ウイルスが宿主細胞内で,自己の RNA を鋳型にして必要な蛋白を合成するのに対して,レトロウイルスは宿主細胞内で自己の RNA を鋳型にして逆転写酵素により DNA を合成し,それが宿主細胞の DNA に組み込まれる。この DNA を鋳型としてウイルス RNA が合成され,同時に合成されるウイルス構成成分の蛋白とともにウイルスが形成される。レトロウイルスには,AIDS・成人 T 細胞白血病の原因となっているウイルスが属する。
→エイズ;逆転写酵素阻害薬;プロテアーゼ阻害薬;AIDS;HIV;HAART
レトロスペクティブ Retrospective study
遡及的研究のことで,時間に遡って疾患の発現等を調べる回顧的研究である。
→疫学的調査;ケースコントロール研究;コホート研究;プロスペクティブ;メガスタディ;薬剤疫学
老人性色素斑
中年以降に,手・背中・顔などの皮膚に見られる褐色の色素斑で,紫外線の曝露により生じる。
ビタミン剤やトラネキサム酸の内服,ハイドロキノン配合の外用剤,UV ケアで治療効果を発揮するが,レーザー治療で顕著に改善することが多い。
老人斑
アルツハイマー病における脳の病理的特徴。脳内分泌物質であるアミロイド前駆体蛋白が代謝異常を起こし,主要成分であるアミロイドβ蛋白が蓄積することで,大脳皮質細胞(ニューロン)を死滅させ,老人斑が形成される。
→アミロイド,アルツハイマー病,レカネマブ
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)
骨,関節,筋肉などの運動器の機能が衰えて,要介護や要介護リスクの高い状態。骨であれば骨粗鬆症,関節は変形性関節症,筋肉はサルコペニアなどが原因に挙げられる。
→サルコペニア
ローディングドーズ loading dose 負荷用量
定常状態へ到達するには消失半減期の約4倍の時間を要する。消失半減期の長い薬物において,早急に目的とする血中濃度得るために負荷する用量で,下記の関係式により設定が可能である。
薬物の血中濃度の上昇幅:Cincrease(mg/mL)= D / Vd(mg/mL)
D(mg):全身循環系に移行する量,Vd(mL):分布容積
わ行
- A~E
- F~J
- K~O
- P~T
- U~Z
A~E
AA aplastic anemia 再生不良性貧血
再生不良性貧血とは,血液中のすべての血球成分(白血球,赤血球,血小板など)が減少する病気で,汎血球減少症ともいう。初期症状として,「体幹や四肢の出血斑」,「歯肉出血」,「鼻出血」,「発熱」,「咽頭痛」,「顔面蒼白などの貧血症状」,「疲労感」,「動悸」,「息切れ」,「めまい」,「血尿」がみられ,貧血症状はこれらの出現から遅れて発現することがある。治療としては,薬剤性の場合は原因が疑われる薬剤を中止する。4週間経過しても改善が見られない場合は,他の原因を考慮する。
AAA abdominal aortic aneurysm 腹部大動脈瘤
動脈瘤とは,動脈硬化などにより動脈壁がもろくなり瘤状に拡張してゆく病態である。腹部大動脈瘤は腎動脈より末梢の大動脈が拡張したものをいい,大動脈瘤全体の約2/3を占める。ほとんどの人が無症状で,診察時に発見されることが多く,いったん破裂すると激しい腹痛,腰痛と大出血のためショック状態となり死に至ることも少なくない。治療には外科的手術が最も確実な治療法である。また,血圧コントロールによる保存的治療があるが,これは血圧コントロールで血圧を正常に保つことで拡張する速度を遅らせ,破裂を予防する。保存的療法でも瘤の大きさを見て,一定の大きさを超えるとステント留置などが行われる。
AAA aromatic amino acid 芳香族アミノ酸
側鎖にベンゼン等の環式化合物を有する構造をもつ,チロシン,フェニルアラニン,トリプトファンの三種のアミノ酸を総称して呼ぶ。ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の原料となり主に肝臓で代謝される。芳香族アミノ酸が脳内で増加すると肝性脳症が起きるといわれ,肝障害患者にアミノ酸輸液を使用する場合はこれらの含有量が少ないものを用いる。
分枝鎖アミノ酸(BCAA)と芳香族アミノ酸(AAA)のモル比を Fiscer(フィッシャー)比と呼び,肝機能の診断に用いられる。
ACE-I Angiotensin Converting Enzyme inhibitor アンジオテンシン変換酵素阻害薬
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は,アルドステロン分泌調節に働いており,肺血管床の内皮細胞における膜結合性酵素として存在し,アンジオテンシンⅠ→Ⅱに変換する酵素である。
そのため,アンジオテンシンⅡの産生が抑制され,アンジオテンシンⅡによる血管収縮を抑制することで血圧を低下させるものをアンジオテンシン変換酵素阻害薬と言う。
ACLS Advanced Cardiac Life Support 二次救命処置
気道確保,人工呼吸,心臓マッサージによる心肺蘇生法や自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator,AED)による電気的徐細動などの一次救命処置(BLS:Basic Life Support)に対して,気管挿管,薬剤投与といった医療従事者のチームにより行われる高度な心肺蘇生法を示す。アメリカ心臓協会は,ACLS を Advanced Cardiovascular Life Support の略語とし,心肺蘇生法に加え,重症不整脈,急性冠症候群,脳梗塞急性期治療を含めた,緊急心臓血管治療を表している。
→BLS,AED
ACP Advance Care Planning アドバンス・ケアプランニング
人生の最終段階において,患者本人の意思を尊重した医療・ケアを提供するために,患者本人や家族,親しい人,医療・ケアチームが繰り返し話し合いをし,本人による意思決定を支援する取組み。患者の状況や大切にしたいこと(人生観や価値観,希望など),医療およびケアについての希望を本人や周囲の人と話し合うことで尊厳ある生き方を実現する支援をすること。
ACTH adrenocorticotropic hormone 副腎皮質刺激ホルモン
下垂体前葉から分泌されるホルモンの一種である。主な機能は,副腎皮質に対し糖質コルチコイドなどの副腎皮質ホルモンの分泌を促進する。ACTH は主に副腎皮質ホルモン過剰分泌や分泌不全時に測定される。高値の場合は,下垂体腫瘍,アジソン病,ACTH 依存性クッシング症候群などが疑われ,低値の場合は,下垂体機能低下,ACTH 非依存性クッシング症候群などが疑われる。
ADA 欠損症 Adenosine DeAminase deficiency
アデノシン脱アミノ酵素(ADA)が欠損する原発性免疫不全症である。臨床的には,複合型の免疫不全症を示し,生後まもなく易感染性,リンパ球減少,カンジダ症,低ガンマグロブリン血症等を呈する。免疫機構が再建されなければ,殆どの患児が重症感染症で死の転帰をとる。治療法としては,骨髄移植・酵素補充療法・遺伝子治療が行われている。
ADL Activities of Daily Living 日常生活動作
食事,衣服の脱着,入浴,トイレ,移動,コミュニケーションなどの身の回りの動作や洗濯,掃除,調理,服薬,公共機関の利用などの日常生活に関連した基本的動作をいう。
ADME
薬物動態額,薬理学で用いられる語。薬は,患者に投与されてから効果が発揮されるまでに,身体の中で様々な過程を経て目的の作用部位に到達し,役目を終えると体外へ出される。その過程には吸収(Absorption)・分布(Distribution)・代謝(Metabolism)・排泄(Excretion)がある。これらを総括して ADME と呼ぶ。
→薬物体内速度論
AE adverse event 有害事象
治療期間中に発生したあらゆる好ましくない事象のこと。投薬を含め治療との因果関係の有無を問わない。そのため,副作用とは同一の言葉ではなく,副作用とは異なる事象を含む。
→有害事象,副作用,SE
AED Automated External Defibrillator 自動体外式除細動器
心室細動による心臓の停止の際に,機械が自動的に心電図を解析し,電気的な除細動により心拍を再開する医療機器。心電図を自動で解析し,除細動が必要な場合に電流が流れる仕組みにより,2004年から空港や飛行機,駅やホテルなど公共の場に設置され,一般市民でも使用できるようになった。
→ACLS ; BLS
AGA Androgenetic Alopecia 男性型脱毛症
成人男性に見られる頭髪が薄くなる状態のこと。AGA の原因は主に遺伝と男性ホルモンによるものだが,その他ストレスや生活習慣なども原因となる。男性ホルモン(テストステロン)は,毛根にある毛母細胞で5αリダクターゼにより DHT(ジヒドロテストステロン)となり,毛根細胞の分裂を抑制し髪の毛の成長を妨げることで,ヘアサイクルに悪影響を与え,薄毛・脱毛の原因となる。AGA 治療薬のフィナステリドは5αリダクターゼを抑制することで AGA の進行を抑制する。
→生活改善薬
AIDS Acquired Immuno-Deficiency Syndrome 後天性免疫不全症候群
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫細胞に感染し,免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を起こす免疫不全症のこと。一般にエイズの略称で知られている。性行為感染症の一つ。
→エイズ;逆転写酵素阻害薬;プロテアーゼ阻害薬;レトロウイルス;HIV, HAART
AKI acute kidney injury 急性腎障害
急性腎障害は,数時間から数日という短期間で腎機能が急激に悪化する病態である。AKI は腎前性,腎性,腎後性に分類される。薬剤により発生する急性腎障害を薬剤性腎障害(drug-induced kidney injury)としている。
→DKI
ALL Acute Lymphocytic Leukemia 急性リンパ性白血病
リンパ系幹細胞が分化してリンパ球が形成される過程の中で,幼若な段階で悪性化し,主に骨髄で無制限に増殖し,急速に進行する疾患。6歳以下の小児に多く,成人での年間発症率は約10万人に1人とされている。
AML Acute Myeloid Leukemia 急性骨髄性白血病
血液をつくる過程の未熟な血液細胞である骨髄系幹細胞に何らかの遺伝子異常が起こるか,過去の化学療法,放射線療法の影響などでがん化した細胞(白血病細胞)が無制限に増殖することで発症する。進行が速いため急に症状が出現する場合が多く,早期の診断と速やかな治療の開始が重要となる。発症頻度は10万人に2~3人で,発症率は年齢が高くなるにつれて増加する。
AMR アクションプラン Antimicrobial resistance action plan
AMR とは Antimicrobial resistance の略であり薬剤耐性を意味する。AMR は人類が対応すべき喫緊の課題であることから,WHO が「薬剤耐性に関する国際行動計画」を策定,また主要国首脳会議の議題としても取り上げられ,グローバルな対応が求められている。そこで我が国でも「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」の枠組みの下に,「薬剤耐性に関する検討調整会議」を設置し AMR アクションプランとして取り組むべき対策をまとめた。
AMR アクションプランには,1 普及啓発・教育,2 動向調査・監視,3 感染予防・管理,4 抗微生物剤の適正使用医療,5 研究開発・創薬,6 国際協力の6つの分野に関する目標や,その目標ごとに戦略および具体的な取り組みが盛り込まれている。
これら AMR アクションプランを元に各病院では AST 主導による AMR 対策が求められている。
→AST,ICT
APD Automated Peritoneal Daialysisi 自動腹膜透析
腹膜を透析膜の代わりとし血液を清浄にする末期腎不全の治療法の1つで,透析液を腹腔内に入れることで,体内の老廃物を除去する方法である。APD は就寝中に器械を使って自動的に透析液を交換する方法である。1回に8~10時間(就寝中)に治療が出来る方法で,夜間に加え昼間にも1~2回の透析液交換を行うこともある。これに対し,CAPD は,1日を通じて持続的に腹膜透析を行う方法で,1回の治療には30分程度を要するが,1日に3~5回の交換が必要である。
→CAPD
ARB Angiotensin Ⅱ receptor blocker アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
レニン-アンジオテンシン - アルドステロン系(RAA 系)系の生理活性物質の1つとしてアンジオテンシンⅡ(AⅡ)があり,その生理作用は,アルドステロンの合成と分泌・血管収縮・腎における Na の再吸収促進による血圧上昇である。ARB は A Ⅱ受容体(AT1受容体)に特異的に結合し,その生理作用を抑制することにより降圧作用を示す。
ARDS Acute Respiratory Distress Syndrome 成人急性呼吸窮迫症候群
侵襲後に発生する急性・進行性の呼吸不全であり,著明な低酸素血症を呈する。①発症が急性(1週間以内)で,②胸部 CT を含めて胸水や無気肺,結節では説明のつかないもの,③ PEEPまたは CPAP ≧5cmH2O で,肺酸素化能が PaO2/ FIO2[ 動脈血酸素分圧(PaO2)を吸入酸素濃度(100%は1.0)(FIO2)で除した値(P/F 比)が300mmHg 以下,と定義され,重症度分類では,軽症,中等症,重症の3種に分類されている。
ARR Absolute Risk Reduction 絶対リスク減少率
臨床試験において効果の指標となる値である。対照群でのイベント(死亡率,合併症発生率など)から対象群でのイベント発生率を差し引いた値をいう
→RRR
ASO ArterioSclerosis Obliterans 閉塞性動脈硬化症
主に下肢の動脈に動脈硬化が起こり,血管が狭窄したり閉塞したりして足を流れる血液が不足し,それによって痛みを伴う歩行障害(間歇性跛行)を特徴とする疾患。喫煙,糖尿病,高血圧症,脂質異常症,慢性腎不全が危険因子とされている。
AST Antimicrobial Stewardship Team 抗菌薬適正使用支援チーム
抗菌薬適正使用支援チームのこと。抗菌薬を正しく使う手助けをするチームを意味する。ICTと異なる点は,ICT が感染防止技術により感染の予防を目的としているのに対し,AST は感染症を確実に治療することを目的としている。このため,ICT と AST は別の目的をもって活動する。
メンバーは,感染症専門医が中核となるが,薬剤師の存在も重要視されている。
→AMR,ICT
AUC Area Under the b lood concentration time Curve 血中濃度-時間曲線下面積
血中薬物濃度の時間推移を示す曲線グラフ下の面積で,濃度×時間の単位で表される。AUC=吸収量/(分布容積×消出速度定数)の関係があり,分母の2因子は薬物により決まっているので,AUC は吸収量に比例するといわれている。また,静脈内投与の薬物,あるいは生体内利用率が正確に分かっている時,他の経路の分布容積を求めるのに使われる
AUD antimicrobial use density 抗菌薬使用密度
対象となる範囲内で使用された抗菌薬の使用量を示す指標。国際的に使用されている指標である。①1日仮想平均維持量(DDD),一定期間に使用された②抗菌薬使用量及び③在院患者延数を用いる。
AUD(DDDs/100 bed-days)={(抗菌薬使用量(g)÷ DDD(g))÷在院患者延数(bed-days)}
×100
BBB blood brain barrier 血液脳関門
脳を保護するシステムの一つ。脳の多くは神経細胞から構成されているため,脳の細胞が障害を受けると全身性の障害につながる。血液中に含まれる物質は脳神経にダメージを与えることもあるため,脳を保護するための防御が血液脳関門である。血液脳関門は,酸素やブドウ糖などは透過するが,医薬品については透過しないものも多い。透過する医薬品は,脂溶性の高いもの,受容体を介在し取り入れられるもの,イオンチャンネルを介すものである。血液脳関門の実体は,血管内皮細胞が防御壁となっている。
BCAA Branched Chain Amino Acid 分枝鎖アミノ酸
必須アミノ酸のうち分枝鎖を有する構造上の類似点から,バリン,ロイシン,イソロイシンの三種を総称して呼ぶ。慢性の摂取不足により足腰の筋肉低下や腰痛の原因になる。たんぱく質の合成に深く関与しており,非代償性肝硬変患者の低アルブミン血症の治療に用いられる。また,肝性脳症では,アンモニア生成の抑制から低タンパク食が必要であるが,窒素バランスの維持のためにアミノ酸を必要とすることから,BCAA 含有製剤が開発されている。
分枝鎖アミノ酸(BCAA)と芳香族アミノ酸(AAA)のモル比を Fiscer(フィッシャー)比と呼び,肝機能の診断に用いられる。
BLS Basic Life Support 一次救命処置
急病患者の発見者,同伴者による救命処置を指す。早期にこれを行うことによって救命率が飛躍的に向上する。また自動体外式除細動器(AED)の駅や空港などへの設置により,心発作患者への一次救命措置がより迅速に行なわれるようになった。
→ACLS ;AED
BMI Body Mass Index ボディマス指数・体格指
ヒトの肥満度を示す身長と体重から計算される指数。算出法は(体重(kg)÷身長(m)2) で,日本肥満学会では BMI:18.5~25の場合を普通体重とし,特に BMI:22を適正体重(標準体重)としている。
BNP Brain Natriuretic Peptide 脳性ナトリウム利尿ペプチド
→脳性ナトリウム利尿ペプチド
BRM Biological Response Modifiers 免疫賦活療法または免疫機能補助療法
生体が本来持っている癌に対する抵抗性機構(特定の免疫細胞を活性化するサイトカイン類等)を賦活して癌を抑制しようとする薬剤あるいは療法を BRM と呼ぶ。
BSA Body surface area 体表面積
主に抗がん薬の投与量を設計するために使用される計算で,身体表面の面積の総称。抗がん薬はその効果が体表面積での投与量計算と相関するため,BSAを用いた投与量計算を行っている。
BSE Bovine Spongiform Encephalopathy(Mad cow disease) 牛海綿状脳症(狂牛病)
著明な海綿状病変をきたすため,伝達性海綿状脳症(TSE)として同一疾患に属し,BSE プリオンという病原体に牛が感染して起こる病気である。感染すると,牛の脳組織がスポンジ状になり,異常行動,運動失調などを示し,死亡するとされている。牛が宿主で,英国で集団発生し,1996年3月に英国政府がヒトにも感染する可能性があると発表した。
→アミロイド;クロイツフェルト・ヤコブ病;プリオン
CAPD Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis 持続携行式腹膜透析法
腹膜を透析膜の代わりとし血液を清浄にする末期腎不全の治療法の1つで,透析液を腹腔内に入れ,これを適当な時間で交換し体内の老廃物を除去する。CAPD は,透析液を長時間腹腔内に滞留させ毎日休み無く行うことである。CAPD では1回の滞留時間を4~8時間と長くし,1日に平均4回(3~5回)の交換で済ませる。これに対し,APD は夜に機械(自動腹膜透析装置)を使って自動的に腹膜透析を行う方法である。
→APD
CAUTI catheter-associated urinary tract infection カテーテル関連尿路感染
カテーテル関連尿路感染症は,カテーテル尿またはカテーテル抜去後48時間以内の尿培養で103/mL 以上の菌を認め,症状がある場合と定義されている。
CCU Coronary Care Unit 冠状動脈疾患集中治療室
冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞)患者の治療を集中的に行うためにつくられた施設。集中治療部門(ICU)の特殊なもの。
→ICU;NICU
CHDF continuous hemodiafiltration 持続的血液ろ過透析
救急・集中治療領域における循環動態の不安定な患者に対する血液透析の一つ。持続的血液ろ過(CHF)では簡便かつ安全に施行が可能である反面,溶質の除去能力が不十分という欠点がある。
これを改善するために持続的血液ろ過に透析を加えた方法である。利点として,小分子物質から低分子たんぱく質まで幅広い溶質の除去が可能である。
→CHF
CHF continuous hemofiltration 持続的血液ろ過
血液のろ過を中断することなく行うこと。長所として間欠的透析での大量の水分を除去することで発生する低血圧を回避出来る。適応患者は,急性腎障害で血行が不安定な患者や,大量の水分補給が必要な患者に適している。一方,分子量の小さなものは除去できるが,比較的大きな分子は除去されにくい。
→CHDF,CAPD
CKD Chronic Kidney Disease 慢性腎臓病
腎障害や腎機能低下が慢性的に続く状態のこと。放置すると末期腎不全に進行してしまうため,早期発見・早期治療が重要となる。
COPD Chronic Obstructive Pulmonary Disease 慢性閉塞性肺疾患
従来,慢性気管支炎や肺気腫と言われてきた病気の総称で,肺への空気の出し入れが慢性的に悪くなり,ゆっくりと悪化していく病気。かぜでもないのにセキやタンが毎日のように続いたり,階段の上り下りなど体を動かしたりしたときに息切れを感じる。喫煙習慣を背景に中高年で発症する。「タバコ病」とも言われる
COX-2選択的阻害薬 Cyclooxygenase-2 Selective Inhibitor
シクロオキシゲナーゼ(COX)は,プロスタグランジン(PG)などアラキドン酸代謝物を産生する酵素である。COX には COX-1と COX-2があり,一部では COX-3の存在も報告されている。COX-2を特異的に阻害するのが COX-2選択的阻害薬である。COX-1は基本的にどの細胞にもあり,胃粘膜や腎臓での PG の産生に関与して,細胞保護的あるいは生体保護的調節をしている。
一方,COX-2は炎症刺激が加わると発現する。したがって COX-2選択的に阻害することにより炎症反応だけを選択的に抑制するため副作用を少なくすることができると考えられている。
→シクロオキシゲナーゼ
CR Complete Remission(Response) 完全寛解
ある重篤な疾患の経過中に,その疾患の自・他覚的症状や検査成績が完全に好転または消失した状態をいう。がん化学療法における治療効果では評価可能病変および二次病変が全て消失し,新病変の出現がない状態が4週間以上持続したものをいう。
CRA Clinical Research Associate 臨床開発モニター
臨床試験の遂行に関する業務を担当する者。プロトコールの審査,試験担当医師の選定,試験の開始,モニタリング,試験の終結や最終報告書の作成などの業務を行う。
CRC Clinical Research Coordinator 治験コーディネーター
治験実施施設にて治験責任医師又は治験分担医師の指示のもとで治験の進行をサポートするスタッフ。インフォームドコンセントや同意説明,参加者の心のケアなどの,医学的判断を伴わない被験者に係わる業務や,治験に係わる事務的業務,チーム内の調整をする業務を担当する。
CRF Case Report Form 症例報告書
臨床試験の患者や被験対象のデータを個々に記録するために使われる個別の症例報告書のこと。
印刷物のほか,光学的もしくは電子的記録様式もある。ケースカード,調査票とも呼ばれる。
CRO Contract Research Organization 医薬品開発業務受託機関
治験依頼者の治験に係わる業務を治験依頼者から受託する組織の総称で医薬品開発業務受託機関と定義されている。治験の依頼および管理にかかる業務の一部を担う。SMO(治験施設支援機関)と異なり,医薬品メーカー側の立場で業務を行う。
→SMO
CT Computed Tomography コンピュータ断層撮影法
コンピュータによる画像再合成システムを内蔵した X 線診断法。体部の一断面の多方向より X 線を照射,走査(Scan)し,透過 X 線を測定して,断面(断層)上の各点の X 線吸収値をコンピュータによって算出する。この方法で再合成された X 線画像が画面上に描出される。
CTCAE Common Terminology Criteria for Adverse Events 有害事象共通用語規準
有害事象の評価や報告に用いる用語集であり,有害事象の発生レベルを標準化するための用語集である。有害事象と重症度がスケール(Grade)表示されている。
CTL 療法 Cytolytic T-Lymphocytes Therapy 細胞傷害性 T リンパ球療法
がん細胞と自己リンパ球を混合培養することにより,腫瘍に特異的な CTL を誘導し,効果増強を得る治療法。
CVP Central Venous Pressure 中心静脈圧
右心房内圧もしくは右心に近い胸腔内の上下大静脈内圧であり,心臓の前負荷ならびに循環血液量の指標として使用される。(正常値 5~10cmH2O(4~8mmHg))中心静脈圧の低下は,循環血液量の減少,大量出血,交感神経抑制による血管拡張を示唆し,上昇は,循環血液量増加,右心不全,血管収縮を示唆する。
DBT Double Blind Test 二重盲検法
主に臨床試験の第3相で行われる試験法。プラシーボ効果を除去するために,公正な第三者がコントローラーとなって,試験薬と対照薬の割り当てを行い,各被験者に割り付けられた治療を,被験者及び治験実施医師だけでなく,治験依頼者,被験者の治療や臨床評価に関係する治験実施医師のスタッフも知らないまま進められる臨床試験。二重盲検試験のデザインには群間比較試験(並行群間比較試験)とクロスオーバー比較試験の2種類がある。 この方法により,データ収集・解析時に発生するバイアス(先入観などによる偏りなど)が除外され,意図的に良い結果に導くようなことを防止できる。
DDS Drug Delivery System 薬物送達システム
薬物投与経路の最適化を目的とし,より高い有効性を示すように設計された薬物投与システム(剤型,投与方法等)の総称。その目的は放出制御による有効体液中濃度の持続,ターゲッティングによる効率的な薬物分布などである。DDS として,放出制御,吸収改善,標的指向化がある。
→アンテドラッグ;イオントフォレーシス;コントロールドリリース;持続性製剤;ターゲッティング療法;プロドラッグ;TTS
DEHP di(2-ethylhexyl)Phthalate フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
ポリ塩化ビニルに柔軟性を与えるための可塑剤として,DEHP は工業用,農業用,食品用,医療用にも大量に使われている。土壌,河川,湖沼からの検出やポリ塩化ビニル製の医療用具から点滴内への溶出が認められている。内分泌撹乱物質(環境ホルモン)ではないかとの指摘や魚介類,げっ歯動物への影響を認める論文(精巣毒性及び生殖発生毒)が発表されて生態系への影響が心配されている。現在はポリ塩化ビニル製品でも可塑剤に DEHP が使用されていない製品が販売されている。
→環境ホルモン;ダイオキシン類
DEM Drug Event Monitoring 薬剤イベントモニタリング
薬剤使用に伴って患者におこった事柄を薬剤師の視点で把握し,また収集し,さらに解析していくこと。日本薬剤師会が医薬品適正使用に資するための情報を組織的に収集するシステムの第一歩として展開している DEM 事業は,薬局薬剤師が医薬品の安全性向上に積極的に参画する活動であり,その成果は医薬分業の社会的有用性を明示する意義をも併せ持つものといえる。
DES Drug Eluting Stent 薬剤溶出性ステント
カテーテル治療に用いられるステント(ステンレスの金網)の表面に血管の細胞増殖を抑制する効果のある薬剤(免疫抑制剤など)をコーティングしたもの。徐々に溶出させることで新生内膜の増殖を抑え,再狭窄を予防する。
一方,従来のステントは BMS(Bare Metal Stent)と呼ばれる。
DIC syndrome Disseminated Intravascular Coagulation syndrome 播種性血管内凝固症候群
何らかの原因により,極端な血液凝固能亢進状態を生じ,全身の主として微小血管内に血栓の多発をきたす病態である。悪性腫瘍・急性白血病・重症感染症・劇症肝炎・肝硬変症・膵疾患・広範な外傷や熱傷・手術・ショック・大動脈瘤等に随伴することが多い。DIC の治療は,基礎疾患の治療,抗凝固療法,減少した血液成分の補充療法がおこなわれる。
Dipper/Non-Dipper/Extreme-Dipper 夜間血圧降下例 / 夜間血圧非降下例 / 夜間血圧過降下例
夜間血圧が昼間覚醒時平均血圧の10~20%下降するものを dipper,10%未満を non-dipper また,20%以上の降下を extreme-dipper という。本態性高血圧症の患者には正常な夜間の血圧降下がみられないタイプが存在し,虚血性心疾患や脳血管障害等の高血圧性臓器障害の症状を高率に有する。
DKA diabetic ketoacidosis 糖尿病性ケトアシドーシス
極端なインスリン欠乏とインスリン拮抗ホルモンの増加により,高血糖,高ケトン血症,アシドーシスの状態であり緊急対応を要する。
DKI drug-induced kidney injury 薬剤性腎障害
薬剤の投与により,新たに発生した腎障害,もしくは既存の腎障害の悪化をきたす病態である。
診断は,①薬剤投与後に新規発症した腎障害で,②当該薬の中止により腎障害の消失や病状進行の停止が認められ,他の要因が否定できるものである。発生は尿細管もしくは糸球体で分けられる。また,発生機序より,中毒性,アレルギー性,関節毒性,尿路閉鎖性に分類される。
→AKI
DMARDs Disease Modifying Anti Rheumatic Drugs 疾患修飾性抗リウマチ薬
T 細胞やマクロファージなどの免疫担当細胞に作用してリウマチ(RA)の炎症を軽減,鎮静化する作用がある。抗リウマチ薬は,免疫調節薬,免疫抑制薬,生物学的製剤の3種に分類される。その特色は①遅効性,RA 発症の基礎になっていると推定される免疫異常の是正 ②非特異的な抗炎症作用はほとんど認められない ③ RA を完全寛解に持っていくことは難しいが,進行を遅らせる可能性がある。一般に高い頻度で副作用が発現し,重篤な副作用についての報告が多い。その主なものは腎,肝機能障害,間質性肺炎,造血器障害,感染症,難治の下痢,皮膚・粘膜障害などである。
DMAT Disaster Medical Assistance Team 災害派遣医療チーム
災害が発生した直後(通常48時間以内)に現地に赴き,医療行為を行なう機動力のある,トレーニングを受けた医療チームを指す。チームは医師,看護師,業務調整員(救急救命士,薬剤師及び事務職員など)で構成され,大規模災害時や多傷病者が発生した事故などに派遣される。
厚生労働省が設置した日本 DMAT とは別に,東京では東京都保健医療局が設置した東京DMAT が存在しており,東京以外でも神奈川,大阪,大分などでも DMAT が設置されている。
DNAR do not attempt resuscitation 心肺蘇生を行わない
患者または患者の利益に関わる代理者の意思決定を受けて心肺蘇生法を行わないこと。
ただし。患者ないしは代理者へのインフォームドコンセントと患者の社会的な医療拒否権の保証により成立する。
言葉としては「(蘇生できる見込みが低いので)心肺蘇生を試みない」という,ニュアンスをもって使用されるよ。そのため,DNAR は心停止時の心肺蘇生を行わないという意味を持つ。
これに対し,DNR(do not resuscitation)は「(やれば蘇生するかもしれないが)蘇生するな」とのニュアンスを持つ。DNAR については,2016年12月16日に発表された一般社団法人 日本集中治療学会からの「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」を参照していただきたい。
DLST Drug Lymphocyte Stimulation Test 薬剤リンパ球刺激試験
薬剤によるリンパ球刺激試験のことで細胞性免疫検査の一種である。患者の感作リンパ球に抗原(起因薬物)とアイソトープ標識核酸前駆物質を加えて培養し,リンパ球の幼若化現象に伴って起こる核酸合成の亢進を測定する。薬剤によって起きる遅延型アレルギーの起因薬物の確定法として有用とされている。ただし,その陽性率は40~50%位とされている。また , 薬剤によっては白血球そのものに作用するか,化学構造によりリンパ球を増殖させることで偽陽性を示すことがあるので注意が必要である。
Do 処方 Ditto(一説ではラテン用語の「同じ・繰り返す」を語源としている)
前回と同じ処方や2回以上続けて,同じ用法,用量の薬剤の使用を指示した処方のこと。
DOT days of therapy 抗菌薬使用日数
抗菌薬の投与量にかかわらず,投与された日数を集計する方法。国際的に使用されている指標である。①抗菌薬使用延日数,②在院患者延数を用いる。
DOT(DOTs/100 bed-days)=(抗菌薬使用延日数(日)÷在院患者延数(bed-days))× 100
DPC Diagnosis Procedure Combination 診断群分類
疾病に応じて一定の金額が決められる医療機関別包括支払方式に導入された,厚生労働省が作成した新しい診断郡分類のことである。医療機関別包括支払方式は2003年4月より全国82の特定機能病院と調査協力病院の内,62施設において開始され,2021年度当初,一般病院を含め1,755の医療機関で採用されている。
医療機関別包括支払方式導入後の入院費は,DPC によって評価される診断群分類包括評価による定額分と DPC 対象外となる出来高評価分の医科診療報酬点数表をもとに計算される額と食事療養費の総和となる。診断郡分類包括評価は「診断群分類点数表」と呼ばれる包括範囲点数表をもとに下記の式で算定する。
診断群分類包括評価= DPC の1日当たり点数×医療機関別係数×入院日数×10円
DPI Dry Powder Inhaler
粉末状の医薬品を専用の吸入器を用いて自力で吸入するドライパウダー吸入薬のこと。喘息発作の予防や治療に用いられる吸入製剤である。自分で吸い込む剤型であるため,喘息発作時に用いる治療薬には不向きである。エアゾール製剤と違ってフロンガスが使われていないのでオゾン層の破壊や地球の温暖化の問題はない。
DVT deep vein thrombosis 深部静脈血栓症
静脈血栓の形成には,静脈の内皮障害,血液の凝固亢進,静脈の血流停滞の3つの成因があり,深部静脈に生じた血栓症を深部静脈血栓症と呼ぶ。深部静脈血栓症は,肺血栓塞栓症や血栓後症候群を引き起こす。診断および治療介入を早期に行うと,病態と予後の改善が見込める。
DPP-4阻害薬 Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitor
DPP-4とは dipeptidyl peptidase-4のことで,消化管より分泌されるインクレチンを分解する酵素である。これを阻害するのが DPP-4阻害薬であり,食事の刺激により消化管から分泌されるインクレチンの一種である GLP-1(Glucagon-like peptide-1:グルカゴン様ペプチド -1)の分解を抑制することで,インスリン分泌促進作用を増強し,糖尿病治療薬として用いられている。
DPP-4阻害薬と GLP-1作動薬の併用については,日本糖尿病学会が発行した「糖尿病治療ガイドライン2022-2023」では併用の有効性などは確認されていないとされている。
DSU Drug Safety Update 医薬品安全対策情報
日本製薬団体連合会安全対策情報部会に参加する製薬企業が厚生労働省医薬局の監修を受けて,通常は年に10回 , 医療用医薬品の使用上の注意改訂等をすべての医療機関・薬局に迅速かつ網羅的に伝達するもの。
EBM Evidence Based Medicine 根拠に基づいた医療
個々の患者の問題点に対し,良心的に,明確に,分別を持って,最新最良の医学知見を用いて,最善のエビデンス(根拠,臨床結果)を適用しようという医療である。
EBM の手順として,次の5つの step が提唱されている。
・Step 1 目の前の患者についての問題の定式化
・Step 2 定式化した問題を解決する情報の検索
・Step 3 検索して得られた情報の批判的吟味
・Step 4 批判的吟味した情報の患者への適用
・Step 5 上記1〜4の step の評価
ECG(EKG) Electrocardiogram(英)(Elektrokardiogramm(独)) 心電図
心臓の筋肉に微弱な活動電位が発生することで収縮と弛緩を繰り返し,心臓は全身に血液を循環させている。その電位の変化を波形として記録するのが心電図検査である。
心電図検査は心臓病の発見や診断,病状の把握,治療効果の確認,薬の副作用の発見などに欠かせない検査である。
ED Erectile Dysfunction 勃起不全または勃起障害
日本人男性の4人に1人が罹患していると言われる,男性性器海綿体への血液流入不全状態。
要因としては,うつ病やストレスなどの精神面だけでなく,糖尿病や高血圧症などの血管系の障害によっても引き起こされるほか,喫煙や飲酒などの生活習慣も大きく関与している。クエン酸シルデナフィル(バイアグラ ®)や塩酸バルデナフィル,タダラフィル(シアリス ®)など,ホスホジエステラーゼ -5 阻害作用を有する治療薬がある。硝酸塩系物質との併用で急激かつ重篤な血圧低下による死亡例が報告されている。
→生活改善薬
EICU emergency intensive care unit 救急集中治療室
気道,呼吸,循環,中枢神経に緊急性のある重症患者に対し,集学的治療を行うためのユニットで,厚生労働省より集中治療病床(ICU)として認可された病床のこと。
→ICU
EPR 効果 Enhanced Permeability and Retention effect
高分子や微粒子が腫瘍組織に蓄積しやすい性質をもつ効果。腫瘍組織において,その増殖のために血管の新生が常に生起しており,その血管は構築性が悪く,また透過促進因子の存在から極小血管壁の通過性が正常細胞にくらべて約3~10倍大きくなっている。このため,高分子や微粒子が容易に透過し,腫瘍組織内に蓄積する。さらに,腫瘍組織では,リンパ管が未発達で欠如している。一般に,正常細胞では漏出した高分子や微粒子はリンパ管へ移行されて排泄されるが,腫瘍組織では漏れ出したこれらの物質は除去されずに蓄積する。このような特性を EPR 効果という。この効果は微粒子化した薬剤によるがん治療の効果を上げるので,ドキソルビシンを封入したリポソーム製剤のドキシル注 ® などの薬物をナノ粒子にした DDS 製剤の研究・開発が行われている。
EGFR Epidermal Growth Factor Receptor 上皮成長因子受容
細胞膜を貫通する受容体型チロシンキナーゼのひとつで細胞増殖や分化などに関連した刺激を細胞内シグナル伝達系へ伝える働きがある受容体。血球以外のあらゆる細胞に存在し,細胞の増殖,正常な組織の新陳代謝,傷害を受けた際の再生に不可欠の生体内物質である。多くの癌腫において EGFR の過剰発現が報告され,この EGFR の作用を阻害することが,がん細胞の増殖抑制に繋がっている。
EGFR チロシンキナーゼ阻害剤として,ゲフィチニブ(イレッサ ®),エルロチニブ(タルセバ ®),オシメルチニブ(タグリッソ ®),アファニチブ(ジオトリフ ®)などや,抗 EGFR 抗体としてセツキシマブ(アービタックス ®)などがある
eGFR estimated Glomerular Filtration Rate 推算糸球体濾過量
血清クレアチニン値をもとに,年齢・性別を考慮して算出した糸球体濾過量のことで,腎機能の評価に使われる。また,eGFR 値が減少してくると死亡率・入院率・心血管病の発生率が増加することも知られている。また,筋肉量や性差などの影響を受ける血清クレアチニン値ではなく,筋肉量や年齢,性差などに影響を受けないシスタチン C を用いた eGFR 算出による腎機能評価も利用される。
EMI electromagnetic interference 電磁波干渉
電磁波や電磁界が周囲の電子機器に干渉する現象。医療における植え込み型医療機器については,国際安全規格で15cm の距離で影響を受けないことの確認が要求される。
EMR endoscopic mucosal resection 内視鏡的粘膜切除術
病変部が扁平ながんや腺腫を切除する際に行われる方法。病変直下の粘膜下層に生理食塩液などを注入し,病変部を浮かび上がらせ,内視鏡先端にある輪(スネア)を引っ掛けて絞り,高周波電流を流して病変部を切除する。
ERCP endoscopic retrograde cholangiopancreatography 内視鏡的逆行性胆道膵管造影
内視鏡を口から挿入し,食道,胃を通り,十二指腸まで進め,胆嚢や胆管(胆道),膵管にカテーテルを挿入し,そこから造影剤を注入してレントゲン撮影をすることで,胆道および膵管の異常を詳しく調べる検査法。
ESD endoscopic submucosal dissection
消化器の早期がんに対する切除法の一つ。病変粘膜下層に薬液を注入し,病変部を浮かび上がらせるまでの工程は EMR と同様だが,ESD の場合,主要周囲にマーキングを行った後,専用のナイフで病変を切り取る。EMR は使用するスネアのサイズによって切除できる病変の大きさに限界(胃では通常2㎝程度)があるが,ESD では専用の処置具を使い,より広範囲に病変を切り取ることが可能な治療法である。
F~J
FDA Food and Drug Administration 米国食品医薬品局
米国の保健教育福祉省に属し,食品・医薬品・化粧品・動物薬・医療用具等の規制を担当している連邦機関。
FIC Index Fractional Inhibitory Concentration index
2種類の抗菌薬併用の効果が,相乗,相加あるいは拮抗であるかを知る方法。
FIC index ≦ 0.5 相乗作用 1< FIC index ≦ 2 不関
0.5< FIC index ≦ 1 相加作用 2< FIC index 拮抗作用
FIP International Pharmaceutical Federation
国際薬剤師・薬学連合のこと。1912年設立。世界保健機関(WHO)と連携した薬科学者と薬剤師の国際組織。薬局実務(pharmacy practice)と薬科学(pharmaceutical sciences),薬学教育(pharmacy education)の3部門から成る。
GCS(Glasgow Coma Scale)
意識障害の評価を「開眼」「言語反応」「運動反応」の3つについて点数化したもので,点数が低いものほど意識障害が重いことを示している。15点満点(正常)で,最低点は3点で,深昏睡という。軽症・中等度の分類はガイドライン等により差異があるが,一般的には8点以下を重症として取り扱う。
E:開眼(eye opening),自発的なら4,言葉により開眼すれば3,痛み刺激により開眼すれば2,開眼しない場合は1となる。
V:一言語音声反応(verbal response),見当識あれば5,混乱した会話は4,不適当な単語を発すれば3,無意味な発声が見られれば2,発声が見られない場合は1となる。
M:運動反応(best motor response),指示に従う場合6,痛み刺激部位に手足を持ってくる場合5,痛みに手足を引っ込める(逃避屈曲)場合4,上肢を異常屈曲させる(除皮質肢位)異常な四肢屈曲反応を見せる場合3,四肢を異常進展させる(除脳肢位)場合2,まったく動かさない場合1となる。
→JCS(Japan Coma Scale)
GCP Good Clinical Practice
医薬品の臨床試験の実施に関する基準。医薬品の製造(輸入)承認申請の際に提出すべき資料の収集のために行われる臨床試験の実施に関する遵守事項を定め,その臨床試験が倫理的な配慮のもとに,科学的に適正に実施されることを目的として平成元年10月2日に通知された。平成9年4月に被験者の保護及び治験データの信頼性を2大柱として,試験者の人権保護・安全性確保,治験の質の確保,データの信頼性確保,責任・役割分担の明確化,記録の保存を明文化した省令として,新たに新 GCP が施行された。
G-I 療法 Glucagon-Insulin therapy
グルカゴンとインスリンの両ホルモンを用いる急性肝不全の治療法の1つである。本療法は肝細胞障害の抑制効果,障害肝における肝再生促進効果を有していることが判明しているが,両ホルモンのいずれが主体であるかについては一致した見解はない。
G-I 療法 Glucose-Insulin therapy
グルコースがインスリンの働きにより細胞内に取り込まれる際に,細胞外のカリウムも同時に細胞内に移行することを利用して,高カリウム血症の治療に用いられる。
GLP Good Laboratory Practice
医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準。
GLP-1 glucagon-like peptide 1 グルカゴン様ペプチド-1
グルカゴンと同じ遺伝子 proglucagon の配列から作られるペプチド。小腸から分泌されるインクレチン作用因子の一つで,ブドウ糖濃度依存性インスリン分泌促進,ランゲルハンス島β細胞増殖,グルカゴン分泌抑制,胃排泄能抑制,中枢性食欲抑制などの作用がある。GLP-1を,その機能を保ちつつ,体内で分解されにくいように構造を変えた GLP-1アナログ製剤が2010年1月に製造販売承認され,2014年8月に2型糖尿病の適応となった。
→インクレチン,DPP- Ⅳ阻害薬
GLUT Glucose transporter グルコース輸送体
細胞膜を横切って糖を輸送する膜蛋白質のひとつ。GLUT1~5と GLUT7がある。グルコースのほか,フルクトース,ガラクトースの輸送に関わっている。
GSP Good Supplying Practice
1975年10月に日本医薬品卸業連合会が策定した,医薬品の供給と品質管理に関する実践規範。
医薬品卸売業は,薬機法により「一般販売業」の中で特に「卸売り一般販売業」として法的定義が明確化されており,大量かつ多種類の医薬品を適正に保管管理し,迅速・円滑に供給できる体制を整備する必要があることから,医薬品の品質試験記録,保管記録,新薬などの流通履歴を明確にするための出納記録などを整備するために自主的に策定した規範。
GMP Good Manufacturing Practice
品質の高い製品を製造するための実施要領。医薬品の製造を厳密な管理のもとで行うために定められたこの GMP は,少なくとも,①人為的な誤りを最小限にする ②医薬品に対する汚染及び品質変化を防止する ③高度な品質を保証するシステムを設計する。以上3つの要件を満たすことが求められている。1974年に GMP 基準が定められ,さらに1979年に法制化された。
GPMSP Good Post-Marketing Surveillance Practice
市販後医薬品調査実施基準である。新医薬品が承認までに確認できない有効性・安全性の問題を実際の医療現場での成績を基に確認するために,厚生省が市販後調査についてその実施基準として定めたもの。平成5年から実施されたが,平成17年4月1日に改正薬事法の全面実施に伴い,医薬品の安全管理に関する GVP 省令と調査や試験に関する GPSP 省令に分かれた。
GPP Good Practices in Pharmac
薬局等の管理薬剤師の権限を明確にし,医薬品供給の安全を確保するため,日本薬剤師会が設定した薬局業管理薬剤師規範である。
GTT Glucose Tolerance Test ブドウ糖負荷試験
OGTT( Oral Glucose Tolerance Test;経口ブドウ糖負荷試験)とも言う。ブドウ糖75 gを服用,服用前後の血糖および血中インスリン(インスリン治療患者などでは C -ペプチド)の経時的変動から,耐糖能および膵島 B 細胞の機能を評価する。
GUP Good Using Practice
薬局及び病院・診療所の薬局における医薬品の適正な使用に関する実践規範である。
GVHD Graft Versus Host Disease(移植片対宿主病)
組織適合性抗原の異なる宿主に移入された移植片中のリンパ球が宿主内に生着して,宿主の組織を非自己と認識し,その組織を攻撃する病態のこと。輸血後に発症する重篤な輸血副作用として問題視されている。
H2-Bloker H2受容体拮抗薬
胃壁細胞膜上にある受容体の一つであるヒスタミン H2受容体を遮断することで酸分泌を抑制する薬剤。スイッッチ OTC として薬局で処方箋なしに入手できるものもある。
HAART 療法 Highly Active Anti-Retroviral Therapy
複数の抗 HIV-1薬を各人の症状・体質に合わせて組み合わせて投与し,ウイルスの増殖を抑え後天性免疫不全症候群(AIDS)の発症を防ぐ治療法である。俗称的にカクテル療法とも呼ばれる。
→エイズ;逆転写酵素阻害薬;プロテアーゼ阻害薬;レトロウイルス;AIDS; HIV
HbA1c
ヘモグロビン A のβ鎖の N 末端にグルコースが結合したものを HbA1c と呼ぶ。血液中のグルコースは非酵素的にヘモグロビンと結合する。HbA1c は過去1~3ケ月の平均血糖値を反映する情報を提供し,一時的な生理条件に左右されない。
HFrEF heart failure with reduced fraction
収縮性心不全とも呼ばれ,左室駆出率(LVEF)が40%以下の心不全と定義される。左室全体の収縮機能障害が主である。左室の収縮が不良になり,駆出が不十分となる結果,拡張期容積の増大,拡張期圧の上昇,および駆出率の低下が生じる。エネルギー利用,エネルギー供給,電気生理学的機能,および収縮成分の相互作用について多くの異常が生じ,細胞内カルシウム濃度の調節や cAMP 産生の異常が生じる。原因としては虚血性心疾患,心筋症,心臓弁膜症などがある。治療薬としては ACE 阻害薬・ARB,β遮断薬,MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬),利尿薬などがガイドラインで推奨されている。
→MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
HFpEF heart failure with preserved ejection fraction
拡張性心不全とも呼ばれ,左室駆出率(LVEF)が50%以上の心不全と定義される。左室充満が損なわれる結果,安静時または労作時に左室拡張末期圧が上昇するが全体的な収縮性は正常なままであるため駆出率も正常である。HFpEF 患者の大半では,拡張末期左室容積は正常であるが,一部の患者では,左室充満の著明な制限により,拡張末期左室容積が異常に小さくなり,そのため心拍出量が低下して全身症状が現れ肺高血圧症と肺うっ血が生じる可能性がある。高齢女性に多く,高血圧や糖尿病,慢性腎臓病,心房細動,貧血,肥満などの全身性の合併症を有することが特徴である。治療薬については HFrEF と異なりうっ血に伴う症状軽減の目的での利尿薬,それ以外では高血圧や合併症への治療薬が推奨されるにとどまり,有効な治療薬は十分に確立されていない。
HGF hepatocyte growth factor
肝細胞増殖因子のことで,肝炎治療・肝硬変の予防・肝摘出後の肝再生促進など新しい肝臓治療 薬として開発が期待されている。
Hib Haemophilus influenza b(ヘモフィルス属インフルエンザ菌b型の略称)
冬場に流行するインフルエンザ(流行性感冒)の原因微生物となるインフルエンザウイルスとは異なる細菌。
肺炎・敗血症・喉頭蓋炎などさまざまな感染症を引き起こすが,特に重篤な感染症が Hib による細菌性髄膜炎(Hib 髄膜炎)である。Hib ワクチンの接種により,重篤な Hib 感染症にかかるリスクを95%以上減らすことができると報告されている。
HIT Heparin-induced thrombocytopenia(ヘパリン起因性血小板減少症)
出血に次ぐ,ヘパリンの重大な副作用のひとつ。病態としては,
①(未分画,低分子分画を問わない)ヘパリン投与中に発症し,急激に血小板が減少する。
②ヘパリン投与中止により血小板数が速やかに回復する。
③動静脈塞栓症をしばしば合併するなどが挙げられる。
治療としては,ヘパリンの速やかな中止と,すでに生産されたトロンビンの不活性化の目的で抗トロンビン薬の使用を行う。
HIV Human Immunodeficiency Virus ヒト免疫不全ウイルス
レトロウイルス科のヒト免疫不全ウイルスの感染によって起る,全身性の免疫不全症候群。感染は,HIV 感染細胞または遊離ウイルスが混入した血液,精液や膣分泌液などの体液,母乳および血液製剤などから輸血もしくは性交が主であり,ほかにも感染した母親からの胎児への子宮内感染,産道感染および新生児への授乳感染もある。
→エイズ;逆転写酵素阻害薬;プロテアーゼ阻害薬;レトロウイルス;AIDS;HAART
HMG-CoA 還元酵素阻害薬 HMG-CoA reductase enzyme inhibitor
HMG(3-hydroxy-3-methylglutaryl)-CoA の HMG と構造が似ているため,HMG-CoA 還元酵素に対して拮抗阻害作用を示し,その結果コレステロールの体内合成を阻害する薬剤
HLA Human Leukocyte Antigen ヒト白血球型抗原
ヒトの主要組織適合遺伝子複合体のこと。HLA は細胞表面に存在する抗原で3つの面から注目されている。①臓器移植における組織適合性。HLA の不一致が著しければ,拒絶反応により生着し得ないため,その一致をはかることが重要。②いくつかの疾患と患者の HLA が相関することで,疾患の遺伝的背景・病因を考える上で診断の参考になる。③免疫機構における役割。抗原はまずマクロファージに取り込まれ処理された後,その表面にある HLA と結合し,初めてリンパ球によって認識される。自己免疫疾患患者に特定の HLA が多いのは,病因となる自己抗原がその HLA と結合しやすいためではないかと考えられている。
HOT Home Oxygen Therapy 在宅酸素療法
自宅に酸素供給機を設置し,必要時あるいは24時間,酸素吸入をすること。慢性呼吸不全患者の生命予後の改善などに役立っている。また,家庭での酸素投与によって在宅療養や社会復帰を可能にしている。費用については健康保険が適応される
HPN Home Parenteral Nutrition 在宅中心静脈栄養
在宅において中心静脈栄養(TPN)を行うこと。HPN を施行する際,薬剤師は TPN 調製だけでなく,薬剤の保管や消毒法等,患者指導についても重要な使命を有する。
→IVH;TPN
ICD10 International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems
疾病及び関連保健問題の国際統計分類の略で異なる国や地域から,異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録,分析,解釈及び比較を行うため,世界保健機関憲章に基づき,世界保健機関(WHO)が作成した分類である。最新の分類は,2022年1月に発効された ICD11である。我が国では,ICD-10に準拠した「疾病,傷害及び死因分類」を作成し,統計法に基づく統計調査に使用されるほか,医学的分類として医療機関における診療録の管理等に活用されている。
ICH International Conference on Harmonisation
「医薬品の承認審査に関するハーモナイゼーション」を示し,日米欧3極の医薬品開発規制を調和一致し,「データの国際的相互利用」を行っていこうというものである。これにより国ごとに治験を繰り返すことが避けられ,優れた新薬が各国で迅速に承認されて臨床で使用することが可能となる
ICU Intensive Care Unit 集中治療室
重篤な救急患者・重症患者・大手術後の患者等に対し,循環・呼吸・代謝等の変動を絶えず監視しながら必要に応じて適切な処置を行い,患者の状態が改善され普通病室に帰れるようになるまで収容する部門をいう。
→CCU; NICU
ICU syndrome Intensive Care Unit syndrome
ICU に収容された患者が,収容後2日目頃からせん妄・うつ状態・妄想等の症状を呈すること。
その症状が3~4日あるいは転出まで続き,症状の消失後は後遺症を残さないものと定義されている。
ICT infection control team 感染対策チーム
医師,看護師,薬剤師,検査技師などから構成される。院内での感染の発生や拡散を防止するために,病棟などを巡回し,医療スタッフに対して感染防止の啓発や感染症への対処などについて指導を行うこと,また医療スタッフの教育や必要に応じた調査,研究を行う。
IDAL Instrumental Activity of Daily Living 手段的日常生活動作
日常生活を送る上で必要な動作のうち,ADL(日常生活動作)より複雑で高次な動作をさす。
買い物,洗濯,掃除など家事全般や,金銭管理,服薬管理,外出して乗り物に乗る,趣味などが含まれる。高齢者の生活自立度を評価する際,ADL だけでなく IADL も考慮する必要があるといわれている。
IMT 内膜中膜複合体厚 intima-media thickness
頚動脈の超音波断層装置画像から動脈の内膜と中膜の厚さの合計である頚動脈内膜・中膜複合体厚を計測し,動脈硬化の指標とする検査法。特に糖尿病に伴う動脈硬化の診断に用いられる。
1.0mm 以下が正常値。
INR International Normalized Ratio
PT(Ratio)に試薬ごとの国際感度指数(ISI: International Sensitivity Index) を乗じた値で,以下のように計算される。TT(トロンボテスト)に代わって国際標準化されてきている。
PT(INR)=(患者秒数/正常秒数)ISI
iPS 細胞 induced pluripotent stem cell 誘導多能性幹細胞
人間の皮膚などの体細胞に,極少数の遺伝子を導入することにより,非常に多くの細胞に分化できる分化万能性(pluripotency)と,分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた多能性幹細胞のこと。
患者由来の iPS 細胞から分化誘導した組織や臓器の細胞を移植する細胞移植治療のような再生医療のほか,人体では不可能である薬剤の有効性や副作用を評価が可能になり,創薬にも活用できる。また,難病患者から iPS 細胞を作って解析すれば,発症原因や治療の糸口も見つかると期待されている。
IRB Institutional Review Board 治験審査委員会
治験審査施設機関が治験を実施する際に厚生労働省に届け出た治験デザインを審査する中立的な組織で,GCP に準じて治験の倫理性,安全性,科学的妥当性を審査する委員会。治験実施施設は,治験依頼者(製薬会社等)から依頼された治験について,被験者の人権・安全・福祉及び治験の意義や妥当性といった治験計画全般を厳密に審議した上で受託の可否を決定し,治験開始後も実施状況の確認と継続の検討等について評価する。
IVH Intravenous Hyperalimentation 経中心静脈高カロリー輸液
消化管に病変があって経口摂取が不可能な患者に対して,中心静脈(主に鎖骨下静脈・頸部静脈)からカテーテルを挿入し,点滴静注する栄養素を含む輸液のことである。末梢静脈からの点滴静注よりも多量のカロリーが得られるので,病態からの回復や発育に必要な栄養をまかなう時に適用される。主な組成は,糖・アミノ酸・脂肪乳剤・無機質・ビタミン等で,開始液,維持液と配合が異なり,施設により標準化している。
→HPN;TPN;PPN
JAN コード Japanese Article Number
共通商品コード用バーコード規格である。薬業界において昭和53年,日本薬品卸業連合会の提唱により,メーカー・卸間の統一コードが設定された。厚生省では,これとは別に薬価基準収載医薬品コードを作り,薬価調査・薬事工業生産動態調査に利用している。平成27年7月以降に製造販売業者から出荷される医療用医薬品については,JAN コード表示が終了となり,新コード(GS1)に移行する。
JPALS:Japan Pharmaceutical Association life long Learning support System
日本薬剤師会が構築した薬剤師の生涯学習支援システムのこと。日本のすべての職域の薬剤師が体系的,計画的に生涯学習を進めていけるように,学習を記録する「ポートフォリオシステム」と,ポートフォリオに書くことのできる学習手段の一つとして提供する「e-ラーニングシステム」の2つのシステムにより構成されている。一人一人が学習した記録を残し,自身の位置を確認しながら学習の計画を立て,学習したことをバネにして自己研鑽を継続していくことができる。
JCS(Japan Coma Scale) ジャパンコーマスケール
3-3-9度方式ともいう。意識障害の評価方法。刺激を加えたときに,どの程度反応したり覚醒したりするかを調べる方法。I,Ⅱ,Ⅲの3段階に分類し,さらにそれぞれを3段階に細分化して合計9段階で評価。
Ⅰ 刺激しないでも党醒している〈一桁の数字で表現〉
1 だいたい意識清明だが,今ひとつはっきりしない
2 時,場所または人物がわからない
3 名前または生年月日がわからない
Ⅱ 刺激すると覚醒するが刺激をやめると眠り込む状態〈二桁で表現〉
10 普通の呼びかけで容易に開限する(合目的な運動〈たとえば,右手を握れ,離せ〉をするし言葉もでるが,間違いが多い)
20 大きな声または体をゆさぶることにより開眼する(簡単な命令に応ずる,たとえば離握手)
30 痛み刺激と呼びかけを繰り返すと,かろうじて開限する
Ⅲ 刺激しても覚醒しない〈三桁の数字で表現〉
100 痛み刺激に対し,はらいのけのような動作をする
200 痛み刺激に対し手足を動かしたり,顔をしかめる
300 痛み刺激に反応しない
ジャパンコーマスケールの他にも,意識障害の評価にはグラスゴーコーマスケール(GCS)がある。
K~O
KRAS 遺伝子
KRAS とは,がんの発生と進行に関与している上皮成長因子受容体(EGFR)のシグナル伝達経路において重要な役割を担う蛋白質をコードする遺伝子である。EGFR が出す細胞増殖のシグナルを受け取り核に伝達する。腫瘍内には正常な「KRAS 野生型」と変異した「KRAS 変異型」のいずれかが存在している。変異型は,EGFR からのシグナルがなくても,常に細胞増殖のシグナルを出し続け腫瘍が増大する。膵臓癌,肺癌,直腸癌などで KRAS 遺伝子の変異が多くみられる。
患者の KRAS 遺伝子に異常がある場合,EGFR からのシグナル伝達を阻害するセツキシマブなどの薬剤を投与しても,下流の KRAS 遺伝子から細胞増殖のシグナルが出続け,腫瘍細胞の増殖を抑制できないため,効果は期待できない。
LAK 療法 Lymphokine Activated Killer
癌患者から採血,分離したリンパ球に,培養液中で数日間インターロイキン2(IL-2)を作用させて活性化させると,抗癌作用を発揮することが発見され,この活性化したリンパ球を LAK細胞と命名した。このようにして培養され,増殖した LAK 細胞を再び癌患者の体内に戻すのがLAK 療法で,自己リンパ球をいわば養子に出す形となるため,養子免疫療法とも総称されている。
LASIK Laser in Situ Keratomileusis エキシマレーザー生体内角膜切開術
角膜屈折強制手術の一種で,目の表面の角膜にエキシマレーザーを照射して,角膜の曲率を変えることにより視力を矯正する。
LCT long chain triglyceride 長鎖脂肪酸
炭素数が14~18の脂肪酸で構成される脂肪酸。大豆油,ゴマ油などの主な食用油脂の脂肪酸組成は,ほとんどが長鎖脂肪酸である。ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸などがこれにあたる。体内にゆっくり吸収された後,蓄積され,必要に応じて分解されエネルギーになる。
MAC Mycobacterium avium complex
非結核性抗酸菌(非定型抗酸菌)のうち分類学的に近縁の Mycobacterium avium とM.intracellulare を区別しない一括した名称。我が国の非結核性抗酸菌による感染症の80% 程度を MAC 菌が占め MAC 症と呼ばれる。非結核性抗酸菌は土や水などの環境中にいる菌で,結核菌とは異なり人から人には感染しない。
MAO 阻害薬 Monoamine Oxidase Inhibitor
生理活性を有するアミン類の酸化的脱アミノ化を触媒する酵素の総称であり,全身に広く分布する。脳内においては,脳内モノアミン(NA・5-HT 等)を分解する酵素として MAO-A やMAO-B が多く存在する。MAO 阻害薬は,MAO を阻害し,組織でのモノアミン濃度を増加させる。
国内では長らく選択的 MAO-B 阻害薬セレギリン(エフピー錠)が抗パーキンソン病薬として使用されてきたが,2018年以降ラサギリン(アジレクト錠),サフィナミド(エクフィナ錠)が上市され選択肢が増えた。
MARTA Multi-Acting Receptor-Targeted Antipsychotics 多元受容体標的化抗精神病薬
多種受容体に作用する多元作用型(multi-acting; MA)と,疾患関連部位に選択的に作用する受容体標的化(receptor-targeted: RT)の2つの要素から構成される薬効群のこと。多数の神経物質受容体に対する作用を介して精神分裂病の様々な症状(陽性症状のみならず,陰性症状,認知障害,不安症状,うつ症状など)に対する薬効が発現する多元作用型(MA)と多くの受容体に対する作用が脳内作用部位への選択性につながる(受容体標的化:RT)という,従来の定型抗精神病薬および SDA(serotonin-dopamine antagonist)を含む非定型抗精神病薬とは異なる薬理学的特徴がある。
MBC minimum bactericidal concentration 最小殺菌濃度
ディスク法で測定する99.9%かそれ以上の細菌を24時間以内に殺すことができる濃度であり,殺菌能力を示す。一般に殺菌性抗菌薬の MIC と MBC には大きな差はない。
MCT medium chain triglyceride 中鎖脂肪酸
炭素数が6~12の脂肪酸から構成される脂肪酸。胆汁酸を欠いた状態でも水解が速やかで,ミセルを形成しなくても細胞内に取り込まれ,細胞内では再エステル化されず脂肪酸のまま門脈血中に入る。ラウリン酸,カプリン酸,カプリル酸がこれにあたる。中鎖脂肪酸は消化吸収が速く,また,直接肝臓に運ばれ素早く分解されてエネルギーとなってしまうため体に蓄積しない。
MDRP Multidrug resistant Pseudomonas 多剤耐性緑膿菌
カルバペネム,フルオロキノロン,抗緑膿菌用アミノ配糖体の3系統の抗菌薬に広範な耐性を獲得した多剤耐性株。その分離率は国内では数%以下と推定されているが,悪性腫瘍などを基礎疾患に持つ患者からそのような株がしばしば分離されており,一部では院内感染症の原因菌となっている。
→院内感染;院内肺炎;感染経路別予防策;コンプロマイズドホスト;スタンダードプリコーション;日和見感染症;MRSA;VRE
MedDRA/J Medical Dictionary for Regulatory Activities/J
MedDRA(英語版)に日本語を付加した「ICH 国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J)」のことで日本国内でも医薬品規制の場で広く利用されている。MedDRA(英語版)は,医薬品規制ハーモナイゼイション国際会議(ICH)において作成された,症状,徴候,疾患など国際的に共通する医学用語を定めた「国際医薬用語集」である。MedDRA/J は,日本公定書協会が維持管理機構となっている。薬事法に基づく感染症定期報告,医薬品副作用・感染症症例報告,治験薬副作用・感染症症例報告に使用する副作用名等の用語については MedDRA/J を使用することとなっている。
MEDLINE Medical Literature Analysis and Retrieval System On-Line
米国国立医学図書館(NLM:National Library of Medicine)が誇る医療文献データベースで,取扱い分野は,薬品,介護,歯科系,ヘルスケアなど多岐にわたる.米国をはじめ,他の世界70カ国以上で出版された,5000誌を超える最新の生物医学系ジャーナルからの引用文や要約が収められている。収録範囲は世界中にわたるが,ほとんどは英語によるものか,英語の要約が添えられている。
mEq milli-Equivalent ミリイクイバレント
体液濃度を表す単位の1つで,化学反応の量的な関係をもとにした数字である。1モル量をその原子価で除した量が Eq/L の質量(g)であるが,体液は電解質の濃度が非常に薄いので,その1/1000,milli-equivalent 1(mEq/L)を用いている。
METS Medical Evangelism Training & Strategies
身体活動の強度を示す単位で,その活動が安静時の何倍に相当するのかを表す単位。METSに活動時間をかけたものをエクササイズという。
MIC Minimum Inhibitory Concentration 最小発育阻止濃度
ある細菌に対してその発育を阻止するある薬剤の最小希釈濃度のことである。通常,mg /mL で表し,菌の種類・菌株の違いによってそれぞれ異なる値を示す。
MMR measles, mumps, and rubella vaccine 新3種混合ワクチン(麻疹,おたふくかぜ,風疹混合ワクチン)
麻疹(measles),流行性耳下腺炎(おたふく風邪,mumps),風疹(rubella)の三種の弱毒化ウイルスが混合された3価生ワクチンで,頭文字から MMR ワクチンと称す。日本では未承認である。
MPD maximum permissible dose 最大許容線量
放射線を浴びても身体障害や遺伝障害は起こらないという最大値を示す。国際放射線防護委員会(ICRP)による基準などがある。
MR Medical Representatives 製薬会社の医療情報担当者
医療機関に出入りして,医師・薬剤師等の医療従事者に医薬情報を伝える営業職。その業務の目的は医療関係者を訪問すること等により安全管理情報を収集し,提供し,医薬品の適正な使用を推進することにある。
→MR 認定試験;MS
MR 認定試験
日本製薬工業協会が中心となって設立した財団法人「医療情報担当者教育センター」が,MR(製薬会社医療情報担当者)の資質向上を目的として行う試験である。受験資格は,製薬企業に属し,企業内教育研修の修了証を取得した者。
→MR
MRI Magnetic Resonance Imaging 磁気共鳴映像法
人体を一定の磁場の中に入れて,高周波の電磁波エネルギーを与え,生体内原子と共鳴現象を起こした時に放出されるエネルギーを信号として取り出し,断面図でも描き出せる医用電子機器による検査法。多方面の角度から断面図が作成できるので診断が鮮明かつ容易になり,X 線の被爆もなく,造影剤も不要といった利点がある。
MRSA Methicillin Resistant Staphylococcus Aureus メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
メチシリンを含む多数の抗生物質に耐性を示す黄色ブドウ球菌。第三世代セフェム系抗生物質の繁用につれて耐性を示すものが増加し,現在では院内感染の代表的菌種となっている。術後のMRSA 感染は重症・難治性である。
→院内感染;院内肺炎;感染経路別予防策;コンプロマイズドホスト;スタンダードプリコーション;日和見感染症;MDRP;VRE
MS Marketing Specialists 医薬品卸売業の営業担当者
医薬品卸販売担当者の営業職である。医療機関に対して医薬品や医療材料などの納入価格交渉や受注納入などの業務を行うとともに医療機関を訪問して,医薬品情報の提供・収集も行っている。製薬企業の MR とは違った医薬情報の提供や収集を行うことにより MR を補完する役割も担っている。
→MR
MSW Medical Social Woerker 医療ソーシャルワーカー
保健医療分野におけるソーシャルワーカーであり,主に病院に於いて『疾病を有する患者等が,地域や家庭において自立した生活を送ることができるよう,社会福祉の立場から,患者や家族の抱える心理的・社会的な問題の解決・調整を援助し,社会復帰の促進を計る』専門家。
NASH Non-alcoholic steatohepatitis 非アルコール性脂肪性肝炎
発生原因にアルコールが含まれないアルコール性肝障害に類似した進展を示す症例を指す。発生に至る機序ははっきりわかっていないが,肝細胞への中性脂肪の沈着(脂肪肝)が起こり,肝細胞障害要因や遺伝的素因により発症するといわれている。NASH は進行性で肝臓の線維化が進展し肝硬変,肝細胞癌へ移行する。
NBM Narrative-Based Medicine
「ナラティブ」は「物語」と訳され,患者が対話を通じて語る病気になった理由や経緯,病気についてどのように考えているかなどの「物語」から,病気の背景や人間関係を理解し,患者の抱えている問題に対して全人的(身体的・精神・心理的。社会的)にアプローチしていこうという臨床手法。
NICU Neonatal Intensive Care Unit 新生児集中治療部
極小未熟児を始めとする重篤な状態にある新生児に対し,循環・呼吸・代謝等を絶えず監視しながら,高度の医療を強力かつ集中的に行う部門。
→CCU;ICU
NK1受容体 neurokinin 1 ニューロキニン1受容体
タキキニンペプチドの1つであるサブスタンス P と高い親和性を有する G タンパク質共役型受容体である。中枢のみならず末梢にも存在し,サブスタンス P との結合により様々な情報伝達系を活性化し,複数のイオンチャネルを修飾して疼痛,神経原性炎症,情動等の広範囲な生理機能と疾患病態に関与している。がん薬物療法に伴う悪心・嘔吐(chemotherapy induced nausea and vomiting:CINV)の中でも抗がん薬投与後24時間以降に発現する遅発性嘔吐は,孤束核や腸管の迷走神経終末にある NK1受容体へのサブスタンス P の結合により発現することから,NK1受容体拮抗薬にて,制吐効果が得られる。現在,我が国で承認されている NK1受容体拮抗薬には,アプレピタントとそのリン酸化プロドラッグのホスアプレピタントがある。
NNT Number Needed to Treat
1人に好ましくない転帰が生じるのを防ぐために,治療しなければならない患者数。
絶対危険減少率の逆数。
NOAEL 無毒性量
複数の用量群を用いた反復投与毒性試験,生殖・発生毒性試験などの動物実験において,毒性学的なすべての有害な影響が認められなかった最高の暴露量のこと。有害な影響の有無の判断は毒性学の専門家に任せられているが,生体組織の基質的変化を伴わない,血清生化学値あるいは器官重量の増減,または,代償的な変化は有害な影響と見なされる。
NOEL 無影響量
化学物質の毒性試験で,複数の用量段階で動物への毒性を観察したとき,有害/無害を含めた影響が認められない最高の暴露量のこと。通常,動物の反復投与毒性試験,生殖・発生毒性試験などの安全性試験を複数の用量群を用いて行う。被験物質による影響がない量を判定するためには,一定の基準を満たす試験法を用いて行われる必要があり,量 - 反応曲線から化学物質の安全域を求めるには,低用量域での反応率0%の物質量を正確に求めることが重要である。
NST nutrition support team 栄養管理チーム
医師,薬剤師,看護師,栄養士,言語聴覚士などが夫々の専門知識と技術を提供,協力して,栄養状態の悪い患者さんに対して適切な栄養管理を実施するチームのこと。これにより全身状態の改善 , 合併症の予防 , 早期退院,社会復帰援助,QOL 向上,医療費抑制が期待できる。
NST Non-Stress Test
子宮収縮等のストレスを胎児に付加することなく,分娩監視装置により,胎児心拍数,子宮収縮ならびに妊婦胎動自覚を記録し,正常胎児では胎動によって心拍数の増加を認めるが,何らかの原因で心拍数増加が減少・消失することを利用した検査。
NUD Non Ulcer Dyspepsia
内視鏡検査等で潰瘍や癌などの器質的疾患が認められないが,上腹部や胸骨後部の痛み,胸やけ,悪心,嘔吐などの上部消化管に起因する症状(上腹部愁訴,Dyspepsia)を示す症候群。当初の分類から機能性胃腸症(Functional dyspepsia:FD, 上腹部愁訴があってもそれを説明できる内視鏡所見,生化学所見が同定できない症状群)と胃食道逆流症(GERD)が分離され,運動不全型・潰瘍症状型・非特異型の3タイプに分類されている。我が国では運動不全型が多い。
O-157
病原性大腸菌の1種で,感染した場合,菌体内毒素ベロトキシンにより,出血性大腸炎及び溶血性尿毒症症候群(HUS)が起こり,死に至ることもある。O-157の感染力は非常に強く, 糞便や糞便で汚染された水 , 食物を介して人の口に入り起こる。潜伏期は4~8日と他の食中毒菌と比べて長い。日本では1996年学童を中心に全国的に集団発生を起こした。
→溶血性尿毒症症候群
OAB overactive Bladder 過活動膀胱
膀胱の不随意の収縮による尿意切迫感を伴う排尿障害。病因に基づき,神経因性 OAB(脳血管障害,パーキンソン病 , 脊髄損傷などによる)と非神経因性 OAB(骨盤底筋のトラブル,前立腺肥大などによる)に大別される。
OTC(医薬品) Over The Counter Medicine 非処方箋薬
一般の薬局・薬店等で,患者が処方箋なしに購入できる医薬品のことで,薬局のカウンター越しに販売されることから,OTC 医薬品と呼ばれている。医療用医薬品が一定期間臨床で使われ,安全性が確認された後に同じまま処方箋なしで販売される医薬品を「スイッチ OTC 医薬品」と呼ぶ。なお,OTC 医薬品は使用方法の難しさ,相互作用,副作用などの観点から要指導医薬品および第1類~第3類医薬品に分類され,対応する専門家や情報提供の方法などが決められている。要指導医薬品と第1類医薬品は薬剤師による対面販売と書面による情報提供が義務づけられている。
P~T
P- 糖タンパク質 P-glycoprotein
癌細胞の膜上などに発現し,細胞内に取り込まれた抗癌剤などを能動輸送により細胞外へ排出させる機能を有する糖タンパク質である。そのポンプ作用は抗癌薬に対する選択性が低いため,構造・作用機序の異なる多くの抗癌薬が同じように排出され癌細胞は耐性を獲得する。P- 糖タンパク質が,癌細胞の多剤耐性における中心的機能を担うと考えられている。
P450
シトクロム P450(Cytochrome P450)の略称であり,ヒトをはじめほとんどすべての生物に存在する酸化酵素で,約500のアミノ酸残基からなり,活性部位にヘムを持つ。還元状態で活性部位のヘムと一酸化炭素が結合して450nm に吸収極大を示す色素という意味でシトクロム P450(P450)と命名された。電子転移によってヘム補欠分子の中心鉄分子の原子価が(+2)と(+3)の酸化状態の間を可逆的に変化する作用機序を持つ。基質特異性の異なる複数の分子種からなり,全生物では700種類以上,ヒトでは50種類程度の分子種が報告されている。薬物(異物)代謝型のシトクロム P450の基質は脂溶性で , 蓄積すると毒になるものが多い。
PAE Post Antibiotic Effect 抗生物質有効濃度後効果
抗菌薬が MIC 以上の濃度で細菌に接触後,血中や組織中からその薬剤が消失しても細菌の増殖がある一定期間持続する増殖抑制効果。
→time above MIC
PAF Platelet Activating Factor 血小板活性化因子
細胞膜リン脂質から生成されるアルキル型リン脂質で,アレルギー,炎症などのメディエーターとして様々な疾患に関与する物質。PAF は好塩基球,肥満細胞,単球・マクロファージ,好中球,好酸球,血管内皮細胞,血小板など,広範な細胞から放出される。血小板凝集作用,血管透過性亢進作用(ヒスタミンより強力),平滑筋収縮作用(気管支収縮,回腸収縮),白血球浸潤作用,好酸球の遊走作用,血圧降下作用がある。PAF は,好中球,好塩基球,損傷組織,単球 / マクロファージ,血小板,血管内皮細胞を含む様々な細胞種による特異的な刺激に応答して産生される。
PBPM Protocol Based Pharmacotherapy Management
薬剤師に認められている現行法の業務の中で,医師と合意したプロトコールに従って薬剤師が主体的に実施する業務を行うこと。これにより,薬剤師の専門能力に基づく薬物治療の高度化や安全性確保,医師の業務負担軽減などが期待できる。
PDE Phosphodiesterase ホスホジエステラーゼ
細胞内セカンドメッセンジャーであるサイクリック AMP(cAMP)およびサイクリック GMP(cGMP)を分解しそれぞれ5’-AMP,5’-GMP とする酵素。cAMP,cGMP のシグナル伝達を調節しており,哺乳類では11種類のファミリーを形成している。
PDT PhotoDynamic Therapy 光線力学的療法
単にレーザー治療と呼ばれることもある。生体内に光感受性物質(光増感剤)を注入し,標的となる生体組織にある波長の光を照射して光感受性物質から活性酸素を生じ,これによって癌や感染症などの病巣を治療する治療法。①腫瘍親和性光感受性薬剤を静脈注射②腫瘍組織と正常組織における薬剤濃度差が最大となった時点でレーザー光を照射③レーザー光により,腫瘍に取り込まれた薬剤が励起され,組織中に活性酸素を生成し,この活性酸素の殺細胞性によって腫瘍細胞を壊死させる,などの治療法がある。
→活性酸素
P-drug Personal drug
処方医が使用する基本的な治療薬剤を,自分自身で臨床経験から有効性,安全性,適合性,費用の4項目のクライテリア(基準)に沿って,吟味,熟知した上で事前に選択しリストした医薬品のこと。医師の裁量で個々の患者に対しては P-drug の適合性を確認しながら処方して薬物治療を行う。
PEIT Percutaneous Ethanol Injection Therapy 経皮的エタノール注入療法
肝細胞癌の治療に用いられ,超音波画像を見ながら腫瘍内に直接エタノールを注入し,蛋白凝固作用によって癌細胞を凝固壊死させる治療法で,症例によっては肝切除とほぼ同等の治療効果が得られる。エタノールの注入量は腫瘍径により異なるが,通常2~6mL,週2回で計4~6回前後施行する。副作用としては注入時の一過性の疼痛,酩酊感,発熱などがあるが,肝機能への影響は軽度で一過性である。
PEM Prescription Event Monitoring 処方イベントモニタリング
医薬品の安全性を高めるために,医薬品の使用後に起こったさまざまな変化や症状をまとめて記録すること。PEM は,医薬品との因果関係などを考慮せず,薬を使用して起こったさまざまなイベント(事象,出来事),例えば患者の訴え,合併した疾患,臨床検査データなどの情報を収集し,これら集められたイベントを分析,評価することで新たな副作用を発見しようとするもの。PK/PD
→薬物体内速度論,薬物動力学,ADME
PET positron emission tomography ポジトロン断層法
陽電子(ポジトロン)検出を利用したコンピューター断層撮影技術。陽電子(ポジトロン)を出す放射性同位元素でマーキングした放射性薬剤を投与して体内集積度を3次元的に再構成して診断する技術である。CT や MRI は組織の形態を観察するための検査法であるのに対し,PETは臓器の生理的・生化学的機能を確認できる。例えば腫瘍細胞はブドウ糖代謝が盛んであるため,放射性フルデオキシグルコース(18F-FDG)注射液の投与により,18F-FDG はグルコースと同様にグルコーストランスポーターにより細胞に取り込まれ,ヘキソキナーゼによりリン酸化を受けるが,グルコースと異なり解糖系の酵素であるホスホグルコースイソメラーゼによるフルクトースへの異性化反応を受けないことから腫瘍細胞に多く集積する。PET により18F-FDG の分布を解析することで腫瘍部位がわかるだけでなく,病巣の大きさや進行度などが評価できる。
PL法 Product Liability 製造物責任法
日本においては1995年7月1日に施行された「製造物の欠陥により他人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を製造業者等が賠償する制度である。」(製造物責任法第3条)。医療機関において薬剤師の行う調剤行為は「医療サービスの一環」としてみなされ,PL 法の対象とはならないと考えられている。
PMS Post Marketing Surveillance 市販後調査
販売された医薬品の有効性・安全性の確認と,市販前の治験で得られなかった新たな作用・副作用に関する情報収集のために行われる調査のこと。新薬発売後に医薬品製造業者が行う調査でGPSP(Good Post-marketing Study Practice:製造販売後調査・試験の実施の基準)に基づく製造販売後調査・試験と GVP(Good Vigilance Practice:製造販売後安全管理の基準)に基づく安全性確保業務をいう。市販後調査の実施は,医薬品製造業者に対して義務づけられて3つの制度(再審査制度,再評価制度,副作用・感染症報告制度)によって成り立っている。
1.再審査制度:新医薬品について承認後一定期間,市販後の安全監測の一環として製造販売後調査等を実施して,有効性,安全性等に関する情報を収集して,医薬品の日常診療下での有用性を再確認することを目的とした制度。
2.再評価制度:既に承認されている医薬品について,現時点の医学・薬学等の学問水準に照らして,品質,有効性及び安全性を確認する制度。再評価制度には,有効性・安全性等を再評価する薬効再評価と,品質(溶出性)を再評価する品質再評価がある。
3.副作用・感染症報告制度:個別の症例に関し,発生毎に製造販売業社(製薬企業),医療機関・薬局から副作用及び感染症を報告する制度。
POMR Problem Oriented Medical Record
問題志向型システム(POS)に基づく問題志向型診療記録のことであり,4つの項目によって構成される。①基礎データ(患者プロフィール・病歴・診察所見・検査データ・系統別病歴)②問題リスト(患者の問題点の箇条書き・問題の解決状況) ③初期計画(診断計画・治療計画・教育計画の立案) ④経過記録。
→POS
POS Problem Oriented System 問題志向型システム
患者の抱える問題(Problem)に目を向け(Orient),解決していくシステムである。問題を取り上げ,分析・総合・計画・実行するためのシステムである。
PRSP Penicillin Resistant Streptococcus Pneumoniae ペニシリン耐性肺炎球菌
肺炎球菌や化膿連鎖球菌などグラム陽性球菌に有効な抗生物質であるペニシリンに耐性を獲得した肺炎球菌である。近年,世界的に検出され,すべてのβラクタム剤に比較的高い耐性率を示すことで問題となっている。ペニシリンに対する耐性度によりペニシリン低感受性菌(PISP)とペニシリン耐性菌(PRSP)に区別される。
→MRSA
PTCA Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty 経皮的冠状動脈形成術
動脈硬化により細くなった冠動脈にバルーン(風船)カテーテルを入れ,それを膨らませて狭窄部を拡張する治療法である。開胸する必要がないので患者の精神的・肉体的苦痛が少ない。しかし,PTCA 後の再狭窄率は20~40%と言われている。
PTSD Post-Traumatic Stress Disorder 心的外傷後ストレス障害
命の危険を感じたり,自分ではどうしようもない圧倒的な強い力に支配されたりといった,強い恐怖感を伴う強烈なショック体験(心的外傷またはトラウマ)が原因で,著しい苦痛や,生活機能の障害をもたらしているストレス障害である。
→パニックディスオーダー
PVC polyvinyl chloride ポリ塩化ビニル
塩化ビニルの単独重合あるいは酢酸ビニルなどとの共重合により得られる高分子化合物であり,酸に強く,アルカリに弱い。可塑剤(軟化させる)や安定剤(劣化を防ぐ)を加えてプラスチック製品として多くの分野で利用されている。医療関係では,カテーテル,点滴チューブ,血液バッグ,輸液容器などに PVC を用いたものがある。PVC 製の輸液容器や輸液セットを用いたとき,ニトログリセリン,イソソルビドなどの医薬品が吸着し,含量低下を起こす。また,脂肪乳剤,エトポシドなどでは,可塑剤として DEHP〔di-(2-ethylhexyl)phthalate; フタル酸ジ -(2- エチルヘキシル)〕を含む PVC 製の輸液セット等を使用した場合,DEHP が製剤中に溶出することも知られている。DEHP は,環境ホルモンの一種であり,生殖と発育に悪影響を及ぼすといわれている。
→環境ホルモン;DEHP
QOL Quality Of Life
主に「生活の質」「生存の快適度」等と訳されている。1960~70年に癌末期患者の治療のあり方への反省から,QOL が医療の目指すべき目標として表現されてきた。治療目標に QOL を取り入れる疾患には,悪性腫瘍・高血圧・関節リウマチ・腎透析等の慢性疾患がある。
→ファーマシューティカルケア
QT 延長
心電図における QT 時間が延長すること。QT 時間は,QRS の始めから T の終わりまでの時間で,心室の興奮が始まってから消えるまでの電気的心室収縮時間を表す。心筋障害(心筋炎,心筋虚血)・低カルシウム血症・キニジン中毒等で延長する。
→TdP
R ゾーン方式(リーズナブルゾーン方式) Reasonable zone method
日本製薬団体連合会等により提案された薬価算定方式で,現行の加重平均値一定価格幅方式に相当する。医薬品取引において取引数量の多少・取引包装の大小・支払条件の差異等から生じる価格差及び医薬品の保管・管理に伴って発生する費用等を包含したものを一定の範囲(Rゾーン)とし,薬価基準より一定の範囲内に医薬品取引の加重平均価がある場合は薬価を据え置き,それを越える場合はその超えた部分だけ薬価を引き下げる方式である。
RMP Risk Management Plan 医薬品リスク管理計画
医薬品リスク管理計画(以下,RMP)は,医薬品の開発から市販後まで一貫したリスク管理をひとつの文書に分かり易くまとめ,調査・試験やリスクを低減するための取り組みの進捗に合わせて,または,定期的に確実に評価が行われるようにするもの。
個別の医薬品ごとに,(1)重要な関連性が明らか,又は疑われる副作用や不足情報(安全性検討事項),(2)市販後に実施される情報収集活動(医薬品安全性監視活動),(3)医療関係者への情報提供や使用条件の設定等の医薬品のリスクを低減するための取り組み(リスク最小化活動)がまとめられている。
Rp Recipe
処方箋の筆頭に記載される言葉で「処方」「処方せよ」「受け取れ」の意味があると言われている。接頭語の「re-」+ラテン語の「capere」(受け取る)を語源としている。
RRR Relative Risk Reduction 相対リスク減少率
対照群に対して,治療によって何%イベント発生率が低下したかを示す割合。1- RR(相対危険率:治療群のイベント発生率/対照群のイベント発生率)で求められる。治療効果の差をわかりやすく示すために用いられる
SAE Serious Adverse Event 重篤な有害事象
投与量に関わらず,医薬品(治験薬を含む)が投与された際に生じた,あらゆる好ましくない医療上の出来事(有害事象)のうち,1)死亡に至もの 2)生命を脅かすもの 3)治療のため入院または入院 / 加療期間の延長が必要なもの 4)永続的または重大な障害 / 機能不全に陥るもの 5)先天異常をきたすものを言う。
→AE
SAH subarachnoid hemorrhages クモくも膜下出血
くも膜下出血は,くも膜下腔への突然の出血。自然出血の原因で最も頻度が高いものは動脈瘤破裂である。症状としては突然の重度の頭痛などがあり,通常は意識消失または意識障害を伴う。
SARS severe acute respiratory syndrome 重症急性呼吸器症候群
SARS コロナウイルスの感染による重症急性呼吸器疾患。2002年末より中国で発症例が報告され多くは2~7日,最大10日間の潜伏期間の後に,急激な発熱,咳,全身倦怠,筋肉痛などのインフルエンザ様の前駆症状が現れる。2~数日間で呼吸困難,乾性咳嗽,低酸素血症などの下気道炎症が現れ,胸部CT,X線写真などで肺炎像が出現する。肺炎になった者の80~90%が1週間程度で回復傾向になるが,10~20%が呼吸窮迫症候群を起こし,人工呼吸器などを必要とするほど重症となる。致死率は10%前後で,高齢者の致死率はより高くなる。平成15年7月5日,WHO が最後の SARS 伝播確認地域である台湾の指定を解除し終息を宣言。終息宣言までに感染者数8,098名,死者774名が発生。この期間の日本における発症例はない。
SAS Sleep Apnea Syndrome 睡眠時無呼吸症候群
いびき,特に無呼吸後の猛烈ないびき,昼間の強い眠気,熟睡感がない,起床時の頭痛などの症状を訴え,睡眠中に頻発する呼吸停止(無呼吸)を特徴とする疾患。無呼吸が続くことで身体に負担がかかり不整脈,心筋梗塞,脳梗塞などを起こしやすくなる。また,交感神経の緊張状態が続き自律神経が乱れることにより,動脈硬化,糖尿病,高血圧症などの合併症を発症すると言われる。さらに,昼間の眠気による事故に関係することから社会的な問題ともなっている。
SBA Summary Basis of Approval 新医薬品承認審査概要
新医薬品適性使用の推進等の為,個々の新医薬品について,中央薬事審議会における審議内容を厚生労働省が取りまとめた概要。具体的には,承認の根拠となった治験データや厚生労省の審査概要,薬の副作用などが記載される。
SBP sastolic blood pressure 収縮期血圧
心臓が収縮して押し出された血液によって大動脈の血管壁に圧力がかかった時の血圧。これに対し心臓が拡張し,大動脈の血液量が減り血管にかかる圧は低下した時の血圧を拡張期血圧(DBP: diastolic blood pressure)という。
Scr Serum Creatininne 血清クレアチニン
筋肉に含まれるたんぱく質。本来は尿素窒素と同様に糸球体でろ過され尿中に排泄されるが,腎臓の機能が低下すると尿中に排泄される量が減少し,血液中にクレアチニンがたまりることによって血清クレアチニンの値は高くなる。
SCU stroke care unit 脳卒中ケアユニット
脳卒中集中治療室 脳卒中の専門医師(脳神経外科医,神経内科医),看護師,リハビリスタッフ(理学療法士,作業療法士,言語聴覚士)などの複数の医療専門職で構成される脳卒中専門チームが,脳卒中の患者に対して急性期から回復期リハビリテーションまで集中的に治療を行う病棟
SDV Source Document Verification(あるいは Source Date Verification)
治験の評価において重要な記録や報告を,医療機関が保存するカルテなどの原資料を直接閲覧することによって照合し,確認すること。治験の信頼性を確立する上で欠かせない重要なモニタリング作業の一環。
SIADH Syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone 抗利尿ホルモン過剰分泌症候群
抗利尿ホルモン(ADH;バソプレシンと同義)が異常に産生され,低ナトリウム血症を来す疾患である。 原因として,呼吸器疾患,頭蓋内疾患,悪性腫瘍もしくは異所性バソプレシン産生腫瘍や薬剤性がある。
SIDS Sudden Infant Death Syndrome 乳幼児突然死症候群
健康状態・既往歴からその死亡が予測できず,しかも死亡状況・剖検によってもその原因が不詳であり,乳幼児に突然の死をもたらす症候群。窒息等の事故によるものとは異なり,原因は呼吸器・中枢神経・循環器系の異常によるものと指摘されるが,決定的原因は不明。危険因子として,うつ伏せ寝・人工栄養・保護者の喫煙習慣等があげられている。
SMO Site Management Organization 治験施設支援機関
医療機関で実施する治験の管理あるいは業務を支援する組織。CRO と異なり,医療機関(治験実施施設)側の立場で業務を行うのが特徴。
SNRI Serotonin-Noradrenaline Reuptake Inhibitor セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
セロトニン神経系とノルアドレナリン神経系の双方に対して再取り込み阻害作用を持ち,他の受容体に対する阻害作用を持たない。このため,SSRI と同様三環系抗うつ薬に比べて副作用の発症頻度が低い。
SOAP
薬剤管理指導記録等に個々の問題点の経過状況を記載する際の形式で,以下の4項目より構成されている。S(Subjective);患者が提供する主観的な情報,O(Objective);客観的な情報,
A(Assessment);S と O の情報を解釈・分析・評価する,P(Plan);指導計画。
→POS
SOD Superoxide Dismutase 活性酸素分解酵素
生体内で発生する活性酸素やフリーラジカルを消去し,細胞障害を防ぐ酵素の1種である。このような予防的抗酸化作用を有するものはカタラーゼ・グルタチオンペルオキシダーゼ・ビタミン C や E 等がある。
→活性酸素
SOP Standard Operating Procedures 標準業務手順書
治験の依頼に係る治験実施計画書の作成,実施医療機関および治験責任医師の選定,治験薬概要書の作成などの業務,および治験の管理に係る治験薬の管理,副作用情報等の収集,モニタリングおよび監査の実施,記録の保存などの業務についての標準的な手順書のことをいう。
SP 包装 strip package SP 包装
ストリップ包装と呼ばれ,アルミ箔あるいはセロファンに低密度ポリエチレンなどの熱可塑性高分子フィルムを重ねたラミネートフィルムで作られたヒートシール型の包装形態のこと。散剤や顆粒剤の分包品は主として SP 包装されている。現在,錠剤はほとんどが PTP 包装(press through package) であるが SP 包装が用いられることがある。
SPO2Okygen Saturation of Arterial Blood Measured by Pulse Oximeter 経皮的動脈血酸素飽和度
パルスオキシメーターで測定した経皮的酸素飽和度。動脈の赤血球中のヘモグロビンが酸素と結合している割合をパーセンテージで示したもの。正常値は96~99%。
SSRI Selective Serotonin Reuptake Inhibitor 選択的セロトニン再取り込み阻害薬
SSRI は選択的にセロトニンのみの選択的な再取込みを阻害する抗うつ薬。従来の非選択的な薬剤は,抗コリン作用や抗ヒスタミン作用による副作用(口渇・排尿困難・眠気等)があり,大量投与では心毒性もみられるが,SSRI ではこれら副作用が少ない。
SSI surgical site infection 手術部位感染
手術に直接関連して発生する術野の感染。CDC(米国疾病予防管理センター)がサーベイランスに用いるために作成した用語。そのため,サーベイランス用の疾患定義を伴う。術後30日以内で皮膚からの深さにより表層切開創,深部切開創,臓器 / 体腔の3種類に分かれる。
TAA Thoracic aortic aneurysm 胸部大動脈瘤
心臓から出る一番太い血管である大動脈が膨らんだ状態。未破裂の状態では症状がほとんどなく,健診で発見される場合が多いが,治療しないまま放置し大動脈瘤破裂を起こすと致命的となる。
TAE Transcatheter Arterial Embolization 肝動脈塞栓術
腫瘍の栄養血管に選択的に血管カテーテルを挿入し,塞栓物質を注入し,阻血による壊死効果に加え,抗癌薬を長時間高濃度に腫瘍部位に停滞させ腫瘍の壊死を図る。塞栓物質としては,注入数日から数週間で吸収される長期塞栓物質であるゼラチンスポンジが繁用される。更に油性造影剤であるリピオドールが注入されることが多い。
塞栓物質と抗がん薬を注入するのは TACE(Transcatherer Arterial Chemo-Embolizaitonn)という。
TDM Therapeutic Drug Monitoring 血中薬物濃度モニタリング
個々の患者に適した投与設計を行い,適正な薬物療法を行うために血中薬物濃度を監視することである。①薬物体内動態の把握②医薬品適正量投与③多剤併用の良否④中毒の早期発見⑤noncompliance の発見等で,適正な薬物療法が行える利点がある。対象薬剤には,治療有効域の狭い薬剤や中毒域と有効域が接近し,投与方法・投与量の管理の難しい薬剤があげられる。
TdP Torsades de Pointe s(トルサード・ド・ポアンツ/仏)
心室頻脈の1種で,QRS が基線を軸に捻れたように見え,頻脈に先行して QT 時間が異常に延長する。さらに,心室細動に移行し,急死の原因となることもある。原因は,薬剤性・電解質異常・中枢神経系障害・心筋疾患等があげられる。
TIA Transit Ischemic Attack 一過性脳虚血発作
脳局所の血流減少によって片麻痺などの局所症候が突然に出現し,短時間のうちに後遺症を残さず回復する発作をいう。症候の持続は便宜的に24時間以内とされているが,通常は2-15分以内である。発作は頻発することがある。出現する症候は閉塞動脈によって異なり,頸動脈系では一過性黒内障,片麻痺,半身感覚鈍麻,失語症などがみられ,椎骨脳底動脈系では,回転性めまい,複視,失調,嚥下障害,同名性半盲などがみられる。
Time above MIC
血中濃度が最小発育阻止濃度(MIC)以上を維持する時間。
ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系などの抗菌効果は time above MIC に依存している。これらの薬剤は,最小発育阻止濃度を超えていれば投与速度が遅い方が,また投与回数が多い方が効果が高いといわれている。
→PAE
TNF Tumor Necrosis Factor 腫瘍壊死因子
in vitro,in vivo で腫瘍細胞壊死を誘発する物質として発見され,主に活性化マクロファージやマイトジェン刺激したリンパ球等の細胞から産生されるサイトカインである。その作用は極めて多岐にわたり,生体防御反応や細胞機能の調節において重要な役割をはたしている。
TOF tetralogy of Fallot ファロー四徴症
(1)心室中隔欠損,(2)肺動脈狭窄,(3)大動脈騎乗,(4)右心室肥大の4つの特徴をもった先天性心疾患。全く関連のない4つの特徴がたまたま合わさったのではなく,胎児期に心臓が形作られる過程で 心臓の出口部分の大動脈と肺動脈の間のしきりと,それを支える右心室と左心室の間のしきりがねじれて,その間に心室中核欠損を生じてこの4つの特徴が派生してくると考えられている。
t-PA tissue-Plasminogen Activator 組織性プラスミノーゲンアクチベーター
プラスミノゲンの Arg-Val を切断してプラスミンに変換するプロテアーゼで,強力な血栓溶解作用を示す。ウロキナーゼやストレプトキナーゼに比べフィブリンに対する親和性が高く,フィブリン非存在下ではその活性は非常に低いため血栓を特異的に分解することができる。しかし,半減期は短く点滴静注する必要があり,大量投与を必要とし脳出血を起こすことがある。心筋梗塞と脳梗塞に適応のある製剤が市販されている。
T/P 比 Trough / Peak
降圧効果の Trough(最小降圧効果)と Peak(最大降圧効果)の比を表し,ある1回の投与効果の持続時間を予測するものである。一般に,ある1回投与の Trough 値の効果が Peak 値の50~70%に維持されていれば,適切な投与間隔であり,この投与間隔中の効果減弱が少なければ少ないほど投与間隔は適切となる。
TPN Total Parenteral Nutrition 完全静脈栄養法,中心静脈栄養法
各種疾患や術後で,経口又は経腸での栄養摂取が不可能となった場合,中心静脈に挿入したカテーテルを通してブドウ糖・アミノ酸を含む高張液,脂肪乳剤,ビタミン剤,微量元素等を含む栄養液を通常の消費エネルギーと同等あるいはそれ以上の熱量で経静脈的に投与することにより,栄養状態の改善を図る方法。
→HPN;IVH
TTS Transdermal Therapeutic System 経皮治療システム
薬物の投与部位として皮膚を用いる方法である。薬物貯蔵層と放出制御層の二層に分かれているものや高分子マトリックス中に薬物が分散しているもの等,種々の放出制御機構が取り入れられている。この製剤の特徴として①初回通過効果を受けない②連続投与や必要に応じて中断(剥離)することが可能で,使用性に優れる③胃腸を通過しないため,消化器の副作用が避けられる等,他の投与ルートに比べ利点が多い。
→アンテドラッグ;イオントフォレーシス;コントロールドリリース;持続性製剤;ターゲッティング療法;プロドラッグ;DDS
UA unstable angina 不安定狭心症
狭心症の中でも進行性で,特に急性心筋梗塞や突然死に移行する可能性が高い。具体的には一週間以内に出現した t 安静狭心症,もしくは2ヵ月以内に出現した CCS 分類 class ⅢあるいはⅣ の新規狭心症,あるいは CCS 分類が少なくとも class ⅢあるいはⅣに増悪した狭心症,異形狭心症,非 Q 波形成型心筋梗塞,発症24時間以後の梗塞後狭心症が含まれる。
VAP 人工呼吸関連肺炎 ventilator-associated Pneumonia
気管挿管に伴う合併症として発症する医原性肺炎である。主として,挿管チューブの外側を伝わって気管に流入する口腔内の病原微生物が原因とされている。
VISA vancomycin-intermediate Staphylococcus aureus バンコマイシン低感受性 MRSA
CLSI(Clinical Laboratory Standards Institute 臨床・検査標準協会)によって定められている薬剤感受性試験法と判定基準により,バンコマイシンの MIC 値が,8または16μg/ml と判定された MRSA 株。
VRE Vancomycin Resistant Enterococcus バンコマイシン耐性腸球菌
バンコマイシンに対する薬剤耐性を獲得した腸球菌(Enterococcus)。感染力は MRSA より弱いが(弱毒性)伝播力が非常に強い耐性菌である。腸球菌は腸管内の正常細菌叢であるが,時に腹腔内感染・尿路感染・心内膜炎・敗血症等を起こす。腸球菌感染に対しては,軽症ではペニシリン系(ABPC)を投与し,重症例・敗血症・心内膜炎等ではこれにゲンタマイシンを併用する方法が標準的治療法として用いられるが,VRE の多くは多剤耐性であり,現在は Linezolid,Quinupristin / Dalfopristin が認可されているが,耐性となった VRE がすでに海外で報告されており,慎重な使用が望まれている。
→院内感染;院内肺炎;感染経路別予防策;コンプロマイズドホスト;スタンダードプリコーション;日和見感染症;MDRP;MRSA
WADA World Anti-Doping Agency 世界ドーピング防止機構
反ドーピング活動を世界規模で推進するために1999年11月に設立された。禁止薬物リスト・検査・分析などの国際的なドーピング検査基準やドーピング違反の罰則規定の統一化を行うための国際的機関,ドーピング防止活動に関する教育・啓発活動等の目的としている。
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